研究課題/領域番号 |
22K03816
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分18010:材料力学および機械材料関連
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研究機関 | 広島工業大学 |
研究代表者 |
日野 実 広島工業大学, 工学部, 教授 (70510486)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2023年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2022年度: 3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
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キーワード | アルミニウム合金 / 水素脆性 / 表面処理 / 疲労試験 / 水素分析 / ウエットプロセス / 水素誘起空孔 |
研究開始時の研究の概要 |
2050年までのカーボンニュートラルに向け、水素利用が拡大しており、水素の貯蔵・運搬・利用の各工程で、金属材料と水素との接触が増加すると予想される。一般に金属材料は水素吸蔵により脆化するが、アルミニウム合金は、環境由来の水素脆性に対して高い耐性をもつ構造金属材料である。しかし、特定のめっきによってアルミニウム合金中に吸蔵された内在水素が疲労強度を大幅に低下させる。本研究では、アルミニウム合金の機械的特性に及ぼすめっきによる内在水素の影響を明らかにするとともに、水素脆性のメカニズムを解明する。さらに水素脆性の生じない表面処理を開発し、水素社会構築を実現し、カーボンニュートラルの達成を目指す。
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研究実績の概要 |
政府が掲げる2050年までのカーボンニュートラルに向け、水素を2次エネルギーとして活用する動きが活発化しており、今後、水素の貯蔵・運搬・利用の各工程において、構造金属材料と水素との接触するケースが増加すると予想される。そのため、水素環境で優れた機械的特性を発揮する金属材料の開発が重要な課題となっている。軽量金属材料であるアルミニウム合金は、鉄鋼材料と比較し、環境由来の水素脆性に対して高い耐性をもつ構造金属材料として位置づけられている。しかし、これまで特定のめっきによってアルミニウム合金中に吸蔵された内在水素が疲労強度を大幅に低下させることを明らかにした。 本研究では、アルミニウム合金の機械的特性に及ぼすめっきによる内在水素の影響を明らかにするとともに、水素脆性のメカニズムを解明する。さらに水素脆性の生じない表面処理を開発し、水素社会構築を実現し、カーボンニュートラルの達成を目指す。 2022年度の研究では、アルミニウム合金の疲労強度に及ぼす各種めっきの影響は、アルミニウム合金の種類およびめっき種類によって大きく異なることを明らかにした。また、疲労強度の低下にはアルミニウム合金中の水素の存在状態に基づくことが判明した。 2023年度の研究では、各種展伸材用アルミニウム合金に対する無電解ニッケル-リンめっきによる疲労強度の低下は、水素空孔クラスター説に基づき、めっきの際に材料中に吸蔵した水素が空孔を誘起し、その水素誘起空孔が負荷荷重によって移動、合体することでナノボイドを形成する。このナノボイドが応力集中源となり、疲労強度が低下することを明らかにした。なお、疲労破壊の起点部には数百ナノメートルサイズのナノボイドが観察され、ナノボイドの生成を支持する結果が得られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
4種類の展伸材用アルミニウム合金(2017-T4、5052-H14、6061-T6、7075-T6511)に対して、2種類の無電解ニッケル-リンめっき(低リンタイプ、高リンタイプ)および亜鉛めっき(硫酸酸性浴)を平均膜厚が10μmになるよう施した。めっき処理前後の試験片について、三点曲げ試験および動的な回転曲げ疲労試験を行った。 三点曲げ試験の結果、めっきおよび合金の種類によって破断に至る変位量が異なった。2017-T4および7075-T6511合金では、めっきの種類に関わらず、破断応力および破断に至るまでの変位量は未処理材とほぼ同じ値であり、めっきの影響は認められなかった。一方、5052-H14および6061-T6合金では、亜鉛めっきによる曲げ特性への影響はほとんど認められなかったが、無電解ニッケル-リンめっき材では、低リンタイプおよび高リンタイプいずれも未処理材と比較し、破断に至る変位量が低下した。一方、回転曲げ疲労試験では、高リンタイプの無電解ニッケル-リンめっきを行った全てのアルミニウム合金の疲労強度は、未処理のそれよりも大幅に低下した。逆に全ての低リンタイプの無電解ニッケル-リンめっき材の疲労強度は、未処理のそれよりも向上した。その他、亜鉛めっきを行った全てのアルミニウム合金の疲労強度は、未処理よりも僅かに低下した。高リンタイプの無電解ニッケル-リンめっき材の疲労強度が大幅に低下する一方で、静的な三点曲げ試験では、破断に至る変位量は低下するものの、破断応力は低下しなかった。これらの結果は、疲労試験ではボイドが応力集中源となるため、疲労強度の低下を誘引するが、静的な荷重では、ボイドは延性を低下させるが破断応力への影響は軽微であり、これらの結果からもアルミニウム合金の水素脆性のメカニズムとして、水素空孔クラスター説によるボイド形成が有力であることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度の研究において、中リンタイプおよび高リンタイプの無電解ニッケル-リンめっきを各種アルミニウム合金に施すことによって疲労強度が低下することを明らかにした。また、水素測定の結果から、めっきによって基材中に取込まれた水素が疲労強度の低下を誘引し、アルミニウム合金も水素脆性が生じることを示した。 2023年度の研究では、各種アルミニウム合金に対して高リンタイプおよび低リンタイプの無電解ニッケルめっきならびに電気亜鉛めっきを行い、低ひずみ速度三点曲げ試験による水素脆性評価を行い、水素脆性に及ぼす無電解ニッケルめっきの影響を明らかにし、アルミニウム合金の水素脆性メカニズムを解明した。 2024年度の研究では、2023年度の研究において明らかにした水素脆性メカニズムに基づき、アルミニウム合金に対して水素脆性フリー、高耐食性表面処理技術を確立する。具体的に、アルミニウム合金に対してリン含有量の異なる無電解ニッケルめっき、亜鉛系めっき、複合めっき等検討し、また、めっき後に水素を放出させるベーキング処理も検討する。さらにめっき膜厚の最適化も行い、水素脆性フリー、高耐食性表面処理技術を確立する。
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