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ナノサイズ環境によって次元性と相関をデザインした新奇ヘリウム3量子流体の研究

研究課題

研究課題/領域番号 22K03510
研究種目

基盤研究(C)

配分区分基金
応募区分一般
審査区分 小区分13030:磁性、超伝導および強相関系関連
研究機関名古屋大学

研究代表者

松下 琢  名古屋大学, 理学研究科, 講師 (00283458)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
研究課題ステータス 交付 (2023年度)
配分額 *注記
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
キーワード低次元系 / ヘリウム3量子液体 / 朝永ラッティンジャー液体 / 低次元量子流体 / ヘリウム / BCS-BECクロスオーバー / ナノ多孔体
研究開始時の研究の概要

これまで基盤に吸着したヘリウム薄膜をナノサイズの細孔中に閉じ込めることで、流体としての次元性や原子間の相互作用を制御し、興味ある新しいヘリウム量子流体をデザインする技術を確立してきた。その中で「一次元3Heは、相互作用する量子一次元系全般を記述する朝永ラッティンジャー液体として振る舞うか」「通常BCS超流動を起こす3Heの二量体BEC超流動はありうるか」など、近年実験的に示唆はされつつあるが未だ解明されていない重要な問題について、本研究で実験的な研究を行う。核磁気共鳴法を主な測定手段とし比熱測定や振動測定など他の物性と組み合わせた体系的な測定を行うことで、問題の解決をめざす。

研究実績の概要

令和5年度も研究実施計画中に示した「1次元3He薄膜流体、朝永ラッティンジャー液体は実現するか」に関する研究を実施した。これまで我々は孔径2.4nmの1次元細孔に希薄な3Heを吸着した場合、比熱等が3Heの1次元状態を示す領域でのみ、朝永ラッティンジャー(TL)液体の典型的な振る舞いとされる、温度に反比例するスピンスピン緩和時間が観測されることを示してきたが、非縮退状態でも似た振る舞いが観測されることなどから、TL液体の決定的な証拠としては認められていない状況にあった。また、1次元細孔は端が解放されているため、観測されているスピン緩和が純粋に3He流体の1次元的な運動を反映しているのか、端から流出した3次元的な運動も1部混在するのか、という疑問が残されていた。令和5年度は後述するように冷凍機で十分な低温が得られなかったため、0.3K以上の比較的高温で3Heスピン拡散の系統的な測定を行い、後者の問題について検証を行った。スピン拡散の測定については従来のスピンエコー(SE)法に加え、より長時間の拡散を追跡できるスティミュレイティッドエコー(StE)法を併用した。その結果SE法で測定できるスピンスピン緩和時間程度の短時間では実験誤差範囲でスピン拡散は観測されなかったが、StE法による長時間では有意なスピン拡散が測定されることがわかった。これは短時間では3Heは制限された細孔内を1次元的に運動するものが主であるのに対し、長時間では細孔外まで拡散が進み3次元的に長距離移動することを反映したものと考えられる。この2種の拡散の移行時間はスピン拡散が比較的速い高温の0.7Kでもスピンスピン緩和時間の数倍程度であったことから、これまで観測されてきた、温度に反比例する特徴的なスピンスピン緩和時間のふるまいはまさに1次元細孔中の3Heの1次元運動に起因するということが確認された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

前述したように、冷凍機が1次元3Heの縮退温度まで十分冷却されないという前年度より続く問題が今年度も継続してあった。それでも比較的高温では実験ができたため上記のように拡散の時間スケールを明らかにすることができたが、スピン拡散の測定によって3He運動の縮退状態と非縮退状態における定性的な相違を検証するという最も重要と考える実験を行うことができなかった。この不調については冷凍機に対して様々な改良を施しつつ試行錯誤を多数繰り返した結果、高温部に接触したスペーサからの流入熱を強固な熱リンクを通じて希釈冷凍機の中間部に逃がすことによって、従来同様の60mK程度までの低温が得られることがわかった。検討の結果、従来はこの熱リンクの役割をNMRコイルの配線がになっていたのだが、配線が短くなり継ぎ足し等を行ってきた結果、この役割を十分果たせなくなったことが冷凍機が冷えなくなった主因であったと考えられる。この熱リンクの強化によりようやく従来同様の低温が得られるようになったので、現在3Heスピン拡散の縮退温度域での低温測定の準備をいそいで進めている。

