研究課題/領域番号 |
22K03526
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13030:磁性、超伝導および強相関系関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小林 晃人 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (80335009)
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研究分担者 |
吉見 一慶 東京大学, 物性研究所, 特任研究員 (10586910)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
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キーワード | 補償フェリ磁性 / ダイマー反強磁性 / 非等価な二量体 / 有機導体 / 拡張ハバード模型 / 第一原理計算 / 多変数変分モンテカルロ法 / スピン偏極電流 / ノーダルライン半金属 / ディラック電子系 / 電子相関効果 / トポロジカル秩序 / ランダウ量子化 / 変分モンテカルロ法 / 分子内反強磁性 / 電子相関 / 超伝導 |
研究開始時の研究の概要 |
従来のトポロジカル絶縁体はスピン軌道結合に起因するため重い元素から成る物質に発現する。一方、電子相関によるトポロジカル絶縁体であれば、比較的軽い元素から成る物質でも発現し得ると考えられる。本研究では有機ディラックノーダルライン半金属や有機ディラック電子系において電子相関により誘起される非自明なトポロジカル秩序と、その近傍において発現する超伝導の発現機構を理論的に解明する。これによりトポロジカル物質探索の範囲が格段に広がるメリットが期待される。
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研究実績の概要 |
本研究は、物質の多様性に起因する新たな物理現象の解明を目的としている。特に注目している有機導体は、分子内の偏ったフラグメント軌道や、単位胞内で異なる結晶学的位置を取る同一分子による分子軌道自由度を持ち、これが多様な物性の研究のためのプラットフォームとなっている。 最近、ディラックノーダルライン物質[Ni(dmdt)2]、および二つの非等価な二量体を含む有機導体(EDO-TTF-I)2ClO4において、磁気秩序に関連した異常な物性が観測されたが、その原因は未解明であった。本研究では、分子軌道自由度に焦点を当て、それらのメカニズムの解明を試みた。 [Ni(dmdt)2]に関しては、第一原理計算に基づいてハバード模型のパラメータを評価し、フェルミエネルギー近傍の電子状態がフラグメント軌道を基底として記述されることを示した。次にこの模型に乱雑位相近似を適用し、スピン感受率を計算した。その結果、フラグメント軌道における反強磁性揺らぎが低温で発達することを見い出した。 (EDO-TTF-I)2ClO4に関しては、第一原理計算を基に拡張ハバード模型のパラメータを評価し、平均場近似と多変数変分モンテカルロ法を用いて基底状態を探求した。その結果、非等価な二量体が逆方向に磁化することで、全磁化がゼロであるにも関わらずエネルギーバンドがスピン分裂する補償フェリ磁性が、基底状態の候補であることが示された。さらに、この補償フェリ磁性が現れるための最小限のパラメータを含む有効模型を導出し、非等価な二量体の磁化がスピン分裂に寄与し、バンドが3/4充填の場合に全磁化がゼロになることを示した。 これらの結果から、有機導体における分子軌道自由度と電子相関が独特な磁性を生み出すこと、特に磁場がない環境でスピン流を生成可能な補償フェリ磁性体の設計指針を示した。この結果は有機導体以外の物質への応用可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題では当初、有機ノーダルライン半金属における電子相関が誘起する新奇物性の解明を目指す研究を行った。これまでに、有機ノーダルライン半金属[Ni(dmdt)2]で観測される異常な磁気揺らぎを解明するため、第一原理計算に基づいてハバード模型のパラメータを評価し、この物質のフェルミエネルギー近傍の電子状態がフラグメント軌道を基底として記述されることを示した。次にこの模型に乱雑位相近似を適用しスピン感受率を計算した。その結果、ノーダルライン半金属に特有の波動関数とフェルミ面の性質のため、分子の端に偏った2つのフラグメント軌道のスピンが互いに逆を向こうとする分子内反強磁性揺らぎが低温で大きく発達することを見い出した。さらに、核磁気共鳴のナイトシフトとスピン格子緩和率を計算し、実験結果と矛盾しないことを示した。この研究により、分子性導体に特有の自由度を利用した反強磁性に関する知見が得られ、その知見が二つの非等価な二量体を含む有機導体(EDO-TTF-I)2ClO4における補償フェリ磁性の発見につながった。 一方、二つの非等価な二量体を含む系の補償フェリ磁性を記述する一般模型では、バンド交差によるトポロジカル転移の可能性があり、当初予想し得なかった方向にトポロジカル物性の概念を拡張する可能性が見出された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究のこれまでの研究対象である有機ノーダルライン半金属における分子内反強磁性、および二つの非等価な二量体を含む有機導体の補償フェリ磁性は、どちらも強束縛模型の観点ではユニットセル内に1つまたは複数の二量体を有する系の反強磁性である。そこで本研究では、両者を統一的に記述することが可能な最小の有効模型を構築することをめざす。次に、得られた有効模型のパラメータ空間において、ノーダルライン半金属の補償フェリ磁性、および二量体から成る系のトポロジカル物性の発現する領域を探索する。 また、補償フェリ磁性は圧力印加により非磁性金属に転移する場合があると考えられ、その場合には量子臨界点近傍で超伝導が誘起される可能性があるため、超伝導の探索も同時に進める予定である。 具体的な手法としては、第1原理計算に基づく拡張ハバード模型の構築を出発点とし、平均場近似や多変数変分モンテカルロ法を用いてその電子状態相図を解明する。
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