研究課題/領域番号 |
22K03508
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13030:磁性、超伝導および強相関系関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
諏訪 秀麿 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (60735926)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
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キーワード | 反強磁性 / スピン軌道結合 / 電子相関 / スピン希釈 / 励起子絶縁体 / イリジウム酸化物 / BCS-BECクロスオーバー / トポロジー / 異常ホール効果 / ハバード模型 / ダイナミクス |
研究開始時の研究の概要 |
近年、数学的なトポロジーの概念を用いた物性現象の理解が進んでいる。例えば、ホール伝導率がとびとびの値となる整数量子ホール効果では、電子軌道の重なりが作り出すバンドがトポロジカルに非自明な構造を持つ。一方、電子と電子の間のクーロン相互作用が大きく働く物質では、磁性が自発的に生じる。これらの性質を合わせ持つ磁性トポロジカル相では、磁場が電気分極を作り出し、電場が磁化を生み出すといった興味深い現象が生じる。本研究では、新しい計算手法を開発しながら磁性トポロジカル状態のダイナミクスを明らかにすること、さらには薄膜物質等を用いてそのような新しい量子物性をデザインすることを目的とする。
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研究実績の概要 |
スピン軌道結合が顕著な電子系はゲージ場と結合するフェルミオン系として記述され、粒子のサイト間ホッピングに位相が生じる。ここで電子相関が十分大きいと磁性が生じ、低温で磁気秩序が生じる。本年度は、結晶の対称性から格子上のループで位相が打ち消し合う系のうち、特に単層系と2層系の磁性に焦点を当て研究を行った。またそれらの興味深い系を実現するイリジウム酸化物について調べ、実験と比較して定量的な解析を行った。 まず単層系について、高エネルギーバンドから生じる摂動効果によりイリジウム酸化物では容易面スピン異方性が現れる。この異方性は他の物質と比較して小さくはあるが、その磁場応答は異方的スピンモデルでよく記述される。もし磁場への応答を大きく保ちながらスピン等方的な系が実現できれば、巨大な磁場応答を得ることが理論的に可能である。本課題ではイリジウム系が持つ顕著なスピン軌道結合、超格子薄膜上で制御した高い2次元性、そして元素置換により施したスピン希釈を巧みに利用することで、そのように一見不可能にも思える巨大な磁場応答を理論的に提案し実験的に実証した。スピン相互作用のわずか0.1%程度に相当するわずかな一様磁場で、反強磁性転移温度を600%も上昇させることに成功した。反強磁性スピントロニクスの制御に大きく貢献すると期待されるこの成果の論文をNano Lettersに出版した。 次に2層系では、スピン軌道結合によりバンド反転が生じ、電子相関の弱いときはバンド絶縁体となる。ここで電子相関を考慮すると励起子が安定化し、励起子凝縮によって反強磁性の励起子絶縁体が生じる。ここで電子相関が比較的弱いときはBCS的に、強いときはBEC的に凝縮が起こる。我々は三重項励起子凝縮のBCS-BECクロスオーバーを調べ、2層系イリジウム酸化物がクロスオーバー領域にあることを定量的に明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の大きな目的のひとつは、電子系にトポロジカルな性質を生み出すスピン軌道結合と電子相関の協調現象を明らかにし、その特異な性質の制御を可能とすることである。本年度はイリジウム酸化物の単層系と2層系で実現されるこれらの興味深い現象を解明した。単層系ではスピン希釈によって実効的に磁場応答のスピン異方性をなくし、スピン等方的な系が示す巨大な磁場応答を理論・実験の両面から実証した。これは学理として興味深い物性現象の解明にとどまらず、将来的な反強磁性スピントロニクスへの応用も期待される成果である。また2層系では、まさにスピン軌道結合と電子相関の両方が顕著な系で初めて起こる三重項励起子のBCS-BECクロスオーバーを理論的に解明した。さらにイリジウム酸化物における実証方法も提案し、今後の実験に重要な示唆を与えることができた。このように本課題は大きな研究目的を達成しつつあり、順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本課題ではこれまで準古典近似を用いた相関電子系の計算手法を開発してきた。この手法の大きな特徴は、スピンの空間ゆらぎと温度ゆらぎを取り込むことで有限温度においてもダイナミクス計算が可能な点である。一方、電子相関の弱い系では、電荷ギャップが小さくなり電荷ゆらぎが顕著となる。例えば励起子凝縮のBCS-BECクロスオーバー領域では電荷スピン結合が強まり、スピンに加えて電荷のゆらぎも重要となるため手法の拡張が必要となっていた。そこで今後は電荷についてもスピンと同様にゆらぎを取り込む計算手法の開発に取り組む。この改良によって、広いパラメータ領域における励起子凝縮や電子相関の比較的弱い系についてもより正確な計算が可能になると期待される。拡張手法を応用し、三重項励起子凝縮と磁気秩序の発現についてより詳細に調べる研究を計画する。イリジウム酸化物をはじめとした様々な系への応用を考慮し、スピン軌道結合と電子相関が生み出す新奇物性現象の探索と実験的実証法の提案を目指す。
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