研究課題/領域番号 |
22K03790
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分17050:地球生命科学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
石田 章純 東北大学, 理学研究科, 助教 (10633638)
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研究分担者 |
掛川 武 東北大学, 理学研究科, 教授 (60250669)
橋爪 光 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 教授 (90252577)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
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キーワード | 初期原生代 / 窒素同位体 / 炭素同位体 / 二次イオン質量分析計 / 段階燃焼法 / 石油 / 生命進化 / 炭素,窒素,硫黄同位体 |
研究開始時の研究の概要 |
約20億年前を境に生命は多様化,さらに高等化(=真核生物)したことが微生物化石記録から明らかにされている.こうした生命の変異は,生物生産性を促進する炭素,窒素,硫黄,リンなど有機栄養源が十分に供給される環境に裏付けされている.一方で同時代の堆積層からは大規模な固化石油層が報告されているが,その成因や当時の生命圏との関係は未解明である.本研究ではこの石油が当時の生命圏とって十分な栄養源となったことで,生命進化が促進されたと仮説づけ,同位体地球化学的分析により,石油層の成因と成分の解明,石油層と当時の生命圏の関連性,この時代における石油層の普遍性や規模の検証を行い,仮説の検証を行う.
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研究実績の概要 |
コロナ禍による行動制限で現地調査など一部の研究活動に支障はあったものの,手持ちの試料を用いた代替プランや新しく導入した分析手法の検討,次年度に予定していた分析法の開発に着手するなど,研究計画以上に順調に研究は進行している. 段階燃焼法を用いた堆積岩試料の窒素同位体比分析法においては,初期原生代の大規模有機物脈の代表的な地層であるロシア,ザオネガ層の分析を継続して行い,有機物捕獲相と鉱物捕獲相の窒素それぞれに異なる値が見られることを初めて明らかにした.こうした窒素同位体比の差異は受けてきた地質的プロセスの違いを反映している.本研究では最大10‰以上もの異常を見出し,これを説明するには,当時の主となる生態系による元素循環とは全く独立して,地下などで熱熟成された有機物が石油化し海底から再び湧き出るような特殊な有機物の循環経路を想定する必要がある.これまでローカルな地質現象として少数の報告があったのみであった「初期原生代の石油脈」について,本研究により初めて同位体地球化学的に整合的な新たな証拠を提唱できた.この成果を投稿論文としてまとめている.さらにこれらの違いがカナダ,ガンフリント層の有機物脈,アメリカ,マーケット層の有機物脈でも見られ,当時の海洋にグローバルに起こった現象なのかを検証を進めている. 窒素に加え炭素,硫黄による新たな評価法を開発するために,分析法の検討を進めている.ガスクロマトグラフ(GC)連結型の同位体質量分析計(GC-C-IRMS)の導入により,所属研究室で微量CO2の同位体比分析が可能となった.これを活用し,これまで本研究分野では前例のない,「段階燃焼炭素-窒素同位体測定法」の開発に取り組んでいる.本年度はGC-C-IRMSの導入とメソッド開発,また既存の段階燃焼ラインにおいて燃焼で生じるCO2を窒素と分集可能なラインの増設に取り組み始めた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度はコロナ禍により予定していた初期原生代大規模有機物脈地質調査の一切を行うことができなかった.しかしこれは予測していた事態であり,申請者および分担者が過去採集していた,ロシア,ザオネガ層のボーリングコア,およびカナダ,ガンフリント層の有機物脈を含む試料の分析に着手し前倒しで分析法の開発検討を進めた.もう一つのターゲットであるアメリカのマーケット層有機物についても現地の研究者にコンタクトを取り,試料の手配を進めている状況である. 段階燃焼法による窒素同位体比の分析では,ロシア,ザオネガ層の段階燃焼による捕獲相別の窒素同位体比評価を継続している.結果,有機物相と鉱物相で明確に異なる同位体比の傾向が見られ,しかもそれが層序の下部から上部に向かって差異が大きくなることが明らかになった.この傾向は本研究課題の仮説である「石油化した大規模有機物脈の存在」の裏付けと取ることができる.その他の鉱物の産状や化学分析の結果もこれを支持しており,少なくともザオネガ層において本研究の目標である有機物脈の特異性について確認することに成功した. また所属研究室にガスクロマトグラフ(GC)連結型の同位体質量分析計(GC-C-IRMS)が設置された.これは有機物をGC部分に導入し,成分を分離後,酸化燃焼を経てCO2として同位体質量分析を行うことのできる装置である.有機物脈に僅かに残された可溶性有機物や有機硫黄化合物の炭素同位体比値を測定するために有効である.当初計画にはなかったが本研究課題を推進する上で重要な手段として採用することとし,申請者が中心となって分析メソッドの確立に取り組んでいる.硫黄同位体の分析についても質量分析計を改造し,通常の連続フロー型同位体分析計では分析不可能な質量数33の硫黄の分析をほぼ可能となるところまで漕ぎ着けている.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は状況に応じて地質調査の実行,特にアメリカ,マーケット層の大規模有機物脈の調査を計画している.ザオネガ層の試料においては一定の成果が得られたので国際誌投稿を進める.新手法として GC-C-IRMSを用いた可溶性有機物の分析法開発に合わせて,微量CO2ガス分析法の確立を目指す.すでに手法の確立している段階燃焼による捕獲相別の窒素同位体比分析法では,窒素捕獲相として有機物や鉱物を仮定しているが,窒素と共に発生するCO2を分析する手段がなかった.そこで段階燃焼分析ラインに新たにCO2分集用のラインを増設し,燃焼温度ごとの炭素同位体比のプロファイルを得る「段階燃焼炭素同位体測定法の開発」を目標とする.これによりほぼ有機物と同じ温度で燃焼するため炭素の解放量だけでは判断が難しかった炭酸塩鉱物の判定や,窒素同位体比の異なる有機物が炭素同位体も異なるのかなど,生物相や環境推定に新たな指標を提供することが期待される.同時にアストロバイオロジー研究分野において「窒素炭素の燃焼温度別の同位体比評価」は前例のない手法であるため,分野に与えるインパクトは大きい.ライン増設にあたる諸問題をクリアした初期段階設計に着手したので,年度内での完成を目指す. 高空間分解能二次イオン質量分析計(NanoSIMS)を用いた微小領域炭素窒素硫黄の同位体イメージング法についても,有機物標準試料を用いた検討を進めており,年度内に完成する見込みである.上述の燃焼法による同位体比の評価を地層レベルの大雑把な評価,長期の環境変動をとらえる手段とすれば,NanoSIMSによるマイクロスケールでの同位体評価は変動の原理に迫る分析法である.これら2つの手法を軸に,すでに窒素の主分析を終えたザオネガ層を基盤として,初期原生代大規模有機物層の成因,当時の生物相との関係,地質環境からの制約について研究を継続する.
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