研究課題/領域番号 |
22K03481
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13020:半導体、光物性および原子物理関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
黒山 和幸 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (20861602)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2025年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2022年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
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キーワード | 量子ドット / スプリットリング共振器 / THz電磁波 / 強結合 / 半導体量子ドット / テラヘルツ光共振器 / テラヘルツ |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、GaAs半導体量子ドットに局在する電子とオンチップのテラヘルツ光共振器との間で実現する超強結合状態の物理を解明し、さらにそれを応用して、2つの空間的に離れた量子ドット間で共振器中の電磁波を介したコヒーレントな相互作用を実現する。メタマテリアル光共振器のトポロジカル効果を検討・導入し、量子ドット間の遠隔コヒーレント相互作用のさらなる長距離化を試みる。
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研究実績の概要 |
本研究は、GaAs半導体量子ドット中の電子とTHz帯域のオンチップスプリットリング共振器(SRR)との間で強結合状態を実現し、さらに、共振器を介して2つの量子ドットを結合することで、離れた量子ドット間の遠隔コヒーレント結合することを目的としている。2023年度は、これまでの研究で明らかになっていた量子ドット-SRR結合系試料の構造に関する幾つかの問題点を解決するために、新しい試料構造の量子ドット試料をデザインし、その試料作製方法を確立した。半導体基板の構造やエッチング加工の形状を試行錯誤することによって、低温環境下で高い安定性を持つ量子ドット-SRRの結合系試料を作製することに成功した。さらに、量子ドットのTHz電磁波に対する光電流の分光測定を行った結果、量子ドットを形成したときにだけ、電子とSRRの結合を示す反交差信号が現れることが分かってきた。まだ信号があまり明瞭とは言えないが、恐らく目的としている量子ドット中の電子とSRRの強結合状態を観測していると思われる。 また、量子ドットの遠隔コヒーレント結合を実現するために、SRRで構成されるオンチップ導波路を用いることを計画してる。それにあたり、SRRの二量体配列で誘起される、SSHモデルに基づくトポロジカル効果を導入する。SSRの二量体配列においては、トポロジカル効果により、配列の両端に交流電場が局在する、トポロジカル端状態が現れる。両端の端状態が配列の真ん中で有限な重なりを持つことで、配列の両端の間で電場の長距離伝送が可能になると考えている。そこで、SRR二量体配列単体をTHz帯域の電磁波で励起し、その時に配列に現れる電場の空間分布を観察する実験を行った。SRR二量体の応答が観測され、さらにトポロジカル端状態の形成を示唆する振る舞いも観測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度までに、2次元電子層を蓄積したGaAs半導体ヘテロ構造基板の上にSRRを作製し、さらにその近傍に量子ドットを形成することで、量子ドットの中に捕捉された電子とSRRとの間に強結合状態が現れることを実験的に確かめた。しかし、その実験の中で明らかになった課題として、オンチップのSRRの下に2次元電子が存在するために、共振器の構造に起因した2次元プラズモンが励起されてしまい、量子ドットの電子の励起信号との区別が困難であった。また、量子ドットの電子励起がSRRに結合しているだけではなく、周りの2次元電子集団が同一のSRRに同時に結合していたことが、強結合を示す反交差信号の解釈を難しくしていた。そこで、2023年度は、この2点の問題を解決すべく、量子ドットとTHz-SRRのみの結合状態を実現するための試料作製を行った。SRRの周りに存在する2次元電子層をエッチングにより取り除き、量子ドットの近傍にだけ2次元電子層が残る試料構造を考案した。この試料を極低温でTHz分光測定した結果、プラズモンの信号や、2次元電子と共振器の結合が予想通り消失することが分かった。量子ドットとSRRの結合状態も観測されつつあり、今後も実験を継続する。 また、SRR二量体配列におけるトポロジカル効果の観測を試みる実験も行った。京都大学田中耕一郎教授の研究室との共同研究で、LiNbO3基板上に作製したSRRのトポロジカル配列試料をTHz電磁波でパルス励起し、配列内の電場応答を時間領域で観測する実験を行った。個々のSRRの応答のみではなく、SRR二量体の電場応答が明瞭に観測された。さらに、フーリエ解析により周波数応答も確認した結果、配列の中心付近と端において共鳴周波数が異なっていることが明らかになった。この共鳴周波数の違いは、SSHモデルから予想されるトポロジカル端状態を実現していることを示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
量子ドット-SRR結合系試料に関しては、現在取り組んでいる極低温環境下でのTHz分光測定を継続する。量子ドットのゲート電圧やソースドレインバイアス電圧などの電気的条件に関して、ドットの光電流スペクトルを系統的に測定する。それにより、量子ドットとSRRの結合状態が、量子ドットの閉じ込め強さや、ソースドレイン電極とのトンネル結合強度に関してどのような依存性を持つのか調べ、量子ドット-SRR結合系の微視的機構を理解する。また、ドットの光電流の測定では、ドットの電子数を正確に評価することが難しいことも、これまでの実験で明らかになってきた。そのため、量子ポイントコンタクトなどで構成される電荷計を導入する必要があると考えており、今後、電荷計を形成した量子ドット-SRR結合系試料の作製およびTHz分光測定も行っていくことを検討する。 また、LiNbO3基板を用いたSRR二量体配列のトポロジカル効果に関する実験も、配列の試料構造や基板構造を変更することで、トポロジカル端状態をより明瞭に観測することを目指す。特に、今回実験に用いたLiNbO3基板はサファイア基板上のLiNbO3層をTHz電場が伝搬・散逸してしまうために、共振器の共鳴ピークが広がってしまい、バルク状態と端状態の共鳴周波数の違いがあまり明瞭ではなかった。その改善策として、LiNbO3層の厚さを小さくすることにより、THz電場の散逸を抑えることができる。現在、LiNbO3層の薄い基板に新しい試料の作製を行っており、2024年度中にSRR二量体配列上のTHz電場の空間分布を観測する実験を再度試みる予定である。
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