研究課題/領域番号 |
22K03717
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分17020:大気水圏科学関連
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
松本 潔 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (60373049)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
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キーワード | エアロゾル / 沈着物 / タンパク質 / 大気沈着 / 有機態窒素 |
研究開始時の研究の概要 |
エアロゾルは、雲核として雲や降水の発生を促すなど気候システムに深く関わる。また、沈着により大気から生態系に窒素を供給する一方で、人間の健康リスクにも関わる。これらを考察する上で、エアロゾルに含まれるタンパク質は注目すべき成分であるが、測定方法の検証が不十分であり、測定例は限られている。 本研究では、エアロゾル中タンパク質の測定方法を検証し、これまで注目されず見落とされてきた難溶性画分も含めた濃度レベルを、都市、森林、海洋といった異なる大気環境において採取したエアロゾル試料の分析から評価し、発生源を解明する。さらに、タンパク質の沈着量や沈着プロセスを解明し、生態系の窒素源としての重要性を評価する。
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研究実績の概要 |
都市域に位置する山梨大学甲府キャンパスと森林域に位置する富士山科学研究所にて、エアロゾルを粗大粒子と微小粒子に分け1年間連続して採取した。山梨大学では並行して湿性及び乾性沈着物試料も採取した。 森林域で採取されたエアロゾル試料については、加水分解-HPLC法による水溶性及び難溶性タンパク質の定量に着手した。エアロゾルの採取されたフィルターを気相加水分解に供した後、0.1M塩酸を加え超音波照射し、溶解したアミノ酸をイソチアン酸フェニル誘導体化法によりHPLCで定量した(①)。これとは別に、フィルターを超純水中に移し超音波照射し水溶性画分を抽出の後、気相加水分解を行ない、HPLC分析にて水溶性アミノ酸を定量した(②)。更に気相加水分解を行わずに同様の分析を行うことにより、水溶性遊離態アミノ酸の定量も行なった(③)。①と②の差から難溶性タンパク質、②と③の差から水溶性タンパク質の濃度を求めた。気相加水分解によるアミノ酸の回収率は、インスリン溶液を用いて確認した。 これまでの分析結果から、過去にほとんど報告例のない難溶性タンパク質のエアロゾル中濃度の定量が、上記の方法により可能であることが確認された。また、難溶性タンパク質は水溶性タンパク質よりも数倍程度高い濃度でエアロゾルに含まれていることも明らかになった。水抽出画分のみを対象とした分析では、エアロゾル中タンパク質を過小評価している可能性が考えられる。 都市域で採取されたエアロゾル及び沈着物試料、既に採取してあった海洋域(南極海および利尻島)のエアロゾル試料については、タンパク質の分析は未着手であるが、水溶性主要イオン成分や全炭素、全窒素などの定量を行なった。森林域でのエアロゾル試料についても、これらの成分の定量を行なった。また、蛍光法による水溶性タンパク質の定量のために分光蛍光光度計を購入・設置し、標準物質の試験分析を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
加水分解-HPLC法によるエアロゾル中の水溶性及び難溶性タンパク質の定量に成功した。過去に難溶性画分を対象としたエアロゾル中タンパク質の測定に関する報告例はなく、回収率やブランク値、検出下限などを確認した上で、定量方法を確立した。 本研究の実施に必要な都市域および森林域におけるエアロゾル試料、都市域における湿性及び乾性沈着物試料は、1年間滞りなく採取することができた。これらの試料に加え、既に採取してあった海洋域のエアロゾル試料について、主要イオン成分や水溶性・非水溶性の全炭素、有機態炭素、全窒素などの定量をすべて終えた。これら成分の濃度は、エアロゾル及び沈着物中タンパク質の発生源や環境影響を議論する際に必要な情報となる。 森林域で採取されたエアロゾル試料は、そのおおよそ半分程度について、加水分解-HPLC法による水溶性及び難溶性タンパク質の定量を行ない、その濃度レベルや粒径特性、反応性窒素への量的寄与を明らかにした。 なお加水分解-HPLC法による定量方法の確立を優先したため、蛍光法による水溶性タンパク質の分析は未着手だが、新たに購入・設置した分光蛍光光度計の性能確認は終えることができた。 以上の進捗状況から、当初の計画通り順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
蛍光法によるエアロゾル及び沈着物中水溶性タンパク質の定量法を確立し、加水分解-HPLC法との比較から両測定法の精度の検証を行う。 都市域、森林域、及び海洋域で採取されたすべてのエアロゾル試料、沈着物試料について、本研究で確立した加水分解-HPLC法及び蛍光法により水溶性タンパク質の定量を行なう。また、加水分解-HPLC法による難溶性タンパク質の定量も行なう。得られた結果から、エアロゾル中タンパク質濃度の地理的分布特性、季節性、沈着特性を明らかにする。また、全窒素の分析結果と比較することにより、エアロゾル中及び沈着物中反応性窒素への量的寄与とその地理的特性や季節性を明らかにし、大気沈着を通した地表環境への窒素供給におけるタンパク質の役割、特に、これまでに報告例のない難溶性画分の役割について、評価を行なう。 主要イオン成分や全窒素、炭素成分など他の成分濃度に加え、気象因子、気団の輸送経路、NOxなどの大気汚染物質濃度を含めた統計解析を行ない、これらタンパク質の発生源を評価すると同時に、沈着量を支配する要因を明らかにする。 以上の結果をもとに、エアロゾル中タンパク質が大気圏を介した反応性窒素循環の中で果たす役割と、人間活動によるその将来的な変化、その変化がもたらす気候システムや生態系への影響について評価する。
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