研究課題/領域番号 |
22K03566
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分14010:プラズマ科学関連
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
赤塚 洋 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (50231808)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 非平衡プラズマ / 励起状態密度分布 / 励起温度 / 電子温度 / ツァリスエントロピー / 統計物理学 / エントロピー理論 / 電子エネルギー分布関数 / ボルツマン方程式 / 非平衡統計力学 / 衝突輻射モデル |
研究開始時の研究の概要 |
非平衡プラズマ中では電子エネルギー分布関数(EEDF)も、励起状態密度分布も一般にBoltzmann 分布に従わないが、それらの理論計算は可能で、実験との良好な一致も確認されている。これらの計算結果を用いれば、各種一般化エントロピー(レニー・ツァリスなど)を求めることが可能となり、熱力学の基本に立ち返ることにより非平衡プラズマの温度の再検討を行うことが可能となる。連続系としてBoltzmann 解析によるEEDF から電子温度を、また離散系として衝突輻射(CR)モデルによる励起状態分布から励起温度をそれぞれ検討し、非平衡プラズマの「温度」を適切に理解するための新たな物理学を構築する。
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研究実績の概要 |
令和5年度は、系の確率変数が離散変数(離散的エネルギー状態)になる系として、プラズマ中の各種原子の励起状態密度分布に着目し、励起状態のエネルギー分布から定まる温度、いわゆる「励起温度」に着目して、統計熱力学的温度を検討した。離散系の場合の例として、水素プラズマのCRモデルを用いて、電子温度・密度、基底状態数密度を入力することにより第i励起状態の数密度Niを求めた。全原子数を一定値として、第i状態の存在確率piを求めれば U=∑_i(ε_i p_i), S=-k∑_i[p_i ln(p_i)], S_r(q)=-k/(1-q) ln[∑_i(p_i )^q]などとして、連続系と同様に各種エントロピーから統計熱力学的温度(∂S/∂U)^{-1}を検討することができ、令和4年度に実施した連続系と同様に非平衡状態の温度を検討した。 具体的には、Tsallis 統計を適用して非平衡状態の水素プラズマの励起状態集団に関する温度を決定した。これにより、非平衡状態におけるq指数関数的な集団分布に従うエントロピーの記述を可能とした。 しかし、q指数分布は解析的に解くことができない自己無撞着関数であるため、直接に計算することは非常に困難であることも判明した。 そこで、Hartree-Fock 法と同様のアルゴリズムを使用して q 指数分布を計算するべく、セルフコンシステントな反復スキームを採用した。 その結果、Tsallis 統計に基づく励起状態集団分布が、平衡ボルツマン分布から遠く離れた高エネルギー領域の非平衡特性をよく捉えていることが見出された。 温度としては、Tsallis 統計に基づく平均エネルギーに対するエントロピーの偏導関数を使用し、q 指数分布の係数を使用して計算した。 解析式を導出しボルツマン統計と比較し、統計物理学の観点から分布を議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
q 指数分布を使用した励起状態密度のフィッティングは、ボルツマン分布を使用した場合よりも、非平衡特性をよりよく捉えていることが検証された。 この研究の過程で定義された各温度は、電子温度の上昇とともに同じ傾向で上昇することが判明した。重要な発見として、 q 平均エネルギー U_q を使用する一種の実効温度としてのT_{〈U_q〉} = 2〈U_q〉/(3k)と定義されるT_{〈U_q〉} は、別に計算されたT_(q-Tsallis) = {[1+(1-q)(S_q/k)][(∂S_q)/(∂U_q)]}^(-1)だけでなく、T_(q-β) = 1/(kβ_q) とも非常によく一致した。これらはいずれも Tsallis エントロピーS_q を使用した Tsallis 統計から定義された値である。 また、同様の手順で、T_Gibbs = {[(∂S)/(∂U)]}^(-1) と実効温度 T_〈U〉= (2U)/(3k) の値が一致することを確認した。 今回計算した温度では、T_(low-E)>T_(q-Tsallis)>T_Gibbsの関係があることがわかった。 分布関数から得られた温度のうち、最も高い温度はT_(low-E) であることがわかり、これも妥当な結果であると結論された。それら成果をまとめ、インパクトファクターが2.7もの値である学術誌であるEntropy誌に査読付論文を掲載することができた。これは非常に大きな進展である。このように、統計物理学的に非常にインパクトのある成果を上げることができたと考えられる。ちなみに、当該論文は、掲載から7ヶ月で約1000回ものダウンロードアクセスを得るに至っており、産業応用からは全く離れた基礎学術分野の研究であるにもかかわらず、当初の計画以上に関係研究者の注目を集め、進展していると総括できる。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画が順調に進み、予定以上の成果が上がっているので、最終年度としては、以下の検討を行う。すなわち、令和4年度の連続系、令和5年度の離散系を通じて、パラメーター増加による非平衡状態の温度の標記の手法につき、一般化の方法論を検討する。すなわち非平衡な分布関数から、いわゆる「温度」を決定するに際しては、ある意味で「平均値」に相当する「励起温度」「平均ネルギーで定まるカイネティックな温度(系の平均エネルギーの2/3倍など)」だけでは記述しきれないことは明らかである。そこで、パラメータを増加させていく必要性が当然生じるのであるが、その際に、Renyiエントロピー、Tsallisエントロピーの2者を対象に、次数qと言うパラメーターが自然に含まれていることに留意して「次数qの温度」を定義することの可能性および是非について、統計力学の立場から検討を進めることとする。合わせて、国際会議に参加し、成果発表を行い、プラズマ理工学のみならず、統計物理学の研究者との意見交換を積極的に行い、非平衡状態の温度のより適切な定義を目指しエントロピーと温度の関係の理論の一般化を図ることとする。
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