研究課題/領域番号 |
22K03767
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分17040:固体地球科学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
宮崎 隆 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海域地震火山部門(火山・地球内部研究センター), 主任研究員 (80371722)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | バリウム安定同位体 / 海洋島火山 / 沈み込み / マントル / 物質循環 / Ba安定同位体 |
研究開始時の研究の概要 |
プレート収束境界で、マントル中に沈み込んだ海洋底堆積物などは、マントル中に滞留しながら移動し、海洋島火山岩の一部成分として地球表層にリサイクルしていることが知られている。海洋底堆積物のBa濃度は、変質した海洋地殻の500倍、マントルの10000倍にもおよぶため、海洋島火山岩のBa安定同位体比は、沈み込んだ海洋底堆積物の影響を大きく受けると考えられる。本研究では、太平洋や大西洋などに点在する海洋島火山岩試料を対象に、バリウム安定同位体比の高精度分析を行う。元素濃度データやバリウム以外の同位体比データとの比較から、バリウム安定同位体比を用いた、海洋底堆積物由来成分の高精度定量モデルの構築を試みる。
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研究実績の概要 |
海洋島火山岩のBa安定同位体比を用いて、地球内部へ沈み込んだスラブの行方を定量的にトレースできるか検証を行うため、必要かつ最適な試料選択を行った。本研究を実施するラボにおいて高精度のSr,Nd,Pb,Hf同位体データが取得された試料から、異なるマントル端成分が同一海洋島で認められるライババエ島の試料を最初の分析試料として選択した。ライババエ島は、研究代表者自身が高精度のSr,Nd,Pb,Hf同位体分析を実施しており、分析で使用した同一の粉末試料を所持している。さらに、ライババエ島に認められる異なるマントル端成分の特徴から、それぞれのマントル端成分は、沈み込み物質の寄与率が異なると推定される。 海洋島から得られる試料には海水による変質が心配されるため、通常、同位体分析を行う前に、粉末試料は酸溶液によるリーチングを行い変質の影響を取り除く。しかし、リーチングによる変質除去効果およびBa安定同位体比への影響は明らかではない。そこで、リーチング前粉末試料およびリーチング済み粉末試料をセットにして分析を行うことで、リーチングの有効性を明らかにするために必要な定量データを得ることにした。 これら粉末試料は秤量後、強酸により分解を行い、6M塩酸に溶解したストック溶液とした。このストック溶液から一定量のBaが含まれるように分取を行い、そこにダブルスパイクを加えた混合溶液を作製した。この溶液から、陽イオン交換樹脂を用いてBa溶離液を回収した。Ba溶離液は、今後濃縮したのち、表面電離型質量分析計でBa安定同位体比の測定を実施する予定である。 また、並行して文献調査を進めた結果、スラブ物質が海洋島火山岩マグマへ混入することで変化するBa安定同位体比の差異は非常に僅かであることが推定された。このため、この差異をクリアに検出するために、分析精度向上を目指した分析法改良も進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、海洋島火山岩のBa安定同位体比が地球内部へ沈み込んだスラブの行方を定量的にトレースできるか検証を行うことが目的である。このため、本研究の対象となる試料については、あらかじめ高精度のSr,Nd,Pb,Hf同位体データが取得され、かつマントル端成分の特徴とスラブ物質の影響が明らかにされている必要がある。そこで上記の点を考慮して既存データ解析および文献調査を基に慎重に試料選択を行い、第一ターゲットとして、スラブ物質の影響を異にする2つのマントル端成分が同じ海洋島に存在すると考えられるライババエ島の試料を選択することができた。 近年、島弧火山岩や海洋島火山岩のBa安定同位体比から、沈み込んだスラブ物質を検出する試みが行われ始め、関連する論文も発表されている。文献調査の結果、スラブ物質の影響を示すと考えられるBa安定同位体比の差異は、想定よりも小さい可能性があることが分かった。そこで、本研究で用いるBa安定同位体比分析法について、分析精度向上のためにさらなるブラッシュアップを行う必要が生じた。そこで、①表面電離型質量分析計で安定したBaイオンビームを得るために必要なフィラメントへの試料塗布方法改良、②ダブルスパイクキャリブレーション精度向上、をBa安定同位体分析と並行して進めた。これらのブラッシュアップ作業に時間を要したため、試料の分析開始が遅れた。しかしながら、本研究を進めるために最適な試料を優先的に選択し、自動分離装置を活用することにより、分析を効率的に進め、遅れを取り戻すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
第一ターゲットとして選択した、ライババエ島試料のBa安定同位体分析を進め、まずはリーチング前試料とリーチング済み試料のデータ比較により、リーチングの有効性を定量的に明らかする。また、今後のリーチング実施有無についてこの時点で決定する。その後、既存のSr,Nd,Pb,Hf同位体データと共に解析を行い、スラブ物質量とBa安定同位体比変化量の関係について明らかにする。さらに、ライババエ島以外の海洋島からも試料を選択しライババエ島試料と同様にBa安定同位体分析を進める。 スラブ物質自体が持つBa安定同位体比の範囲を決定するために、海洋底堆積物および海洋地殻のBa安定同位体比に関する文献調査を進めるとともに、ODP185 Site1194コア試料のBa安定同位体比分析を実施する。決定したスラブ物質のBa安定同位体比範囲を用いて、ライババエ島を始めとする海洋島のBa安定同位体比から解析されたスラブ物質量とBa安定同位体比変化量についてモデル計算を行うことで、海洋底堆積物-海洋地殻-マントル間のBa元素の挙動について定量的に明らかにする。 また、分析精度向上のために分析法のさらなるブラッシュアップを継続し、特に、表面電離型質量分析計で安定したBaイオンビームを得るために必要なフィラメントへの試料塗布方法の改良を進め、微少Ba安定同位体比差異の高解像度検出を目指す。 本研究で進めている、海洋島試料のBa安定同位体比分析結果や、分析法改良などの途中経過は国内の学会にて発表を行う。
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