研究課題/領域番号 |
22K03549
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13040:生物物理、化学物理およびソフトマターの物理関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
土田 秀次 京都大学, 工学研究科, 准教授 (50304150)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | イオンビーム / 生体分子 / 液相水 / 放射線損傷 / DNA損傷 / 水和 / 炭素イオンビーム / ヌクレオチド / 液体の水 / 低エネルギー電子 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、粒子線がん治療の基礎研究として、Braggピーク領域のエネルギーを持つイオンビームによる水中における生体分子損傷について、水分子に囲まれた生体分子に対して、生体に吸収された放射線のエネルギーで生じた二次電子がどのような反応を誘発するのかを実験的に解明する。特に、水中で発生した二次電子のうち、生体分子の電離エネルギーのしきい値より低く、尚且つ、水和前の低エネルギー二次電子による生体分子の損傷過程を解明する。このような低エネルギー電子による生体分子損傷の素反応の解明により、放射線のDNA損傷の原因を原子・分子レベルで理解することに繋げる。
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研究実績の概要 |
今年度は、ヌクレオチド分子に対するイオンビームの線エネルギー付与(LET)依存性と、グリシンペプチド分子に対する水和の有無による分子損傷の違いについての研究課題に取り組んだ。 前者の課題では、生体分子に4種類のRNAベースのヌクレオチド(アデノシン一リン酸、グアノシン一リン酸、シチジン一リン酸、ウリジン一リン酸)を用い、これらの試料に、ヘリウム、リチウム、炭素、および酸素ビームを照射することでLETを変え、分子損傷のLET依存性を調べた。ここでは、リン酸+リボース部位の損傷と塩基部位の損傷の割合に注目し、ウリジン一リン酸とアデノシン一リン酸の結果を比較すると、損傷割合は、LETの値が小さいと塩基損傷が支配的に起こり、他方、LETの値が大きいとリン酸+リボース部位の損傷が支配的に起こることが分かった。この結果をDNA損傷に拡張すると、LETの値が大きくなると、鎖切断が支配的になることに対応し、本研究で、DNA損傷のLET依存性を原子レベルで観測することに成功した。 後者の課題では、生体分子にグリシンのジペプチド、トリペプチド、テトラペプチドを用い、これらの水溶液と固体状試料に、4 MeVの炭素イオンビームを照射し、グリシンペプチド分子の損傷における分子周辺の液相水の影響を調べた。得られた主な結果として、水溶液試料は、グリシンのCα-C結合切断に由来する分解イオンが生成され、固体状試料では、N末端やC末端の切断に起因する分解イオンが生成されることが分かった。また、水溶液試料において、グリシンのCα-C結合切断は、ペプチド分子の数が多くなると、その切断が促進されることが分かった。この原因は未解明であるが、今後の研究において水の放射線分解生成物(ラジカル)の関与を調べる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題は着実に進んでおり、実験的にトラブルは特に生じていない。また、本研究で得られた実験結果の解釈も進めており、シミュレーションによるモデル計算を実施している。これら実験とシミュレーションの比較は概ね一致しており、本研究の最終目的である水中の生体分子損傷が二次電子の挙動とどう関わっているかを解明できる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終課題は、水中の生体分子の損傷における低エネルギー二次電子の役割を明らかにすることである。この課題を達成するために今後の研究では、10 eVから200 eVの電子ビームとイオンビームを、液体ジェット法による生体分子水溶液に照射し、生体分子の損原子レベルでの損傷を観察する実験に取り組む。用いるイオンビームの種類は、ヘリウム、リチウム、炭素、および酸素ビームで、これらは、粒子線がん治療の新しい方法である「マルチイオン照射法」に用いるものである。イオンビームによる二次電子の生成は、これまでの研究から、線エネルギー付与(LET)に依存することが分かっており、具体的にはLETの値が小さいと低エネルギーの電子の成分が多く、他方、LETの値が大きいと高エネルギーの電子の成分が多い。このことを利用することで、低および高エネルギー電子の発生量の違いによる生体分子の損傷過程と明らかにすることができる。
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