研究課題/領域番号 |
22K03523
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13030:磁性、超伝導および強相関系関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田縁 俊光 東京大学, 物性研究所, 助教 (10771090)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
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キーワード | 捩れグラフェン / 超伝導 / メソスコピック / 原子層 / グラフェン / モアレ |
研究開始時の研究の概要 |
3枚のグラフェンを角度を制御して積層したMATTG と呼ばれる系において超伝導が発現することが発見されたが、その上部臨界磁場の振る舞いから、スピン三重項の超伝導状態が実現しているのではないかと注目を集めている。本研究ではこの系の超伝導対称性を解明することを目的とする。精密な極薄膜の積層技術と微細加工技術を組み合わせることでMATTG のFET デバイスを作製し、量子伝導測定と二軸回転機構プローブによる磁場角度回転実験を組み合わせた実験を行うことで、この系の常伝導状態におけるスピンやバレーの自由度(フレーバー) の偏極状態を含めた超伝導転移温度直上の電子状態を解明する。
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研究実績の概要 |
結晶方位をある角度だけずらして積層させる捩れグラフェンは、超伝導に代表される興味深い物性が発見されて以来爆発的に研究が進展している。捩れ角が魔法角と呼ばれる角度をなすときに形成される孤立した非常に狭いバンド幅を持つ平坦バンドがこれらの物性の舞台となる。積層の枚数が増えるにつれて積層の自由度が増え、特に魔法角捩れ三層グラフェンMATTGにおいて発現する超伝導はペアリング対称性がスピン三重項状態を形成している可能性が示唆されており、注目されている。本研究の目的はこのMATTGのペアリング対称性の解明である。 初年度である2022年度は効率的に捩れグラフェン試料を作製するための条件を決定することである。まず従来型のエッジ検出法や現代的なニューラルネットワークによる検出法による画像認識を用いて単層グラフェンを検出するシステム開発を行った。結果として、検出成功率は十分ではないもののグラフェンを検出することに成功した。次に試料整形に必要なエッチング装置で化学エッチングが起こる条件決定を行った。ターゲット試料は機械的に劈開したグラファイト結晶と六方晶窒化ホウ素(hBN)の薄片を上からこの順に積層した複合試料である。これをシリコン基板上に転写して、レジストやメタルで部分的にマスクをした試料を準備した。物理エッチングが起こるとターゲット試料のみならず基板もエッチングされてデバイス不良が起こり、パターニングに使用するレジストが硬化してリフトオフ困難となる問題がある。そこで化学エッチングを実現するためバレル型プラズマエッチング装置で出力を絞った加工を試みた。結果として、レジスト硬化の問題は解決したが、物理エッチングと化学エッチングが両方起こっており、実際化学エッチングのみが起こった場合に期待される選択的エッチング(グラファイトとhBNでエッチングレートが異なる)は実現しなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ポリマーを用いた微小結晶である薄膜グラファイトと六方晶窒化ホウ素(hBN)を制御し、実際に積層構造を作製することに成功した。具体的には以下の手順で行った。まずグラファイトやhBNの結晶をスコッチテープを用いた機械的剥離法で薄膜化し、シリコン基板に転写して顕微鏡下で十分な(典型的には長手方向に10-20マイクロメートル)大きさの平坦面を持つ数十ナノメートル厚の微結晶を探索した。この時、画像検出を用いたグラフェンの自動探索をテストした。これらの微結晶から選別した試料を上からグラファイト薄膜・hBNの順に積層されるよう、粘弾性ポリマーを使ってピックアップして、シリコン基板上にリリースした。この粘弾性ポリマーはPDMSとPVAの積層構造で、シリコン基板裏から加熱して温度制御することで粘弾性を調整し、ピックアップとリリースを実現した。また、プラズマエッチングの条件を精査し、化学エッチングによる試料整形が可能となった。試料はレジストまたはメタルのマスクを部分的に施したグラファイト薄膜・hBN積層をシリコン基板上に置いてあり、グラファイト、hBN、シリコン基板のエッチングレートを調べることができる。さらなる最適化は必要だが、実際に化学エッチングしたグラファイト薄膜をホールバーに整形した試料を作製し、これを用いて実際に低温磁場中輸送特性測定を行うことに成功した。 一方、AFMカンチレバーによる陽極酸化やレーザー照射を用いたグラフェン切断のシステム開発は準備を進めている段階である。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き複合積層系の作製方法を最適化していきつつ、静電結合した複合積層系を作製して測定を行う予定である。これは捩れ二層グラフェンで用いられた手法である。具体的には、アクティブレイヤーである捩れグラフェンを超薄膜絶縁層(1 nm程度のhBN)を介して単層グラフェンを積層させた複合積層系は捩れグラフェンと単層グラフェンが静電結合を形成し、別途それぞれの層に結合させたゲート電圧を制御することで各層のキャリア密度に応じた輸送特性を測定する。この輸送特性からキャリア密度と化学ポテンシャル(あるいは電子系の圧縮率)を同時に決定することができる。さらに磁場の印加方向を制御しながら抵抗(または電流電圧特性)を測定する。また、この手法を磁場中で行い、Maxwellの関係式を適用して磁化を決定することができる。これを用いて実験的にスピンギャップのギャップサイズを調べ、スピン偏極したフレーバー状態となっているか検証する。さらに、所属研究室で開発された角度回転システムを用いて高精度で超伝導相転移直上の温度で抵抗測定を行い、電子系の対称性が自発的に破れた電子ネマティック状態となっているかを検証する。この検証は超伝導ペアリングがバレー間ペアリングと適合するか評価する。
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