研究課題/領域番号 |
22K03547
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13040:生物物理、化学物理およびソフトマターの物理関連
|
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
林 智彦 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (90838070)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
|
キーワード | ペプチド薬 / 天然変性ペプチド / 自由エネルギー計算 / 積分方程式理論 / 形態計測学的アプローチ |
研究開始時の研究の概要 |
ペプチド薬は抗がん剤の候補として注目されているが、わずか10残基のペプチドでも10兆を超える膨大な組み合わせがあるため、実験のみによる創薬は困難かつ高コストである。そこで本研究では、ペプチド抗がん剤を物理理論に基づいて高速デザインする手法を開発する。まず、統計力学に基づく「分子認識に伴う水和熱力学量変化の高速計算法」の改良により、「ペプチド-標的タンパク質間の結合力を数秒以内に定量化する新規手法」の開発に取り組む。この手法を「結合ポーズ予測法」に組み込み、腫瘍性タンパク質MDM2(抗がんタンパク質p53の働きを阻害する)を標的とした新規ペプチド抗がん剤のデザインに応用する。
|
研究実績の概要 |
本研究は、「ペプチド抗がん剤を物理理論に基づいて高速デザインする手法の開発」を目的とする。2023年度は以下の成果を得た: (1)構造の柔軟性が比較的小さいGタンパク質共役型受容体(GPCR)-リガンド系に対して、本研究で開発した新規自由エネルギー関数G(MM/DAH)を適用し、多数発生させたGPCR-リガンド複合体の中から天然構造を射当てることに成功した(特許出願中)。この成果は「G(MM/DAH)の開発を通じた創薬関係特許の創出」という重要な意義をもつ。
(2)「天然構造が分かっている標的タンパク質-抗がんペプチド複合体構造が”未知である”と仮定」して、人工知能プログラムAlphaFold2(AF2)を使用して「アミノ酸配列情報のみから複合体の立体構造を予測」し、G(MM/DAH)により安定性を評価した。その結果、AF2による予測構造は「分子動力学(MD)シミュレーションさえ併用すれば天然構造と同等の安定性を有すると評価できる」ことが判明した。この成果は「新規抗がんペプチドの高速設計手法」の開発に繋がる、という重要な意義をもつ。
(3)(2)の手法により「標的タンパク質-ペプチド(構造既知の変異ペプチドを複数扱う)間の結合能の強弱」を再現することに成功した。この成果は「複数の抗がんペプチドの中から効果の高いものを高速スクリーニングする技術」の開発に繋がる、という重要な意義をもつ。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、具体的な課題1~3に並行して取り組んでいる。 2022年度は【課題1】として設定したG(MM/DAH)の開発に成功し、続いて【課題3】の第一段階に取り組んだ。その過程で、【課題2】として設定した「タンパク質-ペプチド(構造既知の変異ペプチドを複数扱う)間の結合能の強弱を再現する」という問題の解決にはMDシミュレーションの併用が必須であり、この計算にかかる時間がボトルネックであることが明らかになった。そこで2023年度は一部計画を変更し、【課題1、2’】として「構造の柔軟性が比較的小さいGタンパク質共役型受容体(GPCR)-リガンド系」にG(MM/DAH)の適用する研究に取り組んだ。その第一段階として「GPCR-リガンド複合体の天然構造」を複数の擬似構造の中から射当てることに成功した(特許出願中)。 さらに、【課題2】および【課題3】として設定した「天然構造が分かっている標的タンパク質-抗がんペプチド複合体構造が”未知である”と仮定して、立体構造および結合能を予測する」という問題に取り組みんだ。その結果、人工知能プログラムAF2をG(MM/DAH)と組み合わせ、MDシミュレーションを併用することにより、構造既知のペプチド(複数)について、「標的タンパク質-ペプチド間の結合能の強弱」を再現することに成功した。
|
今後の研究の推進方策 |
2023年度において【課題3】に取り組む過程で、現状では人工知能技術を用いたとしてもMDシミュレーションの併用(構造アンサンブルの発生)が必須であり、この計算にかかる時間が依然としてボトルネックであることが明らかになった。また、新たに設定した【課題2’】において、構造の柔軟性が比較的小さいリガンドについても、既存の構造発生技術(バイオインフォマティクス的手法など)では結合能の強弱を再現することは容易ではないことがわかった。 以上を踏まえて今後は、以下の課題に取り組む:
A. 複合体と結合した状態のペプチド・リガンドを高速モデリングする手法を開発する。構造アンサンブルを発生させることのできる人工知能技術などをG(MM/DAH)と組み合わせることにより、【課題2,2’,3】の解決を目指す。さらに、G(MM/DAH)のみを評価関数に用いた「教師なし抗がんペプチド生成AI」の開発も検討する。
B. これまでに開発した技術を用いて、バイオ医薬品候補などを設計し、実際に実験で合成してその安定性などを検証する。
|