研究課題/領域番号 |
22K03749
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分17040:固体地球科学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
豊国 源知 東北大学, 理学研究科, 助教 (90626871)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | グリーンランド / 地震波トモグラフィー / 北極 / マントル / 地震波速度異方性 / プレート沈み込み / 地震学 / 大西洋中央海嶺 / 地殻・マントル |
研究開始時の研究の概要 |
北極地域は広い海域や氷床に阻まれて地球物理学的観測が十分に行えず,他地域に比べ地下構造の研究が遅れていた.申請者はグリーンランド氷床上に世界初の地震観測網を構築し,維持を続けている.申請者らの最新の研究では,グリーンランド直下にホットプルームが発見されるなど,北極地域の地下の熱く動的な姿が明らかになりつつある.またグリーンランド氷床融解の一部は地熱が原因と考えられており,地下構造は海水準変動予測の上でも重要な鍵となる.研究では,様々な地震学的手法を駆使して高度な地下構造推定を行うことで,北極地域を起点とした地球内部ダイナミクスや地球進化史,地球環境変動の新たな理解を得ることを目指す.
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研究実績の概要 |
本課題第2年度である23年度は、課題代表者が開発した新しいトモグラフィー手法を用いて、北緯30度以北の北半球全域下の詳細なP波速度構造推定を行った(Toyokuni & Zhao, 2023, PEPS)。この手法は、対象となる大領域を複数の小領域に分け、それぞれの小領域について詳細なトモグラフィーを実行した後、各グリッドの周囲を通過する波線数を重みとした加重平均を取ることで、大領域下の高分解能な地下構造モデルを得る手法である。得られたモデルによって、ロシア下に沈み込むイザナギスラブの詳細な形状を初めて明らかになったうえ、カナダとグリーンランドの分裂メカニズムを初めて説明することができるなど、地球科学的に重要な知見が得られた。
また従来の等方的な地震波速度だけではなく、地震波速度異方性も考慮したグローバルトモグラフィー手法の開発に成功した(Takada, Toyokuni & Zhao, 2023, 日本地震学会秋季大会)。地震波速度異方性は、地下の同じ場所における地震波速度が、地震波の伝播方向によって変わる現象であり、特にマントル内においては、マントルの大規模な流れを反映した結晶の選択配向によって形成される。したがって地震波異方性構造を明らかにすることで、マントル内の流れ場などの動的状態を推定できる。
従来のグローバルトモグラフィー手法では、対象地域下を詳細に調べることができるものはすべて等方性地震波速度のみを扱っていた。今回、地震波速度異方性を扱うことができるようプログラムの拡張開発を行った。テスト地域として、地下構造がよく知られている日本とその周辺地域下を選び、核-マントル境界から地殻に至るまでの方位異方性構造を初めて明らかにすることができた。この成果は24年6月に国際誌に投稿予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
23年度に出版した論文は、本課題当初からの目論見である「北極地域下における地殻・マントル構造の包括的高精度推定」の中核をなす成果と位置付けられる。従来のトモグラフィー手法では、計算資源の問題から、詳細な地下構造推定は地球の中心角距離で30°×30°ほどの領域に制限されていた。今回、個々の地域について実行したトモグラフィーモデルを繋ぎ合わせ、パノラマ写真のように大規模な領域を調べることができる手法の開発に成功した。テスト計算の結果、個々の領域が互いに十分に重なるように配置されていれば、繋ぎ合わせることによる構造のゆがみはほぼ見られず、精度よく大規模な構造を推定できることが明らかとなった。今回得られた北半球全体の詳細なP波速度構造モデルは、ユーラシア大陸、北米大陸と、その間にある北極地域のテクトニクスの関係について数多くの重要な知見を与える。
さらに23年度は、対象地域下の全マントルにおける地震波異方性構造を詳細に明らかにする手法も開発した。23年度は手法開発がメインだったため、日本とその周辺地域下の構造を対象としたテスト計算のみに留まったが、今後世界の様々な地域に本手法を適用することで、未知の下部マントルの流れが次々と明らかになると期待される。
以上のことから、23年度までの本課題は、当初の計画以上に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
24年度以降は、23年度に開発した地震波異方性トモグラフィー手法をグリーンランド下に適用することで、マントル内の詳細な流れ場を推定する。
また地震波干渉法を用いて常時微動から表面波の波形を抽出する。先行研究では観測波形の上下動成分のみが用いられていたため、抽出された表面波はレイリー波のみであった。本課題では3成分全てを用いることでラブ波波形の抽出を行う。またレシーバー関数解析でモホ面深さの分布を求める。2種類の波形とモホ面の情報を統合して表面波トモグラフィーを行うことで、地殻と最上部マントルの高分解能なS波速度構造モデルを得る予定である。
さらに人工知能で読み取った大量のP波・S波到着時刻データを用いた実体波走時トモグラフィーで、高分解能な3次元P波・S波速度構造モデルを得る予定である。先行研究では主に手動読み取りによるデータが用いられていたため、読み取りが難しいS波の解析は行われていなかった。本課題では世界初のS波速度(Vs)構造モデルを構築し、P波速度構造(Vp)モデルも高度化することで、地下の液体や高温地域に感度が高いポアソン比やVp/Vsといった物理量の3次元分布を得る予定である。
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