研究課題/領域番号 |
22K03710
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分17010:宇宙惑星科学関連
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研究機関 | 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群) |
研究代表者 |
渡邉 恭子 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群), 応用科学群, 准教授 (10509813)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 太陽フレア放射 / 地球電離圏 / 宇宙天気 / 数値計算モデル / 太陽放射 / 電離圏 |
研究開始時の研究の概要 |
太陽からの放射、特に太陽フレアなどの強力な放射は、しばしば地上のインフラにまで多大な影響をもたらす宇宙天気現象を発生することが知られている。最近では、いつ・どこで・どの程度の影響があるのかを予測・予報することが求められている。そこで本研究では、太陽放射による太陽地球圏環境への影響とその変動の物理メカニズムを理解し、宇宙天気変動の予測・予報を発信できるシステムの構築を目指す。具体的には、太陽放射スペクトル予測モデルから得られた太陽放射を地球電離圏モデルへ適用し、これらのモデル計算結果をタイムラグなく発信するシステムを構築することで、太陽フレア放射地球圏環境影響予報システムの構築を目指す。
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研究実績の概要 |
まず、本研究課題の1年目においては、特に太陽フレア放射の地球電離圏への影響について観測データを用いて検証を行い、その詳しい応答についてモデル化を行うための検討を行った。 太陽フレア放射スペクトルは、現在研究代表者らが用いている数値計算モデル (Kawai et al., 2020) やFISM2 (https://lasp.colorado.edu/lisird/data/fism_flare_hr)、そしてSDO/EVEによる観測データを用いた。地球電離圏への影響については、情報通信研究機構 (NICT) が保有している地球電離圏の全電子数分布の時間変化の観測値や、デリンジャー現象の情報が得られるイオノゾンデのデータを用いた。NICTが開発した地球電離圏モデルGAIAに上記の太陽フレア放射スペクトルを入力し、電離圏における電子数高度分布の時間変化を各入力波長について求め、その結果を全電子数の観測値やイオノゾンデで観測されている最短反射周波数 (fmin) と比較を行った。 9例のXクラスフレアからの放射を用いて導出した全電子数の変動について、GAIAの計算値と実際の観測値を比較したところ、全電子数の変動には35 nm以下の軟X線とEUV放射、特にX線と10 nmあたりにあるFeイオンのライン (Fe XVII, Fe XIX)、そして30.38 nmのHe IIのラインなどが、正しい全電子数の見積もりに大きな影響を及ぼしていることが分かった (Nishimoto et al., 2023)。また、GAIAの計算値を用いて電波の最短反射周波数を求め、それを実際に観測されたfmin値と比較したところ、現在はまだGAIAに導入されていない電離圏D層の太陽フレア放射への応答を、太陽フレアのX線放射を用いて擬似的に導入することで、デリンジャー現象の再現性が高まることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在、主に本研究課題2年目に行う予定であった太陽フレア放射の地球電離圏への影響についての検証が進められている。本検証に用いている地球電離圏モデルGAIAには、デリンジャー現象の発生に大きく影響している電離圏D層のモデルがまだ取り入れられていないが、電離圏D層の電子数変動の90%はX線放射が影響しており、極紫外線放射による影響は小さいことが我々のこれまでの研究からわかっている。これより、電離圏D層の電子数変動の再現にはまずX線に対する反応が取り入れられれば良いことから、日本原子力研究開発機構が開発して公開している高エネルギー反応のモンテカルロ計算コード「PHITSコード (https://phits.jaea.go.jp/indexj.html)」を用いることを検討している。PHITSコードのGAIAモデルへの導入により、デリンジャー現象の再現性が高い電離圏モデルが構築できる。 当初研究課題1年目に、SDO衛星が観測した太陽画像データを用いることにより、機械学習の手法を用いてフレア発生前のどの太陽の様相がフレアループ長を決めているかを同定するとしていたが、機械学習を用いてもフレアに関連した太陽の様相とフレアループ長の関係性は導出できなかった。そこで、衛星観測される太陽紫外線画像データではなく、地上で観測でき紫外線放射との相関が良いとされている電波放射の多周波データを用いて、太陽からの紫外線放射スペクトルを機械学習の手法を用いて導出する研究も進めている。この研究については、まだ約11年の太陽活動周期における変動について紫外線放射スペクトルの再現に成功しただけであるが、太陽フレア放射についてもモデル化を進めている。 以上のように、当初の予定通りに進まなかった点についても代替案で対処できているため、本研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず、当初の予定通り、太陽フレア放射の地球電離圏への影響についての検証とモデル構築を進めてゆく。前述の通り、本検証に用いている地球電離圏モデルGAIAには、全電子数に寄与する電離圏F層およびE層についてのモデルは含んでいるが、デリンジャー現象を再現するためのD層は実際には取り扱っていない。電離圏D層の電子数変動の90%はX線放射が影響しており極紫外線放射による影響は10%程度と小さいため、電離圏D層の電子数変動の再現にはまずX線に対する反応が取り入れられれば良い。そこで、日本原子力研究開発機構が開発して公開している高エネルギー反応のモンテカルロ計算コード「PHITSコード (https://phits.jaea.go.jp/indexj.html)」を電離圏D層のモデル構築に用いる。PHITSコードのGAIAモデルへの導入により、デリンジャー現象の再現性が高い電離圏モデルが構築できる。 これまでは地球電離圏への影響として全電子数とデリンジャー現象を取り扱ってきたが、全ての通信に使われている周波数の通信障害について予測ができるように、イオノゾンデ以外の電離圏観測データとの比較も進めてゆく。 また、多周波太陽電波データを用いた太陽フレアEUV放射スペクトルの導出モデルの構築も機械学習の手法を用いて進めてゆく。太陽電波データでは、フレア発生前の情報は得られないが、太陽フレア放射モデルを電波放射のデータを含めて構築することで、より再現性の高いモデルとすることができる。
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