研究課題/領域番号 |
22K03597
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分15010:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する理論
|
研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
鎌田 裕之 九州工業大学, 大学院工学研究院, 教授 (80343333)
|
研究分担者 |
河野 通郎 大阪大学, 核物理研究センター, 協同研究員 (40234710)
宮川 和也 大阪大学, 核物理研究センター, 協同研究員 (70219731)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
|
キーワード | ストレンジネス核物理 / ハイペロン・核子相互作用 / 少数多体系 / 厳密計算 / 中性子星 / ΛNN三体力 / Faddeev計算 / ハイパートリトン |
研究開始時の研究の概要 |
ハイペロンと核子の相互作用では、通常の核子間ポテンシャルと違い、異なるバリオンチャンネルとの結合が生じる。その ΛN-ΣN の結合は、 Λ-N の引力を与える重要な要素であることが知られているが、現在でも定量的理解は不十分な状況にある。そのような結合の強度は、核媒質内では核子の状態がパウリ原理による制限を受けることにより、 ΛNの相互作用が媒質の密度によって変化する。高密度核物質で ΛN-ΣN 結合がどのように変化するかの問題は、中性子星物質の理解にとって本質的である。これらの問題を、NNΛ3体力を導入することで少数系と無限核物質系で対比・協力し、パラメータ化を進めることにより解決をする。
|
研究実績の概要 |
ハイペロンと核子の相互作用に関する研究は進められているが、データの不足により理論的研究が模索されている。特にカイラル有効場理論に基づく研究が注目され、ドイツのグループが唯一パラメータ化を行っている。研究代表者と分担者は、そのグループと独立にハイペロンを含む新しい3体力の構築を試み、その形式や定量的な計算を進め、論文集Physical Review Cに公表した。ハイペロンを1つ含むΛNN3体力は、NNNの3体力と類似した相互作用演算子の型であり、2π交換型である。その3体力を用いたΛNN系のハイパートリトンの3体Faddeev計算結果もPhysical Review Cに公表された。また、2π交換型だけでなく、1π交換型や接触型の3体力も準備し、ハイパートリトンの計算を行って、その結合エネルギーに関する計算結果も同様に公表した。 無限核物質系での新しいパラメータ化の可能性を探索する。Λ重陽子散乱への応用に向けた準備も進められている。技術的な困難により、Λd散乱の直接的実験は近年行われていないため、アメリカのブルックヘブン国立研究所のRHICでのAu+Au衝突実験におけるΛと重陽子の高精度測定を基に、関連する相関関数を議論している。 少数系ハイパー核分野で最も重要な問題の一つは、ΛN-ΣN相互作用の3S1と1S0の相対的な強さが未だ解明されていないことである。K- d→πΛN反応はJ-PARCで実験可能であり、この問題の解決に寄与できると期待される。ΛN閾値近傍で前方角のπを測定すれば、ΛN 1S0は寄与せず、3S1相互作用の情報が得られる。この反応に必要なK- N →πΛ散乱振幅の整備を行い、ΛN-ΣNのカイラル相互作用(NLO19)や中間子理論による相互作用(NSC97)を用いることで、初めて反応断面積の計算結果を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Faddeev方程式はab initio計算であるため、精密な3体理論計算が可能である。NΛ-NΣの2体相互作用のみを用いてハイパートリトンを解く論文はすでに公表されており、研究の中心はΛNN系の3体力を含めた3体Faddeev計算に移行している。ハイペロンを1つ含むΛNN3体力は、令和4年度では、NNNの3体力と類似した2π交換型の相互作用演算子を具体的に計算し、論文として発表した。令和5年度には、その3体力を用いてΛNN系のハイパートリトンの3体計算を行い、ハイパートリトンの結合エネルギーは2π交換型の3体力を含めることでカイラルオーダーやカイラルレンジに左右されない安定した結果を導くことが判明した。この研究成果はPhysical Review Cに公表された。 さらに、2π交換型の3体力だけでなく、1π交換型や接触型の3体力も導入して3体Faddeev計算を行い、この成果もPhysical Review Cに公表している。本研究グループは、世界に先駆けてΛNN3体系に一連の3体力(2π交換型、1π交換型、接触型)を直接導入したハイパートリトンの計算を行った。我々が用いたΛNのカイラルポテンシャルはNLO19というバージョンで、ドイツのJuelich研究所のグループから提供されたものである。その研究グループと共同ではあるが、独立した計算方法を用いて両者の3体力の計算値を比較するベンチマークテストを計画提案している。 また、ΛN閾値近傍、および∑N閾値近傍で、K- d→πΛN、K- d→π∑N反応の計算を行った。この反応において、終状態相互作用の効果が凖自由散乱(Quasi-Free Scattering)から明確に区別できることが判明した。二つの代表的なΛN-ΣN相互作用、NLO19とNSC97fの比較、モデル依存性を検討している。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、他のグループとの比較検討と協力を進め、異なる計算プログラムを用いたベンチマークテストを実施することで、ハイパートリトンの理論的予測の信頼性と妥当性を高めていく。また、カイラル有効場理論に基づいた新たな3体力の探索や改良を進め、正確で一貫性のある相互作用モデルを構築することで、ハイペロンと核子の相互作用の理解を深めることに取り組む。理論研究と実験結果との比較を行い、理論の妥当性を検証しながら、実験データを用いたパラメータの最適化やモデルの改良を進めていく。 ハイパートリトン以外の多体系として、Λ粒子やΣ粒子に代わってΞ粒子やΩ粒子を用いた新たなバリオン間相互作用(ΞN、ΩN、ΛΞなど)の研究にも取り組むことで、ハイペロンを含むより複雑な多体系の特性や挙動を明らかにすることを検討している。また、ハイパートリトンや他の多体系の散乱実験への応用を進め、理論と実験の間のギャップを埋めることで新たな知見を拡張していくことを目指している。具体的には、Λ+d(重陽子)散乱への応用に向けた準備を進めており、近年はΛd散乱の直接的な実験が行われていないが、アメリカのブルックヘブン国立研究所のRHIC(相対論的重イオン衝突型加速器)におけるAu+Au衝突実験で高精度なΛ-dの測定が行われている。これに関連したΛ-d相関関数についても理論的な考察を行っていく。 また、K- d→πΛN、K- d→π∑N 反応については、実際の実験研究において、ΛN-ΣN相互作用の具体的な知見が得られる可能性について検討を行う。 これらの方策を総合的に推進することで、ハイペロンと核子の相互作用の理解を深化させ、物理学の基礎知識の向上に貢献することが期待される。
|