研究課題/領域番号 |
22K03646
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分15010:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する理論
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
仁尾 真紀子 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 上級研究員 (80283927)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2025年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
|
キーワード | 異常磁気能率 / 電子 / 量子電磁気学 / ミュオン |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、電子の磁気能率の2からのずれ、異常磁気能率(a_e)の決定について、量子電磁気学(QED)理論に基づく研究を行う。理論値としてのa_eを求めるためには、QED摂動計算での最高次である10次の項の確定を目指す。実験によるa_eの決定方法については、実験状況下の電子の状態へのQEDからの量子補正効果を求め、より高い精度での実験値の確定に役立てる。 これらの研究を通じて、a_eにおいて実験値と理論値の12桁に及ぶ比較を実現する。これにより、素粒子標準理論の最も高精度、つまり、最も厳しい検証を実現し、さらに標準理論を超える新しい物理現象の兆候を捉えることを目指す。
|
研究実績の概要 |
本研究では、電子の異常磁気能率(g-2)の理論値を求めるとともに、実験での測定量からのg-2の値の決定方法の検証を行う。現在は理論値も実験値も、ともに100億分の1程度の精度であるが、さらに高精度を達成することで、素粒子物理の標準理論では説明できない新物理現象の兆候を捉えることを目的としている。 理論値においては、まずは、量子電磁気学(QED)による摂動10次の寄与を確立する。私たちの過去の結果と別グループの計算結果に5標準偏差の差があり、その解決を目指す。本研究に先立ち、ファインマン図の組ごとの比較ができるようにそれぞれの補正項を表式として求め、それら補正項の値を新たに数値計算で求めた。両計算結果の比較を実現し、どのファインマン図の組に対しても、お互いに数値計算の不確かさの範囲内で相互に矛盾はなかった。つまり、2グループの結果の差は数値積分計算に存在するなんらかのバイアスによる可能性が大きい。それが何かは今のところ不明で、どの値が摂動10次の値として正しいかは未だ決定できていない。この解明が本研究の課題である。 実験測定量から電子のg-2を決定は、電磁トラップ内の電子のスピン歳差運動の周波数とサイクロトロン周波数の比を用いる。電子が電磁トラップ内束縛状態にあることの補正は、現在の観測の精度では、古典電磁気学による解析のみで十分である。注目すべきは1ループのQED補正である。現状の精度で十分に見えるはずの大きさだが、観測量の遷移周波数では厳密な相殺が起こり、結果として古典系になっている。そこで、2ループのQED補正が本研究の対象となる。まず、既知の1ループ補正項を従来の計算とは異なる方法で再現することを目指す。これにはQEDを非相対論的な系に対しては等価である理論に書き直したNRQEDを用いる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
QED摂動10次項の確定については、数値積分計算の実行に、従来とは異なる方法を採用する。一般的な数値積分研究の展開を注視しつつ、さまざまな方法による改良を比較的簡単なQED g-2の積分に適用し、どのような方法がQEDg-2の数値計算に最適かを検討している。 もう一つのテーマである実験からの電子g-2の値の決定式へのQED補正項については、1ループ補正項のうち、NRQEDの低エネルギー側の寄与の計算を終え、これが遷移周波数には依存しないことを再確認した。 2021年のミュオンg-2ならびに2022年の電子g-2、それぞれの新測定値の発表に触発され、QEDの摂動12次の項について検討を始めた。ミュオンg-2の摂動12次に予想外の大きな寄与を与えるファインマン図の存在に新たに気づいた。概算通りの寄与があるならば、理論値を大きく変更することになる。これを確かめるために、ファインマン図からの寄与を数値計算によって評価した。結果として、概算ほどは大きな寄与は与えなかった。現状の素粒子標準理論のミュオンg-2の予言値をほとんど変えないことが判明した。
|
今後の研究の推進方策 |
フェルミ国立研究所ではミュオンg-2実験のデータ蓄積が順調に進んでおり、新しい実験値が数年内に発表されることは確実である。そこで、QEDg-2計算においては、摂動12次からのミュオンg-2への主要な寄与を得ることを最優先に研究をすすめる。 摂動10次の数値計算実行については、2023年11月に理研のスーパーコンピュータシステムの入れ替えを考慮して、新システムに合わせたプログラムの移植を行う。 電子g-2の値の決定式へのQED補正項については、NRQEDの高エネルギー側の有効相互作用を求めて、低エネルギー側と合わせて、運動量のカットオフパラメタに独立な寄与を構成し、既存の1-loopの結果を確認する。そののち、2-loopの計算に道筋をつける。
|