研究課題/領域番号 |
22K03564
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13040:生物物理、化学物理およびソフトマターの物理関連
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
森下 徹也 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (10392672)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2026年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | カーボンニュートラル / 分子動力学 / 二酸化炭素 / CCUS / 界面 / 分子動力学シミュレーション / 自由エネルギー計算 / 第一原理計算 |
研究開始時の研究の概要 |
大気中への二酸化炭素(CO2)の排出を実質ゼロにする“カーボンニュートラル”は、地球温暖化を抑制する重要な活動であり、CCUSはその一旦を担うアプローチとして注目されている。本研究は、分子動力学(MD)シミュレーションにより、CCUSを分子レベルから検証し、その促進と効率化の指針を提案する。CCUSの3つのプロセスにおいて、いずれもCO2の吸着化学反応が各プロセスの制御や効率化の鍵となる。本研究では、第一原理MD計算と自由エネルギー計算を融合することで、各プロセスにおけるCO2の吸着現象を高精度で予測・解明し、効率的な吸着を実現する新材料や制御法を提案することで、CCUSの促進に貢献する。
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研究実績の概要 |
CCUSの柱の一つである"storage"(もしくは"sequestration")では、高温高圧下の超臨界状態のCO2流体を地下に貯留する。しかしながら地下水が含まれることが多いため、地下水、CO2流体、及び地下鉱物の三相界面が地下環境でどのような特性を持つかは、CO2地下貯留の効率化において重要な知見となる。このような状況を背景に、令和5年度は高温高圧領域でのCO2流体、水、及び地下鉱物との界面特性を分子動力学(MD)シミュレーションにより評価した。 地下鉱物表面における水や流体CO2の濡れ性は、貯留領域における流体挙動を大きく左右するものであり、効率的なCO2貯留の重要な要素である。MDシミュレーションにおいて様々な鉱物表面を模擬するため、表面電荷を調整したモデル鉱物を複数用意し、水とCO2流体との濡れ性や接触角の表面電荷依存性を調べた。負の電荷量が大きくなるにつれて水の濡れ性が高まり、鉱物表面上の水膜の厚さが増加することがわかった。更に、接触角が小さくなることも確認された。興味深いことに、水膜へのCO2分子の浸透自由エネルギー計算を実施したところ、表面電荷と接触角の関係と表面電荷と自由エネルギーの関係が類似することがわかった。これより、実験では難しい接触角の評価を、エネルギー変化の観点から評価する新しい補完的な理論アプローチを提案した。このアプローチは表面構造の詳細に依らない手法であるため、様々な環境下における接触角の理論的評価に今後有用であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度は前年度の成果をベースに効率的なプロジェクト推進を実現できたこともあり、多彩な鉱物表面モデリングを実現し界面特性と自由エネルギーとの密接な関係を見出すことができた。本結果はエネルギー・化学分野のQ1ジャーナルで論文として発表することができた。こうしたことから、本事業は順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度はCO2流体/水共存系のより高精度な物性予測を実現するために、第一原理MDシミュレーションによるCO2流体/水共存系のモデリングを試みる。これまで実施してきたMDシミュレーションは古典力場に基づいており、比較的大規模かつ数百ナノ秒オーダーの長時間計算を実現できた。しかしながら、分子間相互作用の記述が不正確であり、一部の物性予測の信頼性が低いという問題点がある。そこで、平面波展開による電子波動関数を用いた密度汎関数理論に基づく第一原理MDシミュレーションを実行し、CO2流体/水共存系のより精密なモデリングを実現し、古典MDシミュレーションの妥当性を検証する。注目する特性としては、界面密度プロファイル、界面領域内の分子配向分布、界面領域での分子滞在確率、及び界面構造揺らぎなどを検討している。特に、時間依存主成分解析や多次元尺度構成法などの機械学習を取り入れることで、これまでの秩序変数などでは検知できなかった構造揺らぎの特徴化を目指す。このような構造揺らぎはarea compressibilityなどの熱力学物性量と密接な関係があるため、正確なモデリングの実現はより信頼性の高いCO2貯留につながると考えられる。 CO2/水系以外には、アモルファスの炭酸カルシウムの形成を第一原理MDシミュレーションで試みる。捕獲したCO2の材料物質への転換として炭酸カルシウムの形成は有望であるが、その形成過程においてアモルファス状態の理解が求められている。令和7年度以降の成果発表を目指して、アモルファス炭酸カルシウムの準備計算も進めていく。
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