研究課題/領域番号 |
22K03560
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13040:生物物理、化学物理およびソフトマターの物理関連
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
塩井 章久 同志社大学, 理工学部, 教授 (00154162)
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研究分担者 |
山本 大吾 同志社大学, 理工学部, 准教授 (90631911)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | アクティブマター / パターン形成 / 秩序運動 / 非平衡揺らぎ / ランダム運動 |
研究開始時の研究の概要 |
一様なポテンシャル場での揺らぎから運動を得るアクティブマターの自己運動発生機構について,運動が秩序性を維持する時間空間スケールが,運動物体と環境との相互作用にどのように依存するかを解明する。一般に,このような生物的自己運動は秩序運動としてランダム運動とは区別されるが,本研究では,全ての秩序運動はより小さなスケールのランダム運動から整流されるものであり,また秩序運動もより巨視的なスケールで見るとランダム化すると考える。秩序性を維持する時間空間スケールの急激な変化が現れる機構の解明がアクティブマター研究のポイントであり,この急激な変化が現れる物理的な機構を解明する。
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研究実績の概要 |
一様なポテンシャル場から揺らぎを利用して秩序運動を生み出す系を創製し,巨視的な秩序運動と内在する揺らぎとの関係を解明することが目的である。このため,①油水界面のマランゴニ不安定性が生み出す対流が,界面上の浮体の秩序運動を形成する系,②細かな力学的振動場におかれたギアが自発的に自転する系,③振動的化学反応によって分子集合体や高分子が時間空間的な構造変化を示す系をモデルとして研究を進めている。昨年度の「今後の研究の推進方策」に沿って研究を進め,②では,一様な加振場に置かれた対称ギアが一方向自転を示す系を論文投稿中,①では水面上の油滴集団がpH感知性の運動を示す系について基礎固めができた。さらに,相互溶解しない2種類の油滴を水面上に置いた時に現れる周期的な離散・集合現象を見出し論文発表を行った。③ではベシクル状分子集合体について研究成果を得て論文発表を行った。 ここでは③について記述する。臭化ジドデシルジメチルアンモニウムは,酸性で内部に袋状の構造を有するベシクル状集合体を形成し,塩基性では凝集構造をとる。この集合体をpH振動反応下においた時,構造変化が可逆的になる条件を明らかとした。一般に,振動反応に対応した構造の可逆的変化は生体機能の発現に関わっていることが多い。本研究では,ベシクル構造が塩基性での凝集構造に完全に変化する前に,溶液が酸性化し袋状構造に回復し始めることが変形の可逆性において必要であることが明らかとなった。ベシクルは環境の化学条件に対して非平衡な状態を維持せねばならず,複雑な平衡構造に至るとそのダイナミックな性質を失う。これは,pH変動が誘起するベシクル構造の揺らぎが秩序化した構造変動を形成するための重要な知見である。 これ以外にも,本申請課題を発展させるための基盤となり得る2成分高分子系の相分離構造に関する研究成果についても論文発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画におけるテーマは,巨視的な系において非平衡性の揺らぎから巨視的な秩序運動が形成される機構の理解である。この観点から,系に力学的なノイズを与えて非対称構造物の自転を観察する「研究実績の概要」に示した②の課題は,本研究のもっとも基幹となる課題である。本年度も,この課題が大きく進展し国際的な専門学術誌に論文投稿できたことは大きな成果である。「研究実績の概要」に示した①の課題についても,当初計画していた研究を進める中で偶然に見出した,炭化水素とフッ素オイルの液滴を水面においた時に現れる印象的な時空間構造形成について,論文を発表することができた。また,③についても,pH振動反応に応じた分子集合体の可逆的構造変化が現れる系を見出して論文発表することができた。1年間の成果としては十分なものが得られたと考えている。①の課題では,液滴近傍の表・界面張力の揺らぎが巨視的な液滴の時空間構造形成を生み出す系となっており,③についてはpHが誘起する小さなベシクル構造変化が可視レベルの秩序変化となる系の研究となっている。①~③は全て異なる化学系であるが,「非平衡性の揺らぎから巨視的な秩序運動が形成される機構の理解」という物理的な視点で見れば,それを研究するための格好のモデル系となっており,このような系を新しく見出し,学術論文にできたという事実から,研究は「おおむね順調に進展している」と判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
①の課題について,水面に多数の油滴をおきpH感知性の集団運動が現れる現象の再現性が確立した。この集団運動は多数の油滴が作るクラスターが円環形成と開裂を繰り返すものである。本年度以降は,この再帰現象のメカニズムを解明する。現在実験に用いている油滴はpH=3-4を境に水の表面張力を大きく変えるものであるが,これと併せてpH=6-7近傍で同じことが起こる別の油滴を用いて,再帰現象の普遍性を明らかとしたい。 ②の課題については,ギアを回転させる揺動力として,これまで用いてきた加振に加えて,人工的なアクティブマターとして長く研究されている水面上の樟脳運動を用いることを考え,既に予備的な検討を行っている。樟脳運動のコントロールについては,過去に多くの論文が発表されており,これらの知見に基づいて運動形態をコントロールし,その運動形態から一方向自転を生み出すギアのラチェット機構を明らかとする。これによって,揺らぎの形態と運動の秩序化に関する興味深い知見が得られると考えている。 ③の課題については,一昨年度から課題となっているpH応答性のゲルを用いた自律運動系の研究を進めていきたい。pHに応答して膨潤収縮するゲルは既に存在するが,自律運動系に応用する場合,変形速度が素早いことが求められる。これまでの研究から,ゲルの変形のためにはゲルへの水の浸透や内包されている水の排出の過程に長時間必要なことが分かってきた。膨潤,収縮の各段階の律速過程についてはほぼ明らかとなっており,これらの知見に基づいて,変形の高速化を実現するための研究を進めていく予定である。
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