研究課題/領域番号 |
22K03503
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13030:磁性、超伝導および強相関系関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
福岡 脩平 北海道大学, 理学研究院, 助教 (80746561)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | Mott転移 / 磁気抵抗 / 強磁場 / NMR / 有機導体 / 熱測定 / 磁場誘起Mott転移 |
研究開始時の研究の概要 |
本計画では、λ型有機導体を対象に、そのMott境界近傍の物性の全様解明を目指す。具体的には、λ型有機導体のもつ(1)Mott境界が特異な磁性絶縁相と接している、(2)磁場により磁性絶縁相から金属相への絶縁体金属転移型のMott転移を示すという特徴に着目して研究を進める。研究方法として、元素置換により相図での位置を連続的に制御出来るという、λ型有機導体のもつ利点を最大限に活用し、Mott境界、磁場誘起Mott転移、磁場誘起金属相の検証を、常圧、定常磁場環境で実現する。これにより、従来物質では困難であったNMR測定や比熱測定によるMott境界近傍の物性の精査を実現し、物性解明に迫る。
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研究実績の概要 |
本研究計画はλ型有機導体で観測される磁場誘起絶縁体金属転移の起源解明とその要因と考えられるMott境界に隣接する絶縁相の磁気状態の解明を目指している。 まず初年度で取り組んだパルス磁場中での磁気抵抗測定については温度磁場相図の精査を進展させ、結果を論文にまとめて公表することが出来た。 磁場誘起絶縁体金属転移を理解するうえで重要となるMott境界に隣接する絶縁相の磁性について調査するため、温度圧力相図上でλ-(BETS)2GaCl4より負圧域に位置し、基底状態が絶縁体であるλ-(BEDT-STF)2GaCl4に対して圧力下13C NMR測定を行った。結果として、1.2 GPa付近にMott境界が存在し、基底状態が絶縁体から金属状態に変化することを確認した。絶縁相域においてスピン格子緩和率(1/T1)を測定したところ、およそ5 K以下で1/T1が減少する挙動を観測した。一方で、NMRスペクトル測定からは5 K以下で線幅及びナイトシフトから評価されるスピン磁化率が共に減少する振る舞いを観測した。これらの結果は絶縁相の磁気状態が一般的なMott絶縁体の系で観測される反強磁性状態ではなく、非磁性のような特異な状態であることを示唆する結果である。またこの結果は、初年度に観測した磁場誘起絶縁体金属転移の起源について、絶縁相と金属相の磁化の差が重要であるという議論と矛盾しない結果である。1.2GPa以上ではコリンハ則に従う挙動が観測され、1.6GPa程度でλ-(BETS)2GaCl4の常圧での挙動に漸近することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請段階で計画していた①Mott境界近傍での温度圧力相図の確立と②磁気抵抗測定による温度磁場相図の確立と磁場誘起Mott転移の精査はほぼ予定通りに研究を遂行し、当初目標としていた成果を得ることが出来たと考えている。①、②に対する研究結果については、論文1報が掲載決定済みで、2報が投稿準備段階にある。 現在は最後の課題である③磁性絶縁相と圧力誘起、磁場誘起金属相の精査と解明に取り組んでいる段階である。研究実績の概要にもまとめた通り、磁性絶縁相と圧力誘起金属相はλ-(BEDT-STF)2GaCl4の圧力下13C NMRから調査しており、非磁性的な挙動の観測に成功している。この結果についてもデータはほぼ出揃っており、最終年度中に論文にまとめられる予定である。 初年度においてMott転移、臨界終点、クロスオーバー領域の検証に超音波測定が非常に有効であることが分かった。そこで研究対象を広げて、アニオンに局在スピンを導入した系であるλ-(BETS)2FeCl4で観測される金属絶縁体転移の起源を超音波測定から調査することを新たに計画した。本年度では測定で必要となる混晶塩λ-(BETS)2GaxFe1-xCl4の合成に取り組み、いくつかの組成の大型試料を準備することが出来た。 研究計画段階で目標としていた成果が得られたこと、計画立案時に想定していなかった研究展開の可能性が見いだせたことから当初の計画以上に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きλ-(BEDT-STF)2GaCl4の圧力下測定からMott境界近傍の磁気状態の精査を進めるとともに、研究対象領域をMott境界から離れた絶縁相領域にまで拡大する。これまでにドナー置換体であるλ-(BEDT-TTF)2GaCl4,λ-(BEDSe-TTF)2GaCl4の研究から、λ型塩のMott境界から離れた領域では基底状態が反強磁性相であることが確認されている。この反強磁性相がMott境界で現れる特異な磁性相にどのように接続するかを調査する。具体的な手法として、アニオンに含まれるCl元素をBr元素に置換することで化学的負圧効果を得られることを利用する。λ-(BEDT-STF)2GaBrxCl4-xを合成し、負圧効果を与えることで反強磁性絶縁相が現れるか、またその境界領域での振る舞いについて13CNMR測定から調査する。 磁場誘起金属相については、強磁場NMR、比熱測定から調査する。具体的にはこれまでに決定してきたλ-(BETS)2GaBrxCl4-xの温度圧力相図、温度磁場相図に基づき、超伝導マグネットで実現可能な磁場領域で磁場誘起絶縁体金属転移を示す、Mott境界ごく近傍となる試料を合成する。この試料に対してNMR、比熱の磁場依存性を精査することで、磁場誘起金属相の性質、および磁場誘起転移の微視的起源の解明を目指す。 新たな研究展開として、λ-(BETS)2GaBrxCl4-x、λ-(BETS)2GaxFe1-xCl4に対して超音波測定を網羅的に行い、λ型塩のMott転移、局在スピンの導入により発現する金属絶縁体転移の解明を目指す。
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