研究課題/領域番号 |
22K03650
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分15020:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する実験
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
山口 洋平 東京工業大学, 理学院, 助教 (30751119)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2023年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 光学多層膜 / 遷移放射 / ハドロン同定 / ジェットフレーバー識別 / 遷移輻射検出器 / フォトニック結晶 / ハドロン識別装置 |
研究開始時の研究の概要 |
素粒子物理のエネルギーフロンティアにおいて、ハドロンジェットに対する識別性能が著しく低下している。これを解決するために、フォトニック結晶を用いた検出技術を開発する。この技術はハドロンが起こす遷移放射を、フォトニック結晶の高精度な周期構造によって共鳴させる。共鳴はハドロンのLorentz factorに依存して振舞うため、高運動量のハドロン同定に利用可能である。加えて数mmの結晶で十分な光量が期待されるので、検出器をコンパクトにできる。この技術をもとにテラ電子ボルトを越える高運動量ジェットのハドロン組成を測定し、ジェットの起源となったクォークの識別を実現する。
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研究実績の概要 |
誘電率の境界が極めて周期的に作られるフォトニック結晶を通過させることで、1荷電粒子による遷移放射が共鳴する現象の実証実験を進めている。まず結晶のデザインのために、数値計算の開発を進めた。結晶に閉じ込められる遷移放射の量を大幅に削減する設計を完成させ、これによりSiO2とNb2O5を100層ほど繰り返すことで、Lorentz Factor 500程度の超相対論的な運動を行っている荷電粒子に対して、共鳴が観測可能になることを突き止めた。先行研究では3000層程度の積層で初めて観測が可能になることに比べると、飛躍的な改善である。さらに光学多層膜メーカー数社との打ち合わせを繰り返し、スパッタリング手法で成膜すれば、共鳴を起こすのに必要な膜厚の精度が得られる見通しを得た。ただし100層もの積層を行う過程で、SiO2とNb2O5の応力の違いによって、膜が剥がれる危険があることが明らかになり、より少ない層数での観測の可能性を探っている。 共鳴遷移放射を測定するための検出器の製作も進めている。放射のスペクトル、角度分布を可視光域で取得するデザインを組み立てた。読み出し回路の製作を開始し、現在性能の評価を進めている。 将来的に共鳴遷移放射によって超高エネルギーのハドロン同定が可能になった際の、それを利用したジェットフレーバー識別の開発も並行して遂行した。LHC-ATLAS実験において現在使用されているボトムジェットの識別アルゴリズムにハドロン同定の情報を加えた結果、改善の可能性が示唆された。しかし識別を行う機械学習のアーキテクチャによって、改善の程度が大きく変化することも明らかになった。これはBハドロンの崩壊過程を再現するような機械学習を実現する必要性を示唆しているため、今後はハドロン同定の情報を最大限に生かすアーキテクチャの設計を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
フォトニック結晶の設計において数値計算結果に先行研究との差異が見つかったため、数値計算の開発に遅れが生じた。具体的には共鳴遷移放射の角度分布において、本研究における当初の計算ではそのまま角度分布を計算していたが、先行研究では短い角度インターバルで積分を実行した結果を示していた。この差の理解に時間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
結晶の設計を完成させ、少ない層数の試作品を複数製作する。この結晶に実際に放射線、および宇宙線ミューオンを入射させて、背景事象の理解を進めるとともに、検出器を完成させる。最終的な共鳴遷移放射の実証試験は加速器の電子ビームラインを用いて、可視光域の遷移放射を共鳴させることで実施する。 試験で得られた結果から、共鳴遷移放射が持つ超高エネルギー荷電粒子の同定性能の評価を行う。 また超高エネルギーハドロンの同定に基づいたTeVスケールジェットのフレーバー識別について、アルゴリズムの開発を進める。 共鳴遷移放射による新しい検出器技術を内外の分野に波及させるためには、日本物理学会で定期的に研究成果を発信していく。
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