研究課題
基盤研究(C)
日本を代表する汽水湖である中海は境水道を通して日本海とつながっているが,本来汽水域に生息しない高塩分嗜好性のメイオベントス(小型底生生物)が中層水深から多産することがあり,日本海水の流入の影響による分散の可能性が示唆される.本研究では,将来の地球温暖化などの気候変動によって汽水湖が受ける影響を評価するため,高塩分嗜好性メイオベントスの湖内への分散過程やその歴史的変遷を明らかにする.
本研究の目的は,中海における底生有孔虫(メイオベントス)の分散過程を明らかにすることにある.2022年度から継続してプランクトンネットを用いた中海湖内浮遊粒子の捕集を行い,底生有孔虫の産状を検討した.2023年の4月,5月,8月,10月,2024年の3月に野外調査を行い,各調査月において,中海湖心付近から水深別に5層,一定時間プランクトンネットの水平曳きを行った.また,水平曳きに加え3定点で鉛直曳きを行った.4月においては,すべての水深でプランクトン生物が多く捕集された.また,下層水深では小型の石灰質殻有孔虫の生体が確認された.8月においては,中層水深でわずかに遺骸有孔虫が確認された.下層水深では多くの有孔虫が確認されたが,湖底からの粒子の巻き上がりの影響と考えられる.中層水深ではプランクトン生物が多く捕集され,下層水深ではあまり捕集されなかったことから,夏季には躍層の影響が示唆された.2021年8月に中海広域で採取された表層堆積物試料を用いて,生体・遺骸底生有孔虫群集解析を行った.種多様性は,海水の流入口である境水道からの酸素・塩分勾配に沿って変化した.中海では汽水性のTrochammina hadai とAmmonia “beccarii”が優占種として存在し,Trochammina hadaiは中海の広域に分布し,とくに湖心~東部,本庄水域の東部で優占した.Ammonia “beccarii”は中海の南部や南東部(米子湾),本庄水域の西部で優占しており,両種の優占域は異なっていた.過去の研究結果と比較すると,近年Trochammina hadaiの分布が拡大しており,本庄水域ではAmmonia “beccarii”,Trochammina hadaiの住み分けが顕著になったことが示唆された.
2: おおむね順調に進展している
各季節においてプランクトンネットを用いた水深別の湖内粒子の捕集を行うことができ,底生有孔虫個体が捕集されていることも確認できた.表層堆積物中の生体・遺骸底生有孔虫の分布も明らかになり,湖内への海水の影響範囲や近年の環境変化が明らかとなった.
中海湖心でのセジメントトラップアーカイブ試料を用いて,気象条件と捕集粒子との関係を明らかにする.また,これまでに得られた結果について,学会発表や学術雑誌への投稿を行う.
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