研究課題/領域番号 |
22K03519
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13030:磁性、超伝導および強相関系関連
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
仲田 光樹 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究副主幹 (20867105)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2025年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2022年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
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キーワード | マグノン / 非エルミート量子力学 / ジョセフソン効果 / トポロジカルホール効果 / スカーミオン / マグノン輸送 / 巨視的量子物性 / 散逸 / 量子物性 / 熱磁気物性 / Wiedemann-Franz則 / 磁性絶縁体 / スピントロニクス / マグノニクス / 量子輸送物性 / 量子ゆらぎ物性 |
研究開始時の研究の概要 |
非平衡量子場の理論の手法を用い、マグノンに宿る量子力学的な熱磁気物性を解明する。特に「量子Boltzmann方程式」を活用してマグノンが担うスピン流と熱流を微視的に解析し、両者の相互関係を特徴づけるマグノンWiedemann-Franz則の量子論「量子力学的マグノンWiedemann-Franz則」を構築する。そのようにして非平衡下の磁性絶縁体で創発する量子力学的な熱磁気物性を解明し、従来の古典スピントロニクスを量子スピントロニクスへ昇華させ、量子物理学とスピントロニクス研究の懸け橋を創出する。
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研究実績の概要 |
マグノンWiedemann-Franz(WF)則は非コヒーレントなマグノンの伝搬に伴うスピン流と熱流の関係を特徴づける物理法則である。マグノンWF則 [KN et al., PRB (2015)]を非線形応答領域へ拡張することは昨年度に成功した。そこで本年度は、コヒーレントなマグノンと非コヒーレントなマグノンの輸送物性をそれぞれ明らかにし、両者の差異を次のように解明した。 1)非コヒーレントなマグノンに着目し、磁壁のトポロジカルに非自明な磁気構造に起因した有効磁場中のマグノン輸送のふるまいを超対称量子力学を用いて明らかにした。特に反強磁性スカーミオン構造を有する磁壁中のマグノンの反射・屈折現象の量子力学的ふるまいを理論的に明らかにした。さらにラウダウアー公式を用いて磁壁のカイラリティが増加するにつれてマグノンが担う熱流が減少することを明らかにし、スピンホール効果を活用した熱流の制御方法を提案することに成功した。本研究成果はPhys. Rev. B誌から出版され、Editors' Suggestionに選出された[S. Lee, KN, O. Tchernyshyov, S. K. Kim, Phys. Rev. B 107, 184432 (2023); Editors' Suggestion]。 2)コヒーレントなマグノン着目し、マグノン・ジョセフソン効果の研究で得られた研究代表者の知見を活用することで、非局所的ダンピング由来の非エルミート性によって出現する整流作用を有する「非従来型のマグノン・ジョセフソン効果」を理論的に解明することに成功した[KN, J. Zou, J. Klinovaja, and D. Loss, arXiv:2403.01625 (2024)]。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題の目的は、マグノンに宿る量子輸送物性を解明し、従来の古典的スピントロニクスを量子スピントロニクスに昇華させることである。そこで本年度は、非エルミート量子性の観点から本研究課題を次のように推進させた。マグノンのエネルギー散逸はこれまで、ギルバート・ダンピング項として理論に取り込まれてきた [e.g., KN and Kei Suzuki, npj Spintronics (2024)]。しかし、このギルバート・ダンピング項は局所的なダンピング(エネルギー散逸)のみを記述する。そのため、現実に即した理論予測を行うためには、非局所的なダンピングを理論に取り込むことが必要不可欠である。そこで研究代表者らは、エネルギー散逸の微視的解析が可能な量子マスター方程式を用いることで非局所的ダンピングを理論に取り込んだ。そして得られた方程式をマグノンのジョセフソン接合系に適用し、そこでのマグノン輸送現象を微視的に考察した。特に、マグノンの非エルミートジョセフソン方程式を微視的に導出することに成功し、ギルバートダンピング(局所的ダンピング)ではなく、非局所的ダンピングによって初めて、マグノン流に対する整流作用が出現することを明らかにした。この整流作用により、マグノンは空間的に非対称的なふるまい(伝搬)を示す。さらに、非局所的ダンピング定数を調整することで、ある方向へのマグノンの伝搬を完全に抑制させることができ、一方通行のマグノン伝搬を実現できることを明らかにした。 このように、本年度はマグノンに宿る非局所的ダンピング(エネルギー散逸)由来の非エルミート量子物性をマグノン・コヒーレント状態に活用することで、マグノン輸送の新たな整流作用を有する「非従来型のマグノン・ジョセフソン効果」を理論的に考案することに成功し、非エルミート量子スピントロニクスの基礎学理を構築した。
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今後の研究の推進方策 |
「量子力学的マグノンWF則の構築」の推進方策:量子輸送方程式から出発して重心座標に関する勾配展開を行い、マグノンの量子Boltzmann方程式を導出する。これにより、従来の準粒子近似に基づく半古典的Boltzmann方程式では削ぎ落されていた量子効果を、マグノンの自己エネルギーを通じてスペクトル関数に取り込み、理論に反映させる事ができる。次に、量子補正を取り込んだマグノン非平衡分布関数を微視的に導出する。特に電子系の量子輸送研究で用いられる「Mahanの仮設の方法」をマグノン系に発展させる。非平衡分布関数の情報は非平衡Green関数のlesser成分に集約されている。そこで、lesser成分に関する量子Boltzmann方程式を自己無撞着に解く事で、スペクトル関数由来の量子補正を適切に取り込んだマグノン非平衡分布関数を導出する事ができる。最後に、得られた量子補正込みのスペクトル関数及び非平衡分布関数を用いて、マグノン輸送係数を微視的に導出し「量子力学的マグノンWF則」を構築する。 「散逸誘起の量子相転移の解析」の推進方策:反強磁性体に外部磁場を印加し、その強さを少しずつ大きくしていくと、ある臨界点において相転移が発生し、ネール磁気秩序が壊れてしまうことが知られている。これは「スピンフロップ転移」と呼ばれる磁場誘起相転移である。研究代表者のこれまでの研究によって、エネルギー散逸によってマグノンのエネルギーギャップが小さくなることが明らかになっている。このように、ある種の状況下においては、エネルギー散逸は外部磁場と類似の役割を果たすことが期待される。そのため、エネルギー散逸によっても、磁場誘起相転移「スピンフロップ転移」と類似の相転移が発生する可能性がある。こうしたこれまでの研究で得られた知見を活用することで、「散逸誘起の量子相転移」の有無を解析する。
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