研究実績の概要 |
前年度までの研究において, 静的球対称なシュバルツシルトブラックホールの周囲に, 同じ対称性をもつ物質場(アインシュタインクラスター)を配置したアインシュタイン方程式に無矛盾な時空解の構成法を発展させた. 本研究で対象としているこうしたブラックホールと物質場の複合系は, 天の川銀河の中心付近で実現されていると想定されるが, 一般には角運動量をもつと考えられる. ブラックホールの回転による時空の引きずりおよび物質場の回転運動は, その領域を運動する恒星に影響を与える. こうした観点から今年度は, 前年度の結果を一般化し, 定常軸対称な時空計量のアンザッツのもとでブラックホールと物質場の複合系をアインシュタイン方程式の解として無矛盾に表す時空解の構成について研究を行った. これにより, 2+1次元時空における定常軸対称なアインシュタインクラスターとブラックホールの複合系を記述する一般解を得ることができた. この解の具体的な表示を与えるとともに, 解のパラメーターの分類やエネルギー条件によるパラメーター領域の制限などを系統的に行った. 恒星の運動を考察するための土台となる背景時空解を構成することができた. また今年度は, 静的球対称な時空における準円軌道の近点シフト角の一般公式を導出した. この公式は, 時空の曲率テンソル・準円軌道の中心半径・重力質量で表せることが明らかになった. これにより重力理論を限定することなく, 準円軌道の近点シフト角の議論が行える枠組みを構築した. また物理的に重要となるいくつかの極限を明らかにした. その中で弱場かつ物質場が拡がった状況において, 近点シフトを特徴づける指標が能動的重力質量密度と臨界質量密度の比で与えられることを明らかにした. これらの結果を銀河中心領域および太陽系に適用して, 恒星軌道上にある暗黒成分について制限をつけた.
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