今後の研究の推進方策

令和6年度は「1次元3He薄膜流体、朝永ラッティンジャー液体は実現するか」という課題に関して、縮退状態と非縮退状態双方において1次元3Heのスピン拡散の系統的な測定を行い、その定性的な違いを検出することでTL液体が実現しているかどうかに関する結論をみちびき、また1次元電子系との相違などの検証から相互作用が異なることに起因する1次元3He液体に固有な特性を明らかにすることを目指す。特に問題になっているのは、TL液体に合致するスピンスピン緩和時間のふるまいが縮退状態と非縮退状態双方で観測されることであるが、スピン格子緩和時間には定性的な違いがあることを考えると、スピン拡散の測定によって直接的に3Heの運動を観測することで、その決定的な結論を得ることができると考えられる。これまでに予期せぬ冷凍機の不調があったため、当初予定していた細孔径に関する依存性を観測するところまで最終的にいたることはできなくなったが、2.4nm細孔中の3He密度を変えた系統的な測定により縮退状態と非縮退状態の3He運動状態の相違を明らかにする。また細孔を被覆した4He膜厚を変えることで3Heの流動性や原子間相互作用を変えた場合の1次元3Heの緩和時間やスピン拡散を観測することで現象の相互作用依存性や再現性の検証を行い、この1次元量子系の基底状態の特性を明らかにする予定である。結論にいたれば、国際学会での発表や、論文をまとめ学術雑誌への投稿を行い、その成果を公表する。

報告書

(2件)
  • 2023 実施状況報告書
  • 2022 実施状況報告書
  • 研究成果

    (18件)

すべて 2024 2023 2022

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (17件) (うち国際学会 8件)

  • [雑誌論文] Performance Evaluation of the Nanopore Heat Exchanger for Dilution Refrigerator2024

    • 著者名/発表者名
      Temurjonov Azimjon A.、Matsushita Taku、Hieda Mitsunori、Wada Nobuo
    • 雑誌名

      Journal of Low Temperature Physics

      巻: ー 号: 5-6 ページ: 367-375

    • DOI

      10.1007/s10909-024-03062-9

    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
    • 査読あり
  • [学会発表] Spin diffusion of dilute 3He fluid in 4He-precoated 1D nanochannels2023

    • 著者名/発表者名
      A. Temurjonov, Y. Miyauchi, Y. Shimizu, M. Itoh, Y. Kobayashi, M. Hieda, N. Wada, T. Matsushita
    • 学会等名
      International Conference on Quantum Fluids and Solids 2023, QFS2023
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
    • 国際学会
  • [学会発表] Performance Evaluation of the Nanopore Heat Exchanger2023

    • 著者名/発表者名
      A. Temurjonov, T. Matsushita, M. Hieda, N. Wada
    • 学会等名
      International Conference on Quantum Fluids and Solids 2023, QFS2023
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
    • 国際学会
  • [学会発表] ナノトンネル中に形成した1次元3He流体のスピン拡散II2023

    • 著者名/発表者名
      Azimjon A. Temurjonov, 宮内雄也, 清水康弘, 伊藤正行, 小林義明, 檜枝光憲, 和田信雄, 松下琢
    • 学会等名
      日本物理学会第78回年次大会
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] ナノ多孔体熱交換器の性能評価II2023

    • 著者名/発表者名
      Azimjon A. Temurjonov, 松下琢, 檜枝光憲, 和田信雄
    • 学会等名
      日本物理学会第78回年次大会
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] 超流動乱流可視化へ向けた中性子吸収反応によるヘリウムエキシマの生成実験および2次元ボロノイ解析2023

    • 著者名/発表者名
      前田悠花、牛田亮介、上野直紀、Sonnenschein Volker、富田英生、辻義之、Temurjonov Azimjon、松下琢、後藤優、土川雄介、林田洋寿、篠原武尚
    • 学会等名
      日本流体力学会 年会2023
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] α-RuCl3におけるスピン励起の異方性2023

    • 著者名/発表者名
      清水康弘, 山本純哉, 小林義明, 松下琢, 伊藤正行, 求幸年, 那須譲治, 山中隆義, 木俣基, 佐々木孝彦
    • 学会等名
      日本物理学会2023年春季大会
    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
  • [学会発表] 35Cl NMR study of spin dynamics in an anisotropic triangular lattice antiferromagnet Ca3ReO5Cl22023

