研究課題/領域番号 |
22K03727
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分17020:大気水圏科学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
森岡 優志 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 付加価値情報創生部門(アプリケーションラボ), 副主任研究員 (90724625)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 南極海 / 海氷 / 十年規模変動 / 予測可能性 / 大気海洋結合モデル / 海氷予測 |
研究開始時の研究の概要 |
南極海の海氷に見られる10年規模変動は、太平洋域と大西洋域で大きく、様々な物理プロセスが関わっている。しかし、これらの海域で海氷の10年規模変動に関する予測研究は十分に行われておらず、海氷の予測精度や予測の鍵となる物理プロセスは十分に理解されていない。そこで、本研究では、南極海のこれらの海域に焦点を当てて、複数の気候モデルを用いて、過去に観測された海氷を10年前から予測する実験を行い、海氷の10年規模変動の予測可能性を明らかにする。気候モデルの大気、海洋、海氷の3成分をそれぞれ観測データや再解析プロダクトに近づけて実験を行い、海氷の予測精度を評価し、予測の鍵となる物理プロセスを調べる。
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研究実績の概要 |
地球温暖化の影響を受けて減少を続ける北極海の海氷と異なり、南極海の海氷は1979年から2015年までわずかに増加し、2016年以降減少している。南極海の海氷に見られる十年規模変動は、海氷の将来変化に関わるため、変動を理解し予測することは重要である。先行研究では、過去に観測された海氷の十年規模変動を気候モデルで予測できないことが問題となっている。原因の一つとして、モデルの海洋や海氷の初期値が観測値と異なることが挙げられている。南極海では、人工衛星による海面水温や海氷密接度の観測データが1980年代から存在している。また、2000年代後半からアルゴフロートなどの導入により、海洋内部の水温や塩分などの観測データが増えつつある。こうした観測データをモデルの初期値に取り込むことで、海氷の十年規模変動の予測精度が向上する可能性がある。 本研究では、欧州地中海気候変動センター(CMCC)と協力して、気候モデル(SINTEX-F2)の海面水温、海氷密接度、海洋内部の水温と塩分を1980年代から近年まで観測データで初期化し、過去再予測実験を行った。その結果、モデルの海面水温と海氷密接度を初期化した実験でウェッデル海の海氷を、モデルの海洋内部の水温と塩分を初期化した実験でアムンゼン・ベリングスハウゼン海の海氷を、十年先まで予測できることがわかった。特に、アムンゼン・ベリングスハウゼン海では、2000年代後半から東向きの南極周極流が強化されて海水温が低下し、また、海氷がロス海から移流されて、海氷が増加する様子をモデルが捉えていた。一方、ウェッデル海では、海洋内部の水温と塩分の観測データが他の海域に比べて少なく、モデルの海洋内部の水温と塩分を初期化した実験では、海氷の予測精度の向上が見られなかった。 これらの成果を国際雑誌に主著論文として出版し、プレスリリースを行うことができた。また、国内外の学会で研究成果を発表することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、南極海の海氷に見られる十年規模変動について、気候モデルの海面水温、海氷密接度、海洋内部の水温と塩分を観測データで初期化することで、ウェッデル海やアムンゼン・ベリングスハウゼン海の海氷を十年先まで予測できるようになった。しかし、2000年代より以前は、南極海で海洋内部の水温と塩分の観測データが不足しており、モデルの海洋内部の水温と塩分を観測データで初期化しても、海氷の予測精度が向上しなかった。海洋内部の水温と塩分は、海面の風応力や熱フラックスなどの影響を受けて変動するため、モデルの大気をさらに観測データで初期化することで、海氷の予測精度が向上する可能性がある。 そこで、米国海洋大気庁地球流体力学研究所(NOAA/GFDL)と協力して、気候モデル(SPEAR)の海面水温、海面気圧、風、気温を観測データおよび再解析プロダクトで初期化して、過去再予測実験を行った。その結果、モデルの海面水温、海氷密接度、海洋内部の水温と塩分を初期化する実験に比べて、南極海の海氷に見られる十年規模変動の予測精度が向上することがわかった。特に、1980年代に南極海で西風が強化し、湧昇流が強化していた。これにより、亜表層から高温で高塩分な海水が海面付近に運ばれ、鉛直混合が盛んになり、海氷が減少する様子をモデルが捉えていた。また、西風の強化には、大気の内部変動である南半球環状モードが関わっていた。これらの成果は、南極海の海氷に見られる十年規模変動を精度良く予測するためには、モデルの海洋や海氷だけでなく大気もまた、観測データなどで初期化する必要があることを示唆する。 以上の成果を国内外の学会で発表するだけでなく、国際雑誌に主著論文として投稿して改訂作業を行っており、順調に研究が進展している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、南極海の海氷に見られる十年規模変動は、気候モデルの海洋、海氷、大気を観測データや再解析プロダクトで初期化して予測実験を行うことで、十年先まで予測可能であることがわかった。しかし、海氷の観測データは衛星観測が始まった1979年から現在まで約40年間と短く、十年規模変動の物理プロセスを調べるには十分ではない。また、海氷の十年規模変動が地球温暖化の影響を受けて過去から現在、将来にかけてどのように変化しているか、明らかにされていない。 そこで、米国海洋大気庁地球流体力学研究所(NOAA/GFDL)と協力して、南極大陸の氷床コアから復元された過去2000年分の気温データを解析し、また、3000年に及ぶ気候モデル(SPEAR)の長期積分実験を行い、海氷の十年規模変動の物理プロセスを明らかにする。特に、数十年に一度発生する、南極海の深い対流に着目し、深い対流が亜表層の高温で高塩分な海水を海面付近まで運び、海氷の減少に寄与していないか、調べる。また、南極海の深い対流の発生に、海面付近の風応力や熱フラックスなどが影響していないか、大気の変動との関係を調べる。 一方、地球温暖化の影響を調べるため、気候モデルの温室効果ガスを1851年から2100年まで増加させた実験と産業革命前の一定値で与えた実験を行う。両者の実験を比較することで、温室効果ガスの影響を受けて、南極海の海氷に見られる十年規模変動の振幅や周期が変化していないか、調べる。特に、温室効果ガスの影響を受けて、南極海の海氷が減少した場合、海洋の鉛直成層が弱まり、深い対流が発生しやすくなり、海氷の十年規模変動が強まっていないか、明らかにする。 以上の成果を国際雑誌に主著論文として投稿し、また、国内外の学会で研究成果を発表する。
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