研究課題/領域番号 |
22K03529
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13030:磁性、超伝導および強相関系関連
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
志村 恭通 広島大学, 先進理工系科学研究科(先), 准教授 (10713125)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 重い電子 / 磁気冷凍 / 量子臨界現象 / 重い電子系 / 量子相転移 / 極低温 / 磁歪 / 熱膨張 / 高磁場 / 希土類 / 磁性 |
研究開始時の研究の概要 |
希土類金属間化合物の温度を下げると、秩序を示さない非磁性金属(フェルミ液体)状態や磁気秩序, 軌道(多極子)秩序などの多彩な電子相を示す。これらの相は, 圧力や磁場, 磁場方位, 元素置換などをパラメーターとした量子相転移により、異なる相へと変わる。通常の量子相転移とは磁気秩序相から非磁性金属相への相転移を指す。本研究では、CeやYbを含む金属間化合物に対して、この一般的な磁気量子相転移とは異なる新しい量子相転移の発見と、その発現機構の実験的解明を目指す。特に、二つの異なるタイプの無秩序相間をつなぐ量子相転移の確立を目標とする。
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研究実績の概要 |
本研究では、希土類金属間化合物における非磁性金属状態(価数揺動状態や近藤一重項状態)とスピン液体に代表される長距離磁気秩序がなく、磁気揺らぎを持つ基底状態という二つの無秩序状態の間の連続的相転移(クロスオーバー)の観測を目指している。 そのために研究代表者は希土類元素Ybを含む金属間化合物YbCu4Niに対して、CuとNiの組成変化に伴う基底状態の変化を研究してきた。YbCu4Niは0.2 K以下で7500mJ/K2molという巨大な電子比熱係数を示す"超"重い電子系化合物で、Ybが面心立方格子を組むため、幾何学的フラストレーションによる磁気揺らぎを内在する可能性がある。元素置換された10種類以上の異なる組成の多結晶試料Yb(Cu1-xNix)5 (0.5<x<1.5)を、高周波溶融炉を用いて合成した。それらの試料すべてに対して、自作の磁気冷凍セルを用いて、1.8 K、8 Tからの磁気冷凍(断熱消磁冷却)を行った。その結果、x=0.6の組成の試料が0.15 Kと最も冷えることを明らかにした。 この結果はエントロピ-が最も絶対零度付近に残るのが、x=0.6の試料であることを意味し、この組成でクロスオーバーが起こり、x<0.6で非磁性金属相へと向かうこと示唆する。一方、近年行われたYbCu4Ni(x=1)のミューオンスピンの緩和率測定の結果によると、x=1でも、磁気秩序が見られないことが観測された。即ち、0.6 < x < 1の領域の組成は磁気秩序相でも、非磁性相でもないと理解でき、x=0.6では、二つの無秩序相間のクロスオーバーが発現していると期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ybは蒸気圧が高いため、一般的に合成は簡単ではないが、研究代表者は高周波溶融炉を用いた多結晶試料の合成法を確立し、すでに、10種類以上の様々なCuとNiの組成のYb(Cu,Ni)5を合成に成功している。そして、すべての試料に対して、磁気冷凍実験を行い、最も低温に磁気エントロピーが残る組成を明らかにした。そのため、Yb(Cu,Ni)5の大まかな組成依存性はすでに理解されつつある。 それだけでなく、一般的にYbの試料は自己フラックス法による数ミリ角の小型の試料しかできないことが多いが、今回用いた高周波炉による合成方法では、数グラムの大型試料を作ることができる。そのため、大型試料が必要で、将来的に実施を検討しているミューエスアールによる緩和率測定や中性子非散乱実験での使用も可能である。これらの手法は、本研究で観測を目指している磁気揺らぎを微視的に検出できる強力な手法であるため、それに必要な試料がすでに手元にあることは、研究が順調に進んでいることの一つの証拠である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究により、Yb(Cu,Ni)5の様々な組成に対する磁気冷凍により最も冷える組成を明らかにした。今後はその組成を中心に極低温精密物性測定を行う。所属研究室では、希釈冷凍機や断熱消磁冷凍機を用いて、0.08 Kまでの比熱や磁化測定ができる。通常、非磁性金属相では比熱/温度や磁化率が一定となるフェルミ液体的挙動が見られるが、磁気揺らぎが支配的となると考えられるx>0.6では、非フェルミ液体的挙動が期待される。この観測に加え、現在、共同研究として、NMR測定が計画中である。NMRの緩和率の温度変化からも非フェルミ液体的挙動の観測を目指し、マクロとミクロの両面から、Yb(Cu,Ni)5の磁気揺らぎの存在と、無秩序型の連続的相転移の観測を目指す。 最後に本研究で行った磁気冷凍実験では、x=0.6において、0.15 Kまで冷えることを見出した。これを応用して、この組成の試料を高周波炉を用いて大型化し、100グラム程度の試料を合成する。それを冷却材として活用して、極低温測定に利用することも関連した研究として実施する予定である。
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