    • 著者名/発表者名
      D. Nguyen, A. Temurjonov, Y. Shimizu, Y. Kobayashi, T. Matsushita, D. Hirai, Z. Hiroi
    • 学会等名
      日本物理学会2023年春季大会
    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
  • [学会発表] ワイル半金属BaMnSb2における121Sbの量子ホール状態でのNMR測定2023

    • 著者名/発表者名
      Azimjon A.Temurjonov, 熊崎将司, 清水康弘, 松下琢, 小林義明, 近藤雅起, 酒井英明, 花咲徳亮, 山中隆義, 古川哲也, 佐々木孝彦
    • 学会等名
      日本物理学会2023年春季大会
    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
  • [学会発表] Ta核NQRによる励起子絶縁体候補物質Ta2NiSe5の圧力誘起金属相の電子状態の研究2023

    • 著者名/発表者名
      劉子揚, 清水康弘, 松下琢, 伊藤正行, 丸岡うらら, 中埜彰俊, 寺崎一郎, 小林義明
    • 学会等名
      日本物理学会2023年春季大会
    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
  • [学会発表] Influence of Precoated 4He layer on the 3He Dimerization in Nanopores2022

    • 著者名/発表者名
      A. A. Temurjonov, K. Amaike, R. Inagaki, M. Hieda, N. Wada, Y. Shimizu, Y. Kobayashi, M. Itoh, T. Matsushita
    • 学会等名
      29th International Conference on Low Temperature Physics (LT29)
    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
    • 国際学会
  • [学会発表] Examination of Possible Tomonaga-Luttinger Liquid Behavior for 1D 3He Formed in Nanochannels2022

    • 著者名/発表者名
      T. Matsushita, A. A. Temurjonov, R. Shibatsuji, Y. Shimizu, Y. Kobayashi, M. Itoh, M. Hieda, N. Wada
    • 学会等名
      29th International Conference on Low Temperature Physics (LT29)
    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
    • 国際学会
  • [学会発表] 35Cl NMR study of spin dynamics in an anisotropic triangular lattice antiferromagnet Ca3ReO5Cl22022

    • 著者名/発表者名
      D. M. Nguyen, A. A. Temurjonov, Y. Shimizu, Y. Kobayashi, T. Matsushita, D. Hirai, Z. Hiroi
    • 学会等名
      29th International Conference on Low Temperature Physics (LT29)
    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
    • 国際学会
  • [学会発表] 77Se NMR studies of excitonic insulator candidate Ta2NiSe5 under High Pressure2022

    • 著者名/発表者名
      Z. Liu, K. Aoki, S. Kawai, Y. Shimizu, T. Matsushita, M. Itoh, Y. Kobayashi
    • 学会等名
      29th International Conference on Low Temperature Physics (LT29)
    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
    • 国際学会
  • [学会発表] Heat Flow Resistance of Compact Nanopore Heat Exchanger2022

    • 著者名/発表者名
      N. Wada, T. Matsushita, M. Hieda
    • 学会等名
      29th International Conference on Low Temperature Physics (LT29)
    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
    • 国際学会
  • [学会発表] NMR study of 1D 3He in nanochannels2022

    • 著者名/発表者名
      T. Matsushita, A. A. Temurjonov, R. Shibatsuji, Y. Shimizu, Y. Kobayashi, M. Itoh, M. Hieda, and N. Wada
    • 学会等名
      International Conference on Ultra Low Temperature Physics (ULT 2022)
    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
    • 国際学会
  • [学会発表] ナノトンネル中に形成した1次元3He流体のスピン拡散2022

    • 著者名/発表者名
      Azimjon A. Temurjonov, 松下琢, 清水康弘, 伊藤正行, 小林義明, 檜枝光憲, 和田信雄
    • 学会等名
      日本物理学会2022年秋季大会 [物性]
    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
  • [学会発表] 励起子絶縁体候補物質Ta2NiSe5の圧力誘起金属相の研究 -Ta NQR-2022

    • 著者名/発表者名
      劉子揚, 清水康弘, 松下琢, 伊藤正行, 丸岡うらら, 中埜彰俊, 寺崎一郎, 小林義明
    • 学会等名
      日本物理学会2022年秋季大会 [物性]
    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書

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公開日: 2022-04-19   更新日: 2024-12-25  

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