研究課題/領域番号 |
22K03636
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分15010:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する理論
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
瓜生 康史 琉球大学, 理学部, 教授 (40457693)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
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キーワード | 相対論・重力(理論) / 重力波 / 相対論的宇宙物理学 / 数値相対論 / 相対論的回転星 / 連星中性子星 / ブラックホール / クォーク星 / 連星中性子星・ブラックホール |
研究開始時の研究の概要 |
極めて強い重力場と電磁場を伴う高密度天体(中性子星,ブラックホール,クォーク星など)の理論的研究には,数値相対論的シミュレーションが用いられる。このシミュレーションの初期データとして,重力波の成分を含めた高密度星連星や,電磁波の放射を考慮に入れた磁気回転星などの数値解を求める方法を開発し,ここから新たな相対論的天体の理論モデルを構築することを目指す。また,ボゾンスターのようなエキゾチックな天体や,ブラックホールの周りの超強磁気圏の計算,より自由度の高い差動回転則を取り入れた高密度回転星の計算など多様な初期データの計算法開発に取り組む。
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研究実績の概要 |
我々は,継続的に開発しているCOCALコード(Compact Object CALculator)上で,極めて強い磁場を伴う相対論的な星の平衡解を求める数値計算コードを2022年度に開発した。これを用いて,高密度星の最大質量が極めて強い磁場によりどの程度変化しうるかという研究テーマに着手した。この研究には,磁場の強さと中心密度を系統的に変化させて数値解を数多く求める必要があるため計算時間を要している。これまで約8か月間計算を継続し8割程度の数値解を求めたところである。 イリノイ大学他との共同研究で,3軸不等な高密度星の平衡解に内部の流れ場を与えた初期データから相対論的数値シミュレーションを実行することで,楕円形のパターンは回転せずに3軸不等な楕円体の形状を保つ解が得られるかを調べた。相対論的な高密度星は重力波放出によるChandrasekhar-Friedman-Schutz不安定によりこのような解(ニュートン重力下の非圧縮性流体であればDedekind解)になると考えられているが,実際にこれをシミュレーションで求めた例はない。計算量と計算精度の制限により十分長い時間にわたり安定な相対論的Dedekind解を求めることはできなかったが,相対論的重力が強すぎない範囲ではある程度の時間3軸不等のパターンが回転せずにその形状を保ち続ける高密度星の計算に成功した。この結果は査読論文誌に投稿し掲載された。 最後に,イリノイ大学他との共同研究で,COCALコードの並列化を進めた。シミュレーションコードとは異なりCOCALコードでは楕円型方程式をGreen関数を用いて積分形に書き直したものを数値積分するため,高い並列化効率を得ることは難しいが,約20並列で約10倍程度高速化することに成功した。この結果は査読論文誌に投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は前年度に引き続き,極めて強い磁場を伴う高密度星の平衡解の計算を行った。質の良い数値解を求めるためにCOCALコードを改良したことと,当初の予定より多くの数値解を系統的に求めることにしたことから,数値計算に長い時間を要しているが,着実にデータは集まってきている。 COCALコードは定常解を計算する定式化上の特徴から,コードを並列化し高速化することが難しく,これまでは分散コンピューティングで計算効率を上げるようにしていた。今年度の共同研究で,空間的な計量が共形的に平坦な場合を取り扱うサブルーチン群についてCOCALコードを並列化することに成功した。並列化効率は必ずしも良いとは言えないが,約20並列で10倍程度高速化することに成功した。将来的には,一般的な計量を用いた場合や磁場を伴う場合の高密度星の計算コードの高速化も可能と考えている。 共同研究として進めた3軸不等形状の回転高密度星のシミュレーションは,重力波によるCFS不安定に関連するテーマとして長年相対論的回転星の研究者の興味を引く問題だった。今回の計算は,計算機のリソースや計算コードの精度などからまだ準備的な研究と言えるが,3軸不等形状の回転高密度星の初期データを準備できるのはCOCALコードだけであることを生かして,この新しい研究テーマに取り組むことができた。 磁場を伴う回転星に関する論文と3軸不等形状の回転星のシミュレーションに関する論文が各1編査読付き論文誌に掲載され,COCALコードの並列化についての論文も査読付き論文誌に投稿中である。本研究課題の主目的であるコード開発は少し予定より遅れているが,本課題に深く関連する研究テーマを推進することができたので,おおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
極めて強い磁場を伴う高密度星の平衡解の系統的な数値計算を今年度の夏ごろまでに完了させ,球対称星の最大質量を超える超質量星の解やその安定性について解析を進め,結果を論文にまとめ投稿する。その後,連星ブラックホールの初期データ計算コードの開発に着手する。本研究課題の中心テーマである重力波を伴う高密度天体の初期データについては,連星中性子星など幾つかのタイプの高密度天体が研究対象として考えられるが,現在のCOCALコードの開発状況を考慮して連星ブラックホール(BH)の計算に取り組むことにする。この計算に向けて今年度中に,一般的なメトリックを仮定した上で,BHの数値解がトランペット型パンクチュア解となるような定式化を導出し,これを数値計算するコードの開発に着手する。また,このコードを拡張して周囲にフォースフリー磁気圏を伴うBHの計算にも挑戦する。この計算を通して,定式化や数値計算法の妥当性を検証する。 このような計算コード開発を円滑に進めるために,本課題ではワークステーション購入の予算を計上していた。しかしながら,物価高や円安のため当初購入を予定していたものと同等のスペックのワークステーションの購入が難しくなってきている。そこで,過去の科研費で購入したワークステーションのメモリーを大幅に増設することで計算機資源を確保できるか検討する。 また,COCALコードを開発していた前課題をCOVID感染症の影響で2年度延長したため,本課題の初年度が前課題最終年度と重なり,予算執行も1年度程度遅れている状況である。このため,本研究課題は今年度が最終年度ではあるが,十分な研究成果が得られるよう1年間の期間延長を申請することも検討する。
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