研究課題/領域番号 |
22K03505
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13030:磁性、超伝導および強相関系関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
壁谷 典幸 東北大学, 理学研究科, 助教 (70633642)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
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キーワード | 希土類磁性 / フラストレーション / 量子スピン系 / スピン多量体 / 希土類磁性体 / 結晶場固有状態 / 磁気多量体形成 / クラスター多極子 / 強相関系物理 / 磁性 / 希土類 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、高い対称性をもつ結晶中に低い局所対称性の磁性サイトをもつ希土類化合物に注目した物質探索を行う。低対称な磁性サイトをもつ希土類化合物においては、異方的な擬スピン1/2状態であるクラマース二重項によって、交番磁場効果、強磁性的フラストレーション、多量体形成、大きな多極子形成などの、高対称な磁性サイトの化合物では生じ得ない現象が現れる。この研究を推進するために解決すべき困難である、結晶場固有状態の解析手法も提供する。
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研究実績の概要 |
本研究は比較的高対称な結晶構造(例えば、正方晶や六方晶)中の低対称磁性サイトの存在によって発現する、異方的磁気応答やスピン多量体形成等の特異な性質に注目し、それにより発現することが期待される、部分秩序状態や新奇な量子基底状態の探索を行うものである。本研究計画の第2年度に当たる本年度では、おおむね当初予定していた通りの計画遂行が達成された。主な成果として、幾何学的フラストレーション構造と低対称サイトの異方性に起因した部分秩序状態の発見および強磁性的スピン三量体秩序相内における複合自由度の発見が挙げられる。 前者の部分秩序状態においては、低対称サイトの異方性により有効的な空間変調磁場を生じさせることが可能であることを見出した。この空間変調磁場は原子スケールで変調されており、外部からの一様磁場印加方向を変えることでその変調振幅の制御が可能である。 後者のスピン三量体形成は、強く結合した三個の磁気モーメントがあたかも一つの粒子の様に振る舞う現象である。共同研究として行った磁気構造解析によりCe3Ag4Mg12の磁気構造はこのスピン三量体を要素とした特徴的ならせん構造になっていることを見出した。類似した磁気構造は同じ結晶構造をもつ化合物Gd3Ru4Al12でも見出されているが、本研究で発見されたスピン三量体の特徴は、疑スピン1/2を構成要素とし、かつ内部自由度をもつ三量体が形成されている点である。類似化合物を含めた今後の研究によりスピンの複合自由度に関する理解が進むことが期待される。 本研究計画の最終年度に当たる来年度にはこれらの成果を学術論文として発表するために必要な実験及び論文執筆を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの研究により、以下の低対称磁性サイトに起因した特異な性質に関する研究が進展した。 ・幾何学的フラストレーション構造をもつ正方晶化合物Ce2Pd2Pbおける、磁性を担うセリウムサイトの低対称性に起因した異方的な磁気応答を有効磁場として解釈できることを見出した。この有効磁場は空間的に振動した成分を持ち、その成分は磁場印加角度によって制御できることを実験的に示した。さらに、特定の方向に磁場を印加した際に半数のセリウムサイトのみが長距離的に秩序し、残りの半分が非磁性状態を保つ部分秩序状態が実現することを見出した。これらの結果について論文にまとめ、学術雑誌 Physical Review B に投稿した。 ・大小二種類の大きさの三角形で構成されるカゴメ構造をもつ化合物Ce3Ag4Mg12において、比熱、磁化、および中性子回折実験を行い、反強磁性秩序状態において残存する非自明な自由度を見出した。この非自明な自由度の起源として、3個疑スピンが構成するスピントライマーの内部自由度の可能性を指摘した。この結果について日本物理学会第78回年次大会(2023年9月)および2024年春季大会(2024年3月)にて口頭発表を行った。 ・上記Ce3Ag4Mg12と同様の構造をもつ化合物 Nd3Ag4Mg12, Sm3Ag4Mg12, Gd3Ag4Mg12 の単結晶育成に成功した。これらの化合物に対して比熱および磁化測定を行い、いずれの化合物においても磁気的な秩序状態が実現することを見出した。また、Nd3Ag4Mg12においては中性子回折実験も行い、磁気構造を決定した。 ・上記Ce3Ag4Mg12と同様の構造をもつ化合物 Yb3Co4Al12 の単結晶を用いた中性子回折実験を行い、磁気秩序状態の探索を行った。 これらの研究内容に鑑みると、本研究の進行状況は概ね順調であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は本研究の最終年度である。上記の本研究で見出された発見を論文にまとめ学術雑誌に投稿・発表を行う。また、大小二種類の大きさの三角形で構成されるカゴメ構造をもつ化合物Ce3Ag4Mg12で見出された強磁性トライマー内の非自明な自由度により発現が期待される異常ホール効果の実験を行う。また、同型化合物でも同様の現象が発現することが期待されるため、これまでの研究で単結晶育成に成功したNd3Ag4Mg12, Sm3Ag4Mg12, Gd3Ag4Mg12 などの化合物においても基底状態の同定を行い、必要に応じて同様の測定を試みる。さらに、同様のスピン三量体形成が発現することが期待される上記のカゴメ構造をもつ化合物において、引き続き物質探索を行う。特に、反強磁性的な三量体形成が生じる物質が発見されれば、スピンカイラル自由度の秩序化や量子液体状態が実現する可能性もあり興味深い。 さらに、低対称性に起因した異方的な磁気応答が観測されたCe2Pd2Pbと同様の構造をもつ化合物Ce2Pt2CdおよびCe2Pd2Cdにおいて、磁場中で明瞭な磁化プラトーが観測されているため、この現象について解析を行い学術論文として発表する。
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