研究課題/領域番号 |
22K03735
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分17030:地球人間圏科学関連
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
寺田 暁彦 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (00374215)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
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キーワード | 土壌気体水銀 / 側噴火 / 水蒸気噴火 / 熱水系 / 火山防災 / 地中温度 |
研究開始時の研究の概要 |
活動中の火口の外側において,将来的に「側噴火」が発生する可能性の高い場所を探し当てる.そのために,土壌から揮発する気体水銀を高精度で多点観測する.水銀は温泉や火山ガスに含まれる微量成分で,透水性の高い亀裂を通じて上昇してくる.環境中の水銀存在量は極めて少ないので,ごく僅かな水銀でも,それは火山ガスの上昇に対応している可能性がある.本研究は,水俣病公害の原因物質でもある水銀と,噴火災害軽減とを結びつけ,地中に潜在する亀裂を地球化学的に検出する新しい試みである.主たるフィールドは,2018年,活動火口から 1.2 km 離れて草木が生い茂っていた山林から突然噴火を発生させた草津白根火山である.
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研究実績の概要 |
水銀などを含むマグマガスが地下から浅部へと上昇する際,断層などの透水係数の高い領域を選択的に通過すると考えられる.そのため,地表面から放出される水銀の空間分布を測定することで,側噴火発生場所を支配する地中の透水性を検討できる可能性がある.しかし,地表面付近における水銀放出機構は未解明である.例えば,水銀放出率が顕著に日変動することが知られており,その背景はよく理解されていない. 今年度は,土壌水銀放出率の精密測定および地温の連続観測を複数回にわたって実施した結果を解析した.いずれの測定でも,水銀放出率 φ の対数値(ln φ)は地表面付近の温度 Tc の逆数(Tc‐1)に対して楕円状の関係が得られた.この関係は,他に実施した4回のいずれの測定も同様であるが,先行研究には認められない.観測データを検討した結果,φ は Tc に対して時間遅れして変化していることが分かった.すなわち,水銀測定よりもΔt (s) 前に測定された Tc を参照すると,ln φ は Tc‐1 に対して直線的な関係となる.これは,一般にアレニウス相関と呼ばれ,先行研究から示唆されている議論に一致する. そのような時間遅れを実現する機構の一つとして,地中温度が水銀放出を支配していると考える.水銀放出を支配する深度を見積もったところ,地表下の約 20 mm 前後と推定された.このとき,活性化エネルギーは 60±20 kJ/mol であり,これは,水銀蒸発エンタルピーに矛盾しない.すなわち,地表からの水銀放出は,地下約 20 mm 前後における水銀の蒸発に支配されている.この深さは,気温変動に起因する地中温度変動が大きい一方で,日射に起因する光還元の効果が及ばないのであろう.観測された φ を,同時測定した20mm地中温度に基づき補正することで,火山における水銀放出率の時・空間変化の詳細を示すことが可能である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水銀放出率観測を実施するうえで障害となっていた環境依存性について理解が進展した.すなわち,実用上の成果として温度補正式を確立し,測定すべき温度が20mm地温であることをデータに基づいて示した.これにより,異なる温度環境下においても,得られた水銀放出率の定量比較を可能とした.これは,本課題において得られた大きな成果であり,間もなく専門誌へ論文投稿される.活性化エネルギーは概ね水銀蒸発エンタルピーに一致すると考えているが,データ詳細に検討すると本研究で得れた値は水銀蒸発エンタルピーとは10%程度異なる.これが測定精度によるものか,本質的に別要因が存在するのかを解明することは,水銀放出機構を理解するために重要である.以上のように,実用上の成果が得られた一方で,現象解明の観点からはなお研究を要することから,概ね順調と自己評価した. 概ね順調とした理由のもうひとつが,多点観測である.本年度は,草津白根山の白根山,および本白根山において20m程度という狭い間隔て多点観測を実施した.温度補正と併せて検討を進めたところ,流水による地表面付近での土砂移動が,本来の火山現象としての水銀放出分布を乱されている可能性が示唆された.このように新しい認識を得た一方,その理解が定性的なことから,概ね順調と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
本課題の最終目的である「山体に潜在する亀裂のマッピング」を進める.これまでの研究の結果,2cm地温を同時測定しつつ,あとは広範囲にわたり測定を実行すれば,少なくとも水銀放出率の空間分布を示すことが可能と思われる.この観測については,草津白根山,あるいは他の側噴火発生が危惧される火山を優先的に選定して実施してゆきたい. 一方で,水銀放出率は狭い空間で大きく増減することが,昨年度実施した狭い間隔での測定により明らかとなった.このような特徴は,二酸化炭素を用いた測定においても認められるものの,二酸化炭素と水銀との同時測定を行ったところ,水銀の方がより増減が大きいことが分かった.そのため,今後実施する多点観測結果は,必ずしも当初期待しているような分かりやすい結果にはらないかも知れない. この状況を想定し,今後実施する測定においては,地中ガス採取も併せて実施することとする.地中ガスから示唆される希ガス同位体から,ガス起源を議論する有効性については,初年度成果からも明らかである.地中ガス採取を多点で行うことは困難なため,水銀測定と併せて地中ガス採取場所を選定すべきである.
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