研究課題/領域番号 |
22K03518
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13030:磁性、超伝導および強相関系関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
永合 祐輔 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 助教 (50623435)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 低温物性 / 超流動 / 量子渦 / 量子乱流 / 揚力 / マイクロ・ナノデバイス / 素励起 / 量子渦・量子乱流 / 非線形現象 |
研究開始時の研究の概要 |
乱流は、液晶等の小スケールから宇宙プラズマ等の大スケールまで広範に存在する身近な現象である。しかし、この非線形非平衡な現象はその複雑難解さのため完全な統一的理論の確立に至っていない。超流動ヘリウムの乱流(量子乱流)は、不純物等他の影響が無視できる超低温で安定した量子渦から構成される乱流であり、実験制御が可能であることから、乱流現象の課題解決にとって魅力的な研究対象である。本研究では、超流動中で量子渦を制御する方法を確立し、ナノサイズの微小センサーを用いて渦に励起される非線形波動を調べることで、量子渦が示す波動乱流の性質を解明し、乱流現象の理解を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究は、超流動中の量子渦糸における非線形波動状態およびエネルギー輸送機構の解明を目的とし、2023年度には量子渦生成検出のための装置機構部のテスト作製や、新たな渦生成装置の設計、作製を行った。 2022年度に3D光造形装置を用いて作製した光硬化性樹脂製の架橋梁構造マイクロ/ナノビーム(MB/NB)共振器について、低温での共振のQ値が低いという課題が残った。そこでQ値改善に向けて、スタイキャストを用いて試料固定を工夫し、振動の方向を変えた条件での低温真空測定など共振の様子について系統的に調べた。しかし、結果として有意なQ値の改善には至らなかった。 近年の数値計算研究で、物体が超流動流から受ける揚力の量子化とそれに伴う量子渦放出について明らかになった。そこで、前述の架橋MB/NB作製手法を応用した実験の可能性について検討し、新たな渦生成実験計画を立てた。3D光造形装置を用いた翼型の架橋構造や、ひずみゲージに使用される合金線の架橋構造を設計し、共振測定やひずみ抵抗測定による量子化揚力の観測実験について計画準備した。予備実験として直径約10μmのニクロム線やコンスタンタン線の低温での電気抵抗の温度依存性を測定した。 これまでに1μm幅スリット構造を用いたヘルムホルツ共鳴セルによる超流動流れの実験において、単一ではなく複数の量子渦が同時に横切る多重位相スリップを観測している。そこで、このような現象が発生する原因を探り、かつ形状・サイズがよく制御された渦環を生成するための装置の開発を目的として、真円形状のマイクロサイズ細孔構造を組み込んだヘルムホルツ共鳴セル実験の計画を進めた。2023年度は、3D光造形装置で直径1μmオーダーの様々な真円形状細孔構造物を作製し、形状観察、ヘリウムガスによるフローテストによって、本装置で細孔の形状とサイズをどの程度制御できるかについて調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
架橋構造のマイクロ/ナノビーム(MB/NB)共振器について、当初は数値計算を行った上で構造改良により共振Q値の改善を試み、ナノサイズの共振器作製を進める予定だったが、Q値改善には至らなかった。そのため、本装置作製プロセスを踏襲して新たな渦生成装置(量子化揚力検出装置)の開発へ計画を変更し、共振とひずみ抵抗の見積もりおよび装置設計から取り組み始めた。 ヘルムホルツ共振器による超流動流れ実験に関しては、細孔構造を作製し、その形状とサイズについて系統的に調べるところまで進捗した。ただし、形状の精度やフローレートにおいて、予想よりは劣る結果であったため、さらなる作製条件の調整とテスト測定を要する状況である。 以上より、2023年度に新たな課題が上がり、一部新たな計画へと変更することになったことから、新計画に対してさらなる設計検討が必要になったため、本年度はやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後、量子化揚力に伴う渦生成の装置開発について、さらに具体的な実験セルと測定手法について詳細な設計を考え、光硬化性樹脂や金属線など多角的に材料および装置構造を検討した上で、装置開発を進める。共振法については、テスト試料を準備して低温真空中で動作テストを行う。ひずみ抵抗測定法については、ピエゾ素子を用いて金属線にひずみを印可する装置を準備し、低温でひずみ抵抗変化測定を行い、揚力検出の可能性について考察する。 細孔構造物を用いた渦環生成装置については、引き続き細孔構造の最適な作製条件を系統的に調べ、ガスフローテストを行ったうえで、条件が整った段階で超流動流れ実験実現に向けてセルの設計に取り掛かる。 上記の実験は、これまでに確立しているヘルムホルツ共鳴器を用いた超流動流れ測定を想定しているが、他の直流の超流動流れを作る装置についても検討し、状況に応じて設計、準備する。 また、熱励起が少ない超低温領域でこれらの実験が行えるよう、研究室において希釈冷凍機や3He冷凍機の環境準備が整ってきており、それに応じて将来的に1K以下の超低温下での実験が行えるよう計画、準備を進める。
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