研究課題/領域番号 |
22K03541
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13040:生物物理、化学物理およびソフトマターの物理関連
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
高橋 浩 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (80236314)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
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キーワード | コレステロール / 膜融合 / リン脂質膜 / エンベロープウイルス / 膜間相互作用 / 生体膜モデル / ホスファチジルエタノールコリン / ホスファチジルエタノールアミン / 逆ミセル様構造 / 脂質膜 |
研究開始時の研究の概要 |
新型コロナなどのエンベロープウイルスは、細胞と同様に脂質からなる膜に覆われている。ウイルスのこの膜とヒトや動物の細胞膜が融合することで感染が始まる。 臨床データから、ウイルス感染しやすさと細胞膜中のコレステロール濃度が関連すると指摘されている。コレステロールは、膜の物理的性質を調整する。コレステローによるどのような物理的性質の変化がウイルス感染に影響するかを、モデル系の実験から調べるのが本研究である。
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研究実績の概要 |
新型コロナなどのエンベロープウイルスは、膜融合することで細胞に感染する。エンベロープウイルス感染におけるコレステロールの役割を、膜脂質の物理的な性質の観点から考察するのが本課題の目的である。膜融合の過程では、膜と膜が接近するために必要な膜表面に水和している水分子の排除、膜の大きな変形が起こる。これらが上手く実行される必要がある。それを決める要因は、前者であれば脂質膜と水分子の相互作用の強さであり、後者であれば脂質膜の柔軟性である。当然、これらはコレステロール濃度によって変化すると予想される。 脂質膜と水分子の相互作用を調べるために、多重層ベシクルにおいて浸透圧を印加した際に、膜間の距離がどのように変化するかをX線回折のデータに基づいて調べた。予備的な結果であるが、ある種のリン脂質においては、コレステロールが20mol%程度存在した方が、コレステロールを全く含まないリン脂質膜よりも、膜間の反発相互作用が弱く、膜と膜同士が近づき易いという結果が得られた。この成果に関しては、2023年の日本生物物理学会年会と2024年の日本物理学会春季大会で発表を行った。 膜の柔軟性、機械的強度に関連して、コレステロールなどのステロールがリン脂質膜の分子パッキングにどう影響するかを調べた。分子が密に詰まり、膜面における脂質分子の専有面積が小さいほど、膜は硬くなると考えられる。哺乳動物の生体内に豊富に見出される飽和と不飽和の疎水鎖をもつリン脂質を対象に、コレステロール、その酸化物である酸化コレステロール、コレステロールの分子進化的な祖先分子であるラノステロールを使い、リン脂質・ステロール系のモデル膜に置いて膜表面での占有面積がどう変化するかを調べた。その結果、コレステロールの場合が最も面積が小さいことを見いだした。この成果は、国際専門誌(Chem. Phys. Lipids)に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
直接的に脂質膜の柔軟性を調べている訳ではないが、それに密接に関係する脂質膜における分子パッキングの度合、膜表面での占有面積の値の評価の実験は順調に実施できている。研究実績の概要に書いたように、その成果を論文にまとめ発表することができた。また、この結果は、2024年6月に京都で開催される国際会議21st IUPAB (International Union of Pure and Applied Biophysics)で発表予定である。この様に、コレステロールをはじめとした各種ステロール類のリン脂質膜の分子パッキングへの効果を調べる研究は順調に遂行できており、成果も挙げている。 膜間の相互作用に対するコレステロールなどのステロールの効果に関しては、現時点までに得られているデータからは極性頭部の種類だけでなく、疏水鎖の飽和・不飽和度も関係することが示唆されている。単純に図式化できない面があるのは確かであるが、哺乳動物の細胞膜で主流のリン脂質は、1本の疎水鎖が飽和で、もう1本の方が不飽和鎖をもつ混合型である。この系に限って言えば、コレステロールの存在は、膜融合に有利に働くようである。コレステロールの祖先分子であるラノステロールでも同様な結果となるかさらに検討を進める予定である。予備的なデータからは、コレステロールとラノステロールとでは、膜間相互作用に与える影響は、若干異なるようである。ここから大胆な仮説を述べれば、真核生物にエンベロープウイルスが感染する際、膜融合という手段を採用するようになったことと、進化の過程におけるコレステロールの出現は関連しているのかもしれない。
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今後の研究の推進方策 |
エンベロープウイルスが感染する際と、細胞から出ていく際の両方で膜融合が行われる必要がある。それぞれの場合で、細胞膜の外側と内側の層の脂質膜と膜融合する。エンドサイトーシスやエキソサイトーシスの形式でウイルスが取り込まれ、放出される場合では、同様で入る時と出る時で、融合する面は、細胞膜の外側、内側と違う面になる。細胞膜のリン脂質の分布は、内側と外側で異なっており、外側ではホスファチジルコリン(PC)が多く、内側ではホスファチジルエタノールアミン(PE)が多い。PC系に関しては、他の研究者の結果も含めデータの蓄積は大変に多い。しかし、一方、コレステロール等のステロール添加によってPE系の脂質膜における膜間相互作用がどう影響受けるかに関する研究例はほとんどない。今後、まず、このテーマに取り組む。 科研費で購入した蛍光分光器であるが、波長ごとの感度が微妙に異なり正確なスぺクトル測定が出来ていない。2024年度に導入する標準高原によってスぺクトル補正を行い、蛍光測定も研究遂行に中心的に活用する予定である。脂質膜の疎水親水界面領域に存在する水分子の状態に関する情報を、蛍光プローブProdanを用いた、蛍光測定から得たいと考えている。コレステロールの添加によってPC系で脂質ラフトの基盤である液体秩序相が形成された場合、水分子の脂質膜の疎水親水界面領域へ侵入は制限されることが知られているが、ラノステロールではどうなるか、さらには、PE系に添加した場合は、どうか、またそれが膜間相互作用とどう相関するかを調べる実験を計画している。これらを通して、コレステロールがある濃度で脂質膜内に存在すると、エンベロープウイルスの感染に有利に働くような脂質膜の物性をもたらすのかを考察していく。
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