研究課題/領域番号 |
22K03483
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13020:半導体、光物性および原子物理関連
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
神原 浩 信州大学, 学術研究院教育学系, 准教授 (00313198)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2025年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
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キーワード | 水素吸蔵金属 / 界面電気抵抗 / バルク・界面同時測定 / 水素拡散 / パラジウム |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では,水素雰囲気下における水素吸蔵金属(特にパラジウム)と水素の相互作用を高感度の電気伝導測定により研究する。表面/界面敏感の手法とバルク敏感の手法は本来それぞれに特化した別ものであるが,本研究では水素吸蔵金属-金属電極間の界面抵抗とバルク抵抗を同時に同一サンプルでハイブリッド測定する新しい手法を適用する。水素雰囲気下において界面に吸着した水素とバルク内に吸蔵された水素が互いに及ぼす影響を電気抵抗の時間変化から検出し,界面からバルク内部に至る連続的な水素挙動を時間相関に着目し解明する。
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研究実績の概要 |
本研究では,水素雰囲気下における水素吸蔵金属(ここではパラジウム)と水素の相互作用を高感度の電気伝導測定をプローブとし,水素吸蔵金属の内部(バルク)と界面に注目して研究を行っている。本来別物の,表面/界面敏感とバルク敏感の手法を,本研究ではハイブリッドとし,水素吸蔵金属-金属電極間の界面抵抗を3端子法で,バルク抵抗を4端子法で測定する際,電流端子の一つを共通にすることで,同時に同一サンプルで界面抵抗とバルク抵抗を測定可能としている。電極端子は導電性銀エポキシを用いた。水素吸蔵・放出時の過程において,それぞれの電気抵抗の時間変化から,互いの時間相関に着目することで,表面/界面とバルクを「つなぐ」新たな視点が生まれる。 これまでの研究で明らかになったことは,温度20℃に固定した実験で,(1)水素吸蔵時,バルク抵抗は直ちに上昇してくるが,界面抵抗は同時には上昇せず,バルク抵抗の時間変化が緩やかになるころに遅れて急激に上昇すること。(2)真空引き下の水素放出時においては,バルク抵抗は,水素導入前の値まで緩やかに減少する一方,界面抵抗は水素導入後に上昇した値からはほぼ時間変化のない一定の値を示す。ということであった。また,バルク抵抗の時間変化から,水素吸蔵時間の水素導入圧力依存性,パラジウム板厚依存性の測定によって,本研究では水素の出入りは界面で律速となっていることが分かった。水素導入により界面抵抗が遅れて上昇する原因について,実験条件を変えながら現在研究を進めている。最近得られたデータからは,界面抵抗が遅れて上昇する理由として,パラジウム-水素合金の水素高濃度相への転移に伴うパラジウムの体積膨張により,銀電極とパラジウムとの接触面積が小さくなり,界面抵抗が上昇していることが考えられる。引き続き,水素吸蔵金属界面へ水素が及ぼす影響について考察を深めていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに,まず温度を20℃に固定し,水素導入圧力(20-100 kPa)とパラジウム板厚(0.1-0.025 mm)を変化させて,パラジウム-銀電極界面抵抗とバルクパラジウム抵抗の同時時間変化を調べたところ,(1)水素吸蔵時,バルク抵抗は直ちに反応し,連続的に上昇する一方,界面抵抗はバルク抵抗がほぼ平衡値に達するまで大きな変化を示さず,遅れて急激に上昇すること。(2)真空引き下の水素放出時においては,バルク抵抗は,水素導入前の値まで連続的に緩やかに減少する一方,界面抵抗は上昇した値からはほぼ時間変化しないことを見出した。また,バルク抵抗の時間変化に着目すると,水素吸蔵時間の水素導入圧力依存性,パラジウム板厚依存性の測定から,水素の出入りは界面で律速となっていることが分かった。界面の抵抗変化がバルクと時間差を生じる原因を追究するため,水素導入を一気に行わず,時間をかけて少しずつ止めながら圧力増加させていくと,界面抵抗は確かに遅れて上昇するが,バルク抵抗が平衡値に達する前からも変化を始め,非常に長い時間をかけて上昇する様子を最近観測した。これまでの実験では,水素圧力を一気にかけていたために,あるしきい値を超えて強制的に急激な界面抵抗の上昇が起きていたものと考えられる。界面抵抗の上昇が,水素高濃度相への転移に伴うパラジウムの体積膨張による界面での電極の接触状態の変化によるものと考えれば,バルクとの時間差が生じることはあり得ると考えられる。また,温度を約40℃より高温にすると,20℃では大きく観測されていた界面抵抗の上昇が小さくなるだけでなく,時間とともに徐々に減少し,十分な時間がたてば元の界面抵抗値よりも小さくなってくることも最近分かってきた。この現象は参照物質のヘリウム雰囲気下では起きないことから,吸蔵された水素が約40℃以上で界面抵抗の減少に寄与していることが分かる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては,まず,パラジウム-銀電極界面の電気抵抗の水素応答が,バルク抵抗よりも遅れて生じる起源について明らかにしたい。本年度末に新たに得られたデータから,水素導入による界面抵抗の上昇は,パラジウム-水素合金の水素高濃度相への転移によるパラジウムの体積膨張の可能性が高いと考えられるが,それを確かめることが目標となる。方法としては,水素導入を細かい増量で刻み,十分時間をとってバルク抵抗の平衡値を確認しながら,それに対応する界面抵抗の応答を測定していく。水素低濃度相から高濃度相への変化はバルク抵抗の増大幅が大きく変化するところに対応すると考えられるため,その間の水素導入圧力を制御することで界面抵抗の応答の起源を考察する。平衡水素圧-水素濃度の相図に対応する,平衡水素圧-バルク抵抗のプロット図を作成し,それに合わせて界面抵抗もプロットする。また,同様に本年度末に得られたデータから,約40℃以上の温度になると,水素導入により界面抵抗が減少することも新たに分かってきたので,先述の水素導入圧力制御の実験で温度依存性も加えた,平衡水素圧-バルク抵抗・界面抵抗-温度の全体図から俯瞰的に考察する。高温で水素が界面抵抗を減少させる様子を詳細に調べ,そのメカニズムについて考察を深める。またこれまでは,電極の材質として銀エポキシを使用していたが,本年度末に金スパッタ装置が導入されたので,新たに金スパッタ膜での電極作製を試み,バルク抵抗と界面抵抗の水素応答の時間相関について,金スパッタ膜での実験も開始したい。
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