研究課題/領域番号 |
22K03479
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13010:数理物理および物性基礎関連
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
白川 知功 国立研究開発法人理化学研究所, 計算科学研究センター, 上級研究員 (40571237)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | 変分量子アルゴリズム / テンソルネットワーク法 / 量子古典ハイブリッド計算 / 量子多体問題 / 量子アルゴリズム |
研究開始時の研究の概要 |
テンソルネットワーク法の知見を元に、量子多体問題を解くための方法として、アルゴリズムレベルでは少なくとも古典計算機の計算精度に匹敵する量子アルゴリズムを開発することで、量子アルゴリズムが実際の数値研究に役立つ道筋を確立する。特に、この問題達成のために、申請者らが開発している量子回路符号化法の多量子ビット化、固有値問題への適用方法、および、対称性の取り扱い方に関する方法論を確立し、数値実験によりその有用性を示す。
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研究実績の概要 |
任意に与えられた量子状態が出力状態となるような量子回路を構築する方法論の開発を行なった。特に、問題を最適化問題に帰着し、テンソルネットワークの最適化に用いられている特異値分解を利用した最適化法を採用することで、近似的に量子回路を構成する方法を考えた。この局所的なユニタリ演算子の最適化法は、回路構造を固定して順次更新していく方法(固定型)として適用可能であるが、良い結果を与えるユニタリ演算子の位置を選択的に採用していき回路を構築する方法(採択型)にも適用できる。そこで、これらの方法を、代表的な量子多体問題の基底状態について量子回路を生成する問題をベンチマークとして適用した。その結果、採択型の方法を用いると、場合によっては固定型よりもよい近似を与える回路を見つけることができることがわかった。また、これら二つの特異値分解を利用した方法は、従来用いられている勾配を用いる最適化法と比べて、より良い学習率を示すことを数値的に検証した。 精度をさらに改善する方法として、我々はマルチ量子ビットのユニタリ演算子に対する量子回路の構築法も開発した。我々は、マルチ量子ビットのユニタリ演算子に対して、それより少し小さなユニタリ演算子の積で分解する、という最適化操作を2量子ビットユニタリ演算子になるまで繰り返す階層的な最適化戦略を採用し、このベンチマーク計算を行った。その結果、Barren Plateau現象の影響をほとんど受けることなく、より確実に高精度な量子回路を構築できることがわかった。 さらに、ユニタリ演算子をマルチ量子ビットにしたことで、古典的なテンソルネットワーク法と同等の精度に到達することが可能となった。他方、特定のパラメータで可解となる問題の場合には、その可解な状態を参考にした量子回路の構造を設計することで、より少ない数の量子ゲート数で基底状態を構築できる例も発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究開発では、任意の配列データとして与えられた古典情報を量子回路で表し直すという、一般的な問題設定から出発し、これを近似的方法を用いて実現することを目指した。そこで、テンソルネットワーク法のアイデアを活用した最適化法を用いることで、従来の方法論よりもパフォーマンスの高い最適化法のフレームワークを構築することができた。特に、我々の近似的な手法は、精度に依存してゲート数を柔軟に変更できる面では、エラー訂正のない量子計算機の利用にも適している。また、量子多体問題に限らず、古典情報を量子回路へと変換する方法として、量子機械学習の入力情報の準備など、様々な問題へと適用可能なフレームワークとなっている。従って、当初の目標は達成できたと考えられる。 ただし、現在の実機を実際に利用することも含めた実用性を考えると、全体にかかる計算コストや、ゲート数を抜本的に少なくする必要があるなど、まだまだ改善が必要であることがわかってきた。他方、可解な問題の周辺の状態を量子回路として構築する場合には、問題に適したより制限の強い量子回路を設計することで、現在の実機上でも実行可能なゲート数にまで大幅に削減できることもわかった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、事前情報がない場合に適用可能な方法として、回路構造採択型の方法などアンバイアスで一般的に適用可能な方法を検討したが、表したい量子状態がより複雑な量子多体状態になると、回路構造固定型の方法に比べたパフォーマンスの向上はそこまで高くなかった。そこで、今後の方向性としては、量子多体状態の構造や対称性、エンタングルメント構造などを考慮して、回路構造に問題に適した制限をかけていくことで、扱うべき古典的な情報量の大幅な削減を行い、より効率的に古典情報を量子回路へと変換するための方法論について検討する。特に、特定のテンソルネットワークからより直接的に量子回路へと変換することで、より高速で高効率な変換方法についての探索を行う。さらに、本年度開発した古典情報を量子回路に変換する方法を一つの要素技術として、より様々な問題への応用も展開していく。
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