研究課題/領域番号 |
22K03840
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分18020:加工学および生産工学関連
|
研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
岡田 将人 福井大学, 学術研究院工学系部門, 教授 (60369973)
|
研究分担者 |
植松 英之 福井大学, 繊維・マテリアル研究センター, 准教授 (80536201)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
|
キーワード | 熱可塑性炭素繊維強化樹脂 / 切削加工 / ドリル加工 / 加工穴品質 / 分子動力学法 / エンドミル加工 / 表面品位 / 被削性 / 切削能 / 快削性 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は,今後,広範に工業製品の構造材として普及することが見込まれる熱可塑性炭素繊維強化樹脂の二次加工技術である切削加工の高度化に関する取り組みである.高度化のために,切削加工の加工結果の適切な評価手法を確立するとともに,良好な加工結果が得られる高い切削能を有する切削工具と切削条件の指針を提案する.さらに,良好な加工結果を容易に得るための快削性を有する,すなわち”削りやすい熱可塑性炭素繊維強化樹脂”の材料設計指針を構築する.
|
研究実績の概要 |
本研究課題の2年目にあたる2023年度(令和5年度)は,熱可塑性炭素繊維強化樹脂材料(以後,CFRTP)の切削加工において,切れ刃と被削材間で生じるナノ・ミクロレベルの諸現象を理論的に評価できる分子動力学法に基づくモデルの再現性向上を図った(取組事項①).加えて,CFRTPが構造材に用いられることが多いために,除去加工の中でも穴加工の需要が多いことに着目し,ドリル加工に用いられる切れ刃形状が加工穴品質に及ぼす影響を明らかにした(取組事項②).以下に各取組事項の概要をそれぞれ示す. 取組事項①:これまでの取り組みにより,円錐形状の圧子を工具に見立てて,これをCFRTPを模したグラフェンシートの積層材に強制的に侵入させた場合の基礎的な材料変形挙動のシミュレーションモデルを構築していた.これに対して2023年度は,すくい面と逃げ面を有するくさび形状の実際の切削工具に近い形状にて工具をモデル化し,変形挙動を解析した.これにより,グラフェンシートの一部がすくい面上に沿って分断される状況が再現され,2022年度よりも実現象に近い変形挙動のモデル化に成功した. 取組事項②:炭素繊維と樹脂の複合材料であるCFRTPのドリル加工において,加工穴品質を決定する主要因として,穴出口のアンカットファイバの発生によるバリならびにデラミネーションが挙げられる.特に熱可塑性樹脂を用いる本研究においては,切削加工中に生じる熱による樹脂軟化がこれらの品質をより劣化させるため,主刃による品質低下が生じる以前に加工穴縁部を鋭利な切れ刃により切断できる凸型切れ刃を有するドリルの効果について評価した.本検討により凸型切れ刃の先端位置が主刃先端位置に近い場合が,特に良好な加工穴品質が得られることを明らかにするとともに,切削加工中の材料除去機構に基づいて,その要因を紐解くことができた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では,2022年度までに熱可塑性炭素繊維強化樹脂(以後,CFRTP)の炭素繊維と樹脂界面の状態が切削加工における被削性に及ぼす影響について解明する予定であった.しかしながら,2022年度に実施したエンドミル加工による検討において,これらの界面状態の違いは,切削加工の被削性(切削抵抗,切削温度,仕上げ面品質)に顕著な影響を及ぼさないことを明らかにした.加えて,この界面状態は,本研究で切削加工品のマクロ評価手法として実施した引張試験においても,明確な影響が認められず,界面状態は切削加工による製品品質に大きな影響を及ぼさないことを明らかにできた.このことから,界面状態に係る検討に代わり2024年度に実施を予定していたドリル加工に関する検討を2023年度より先行して開始できた.本検討では,申請時より研究協力者として参画いただいている切削工具メーカーの協力により,ドリル切れ刃の外周輪郭部に凸型の切れ刃を有する特殊な切れ刃形状のドリルを製造いただき,その凸型切れ刃の効果について実験的に詳細な検討を進めることができた.この検討により,凸型切れ刃の先端位置が主切れ刃の先端位置に近づくことで,主切れ刃による炭素繊維切断領域が抑制でき,結果的に高品質な加工穴が得られる効果を発現できることを明らかにできた.本成果は,当初の研究計画よりも先行して得られた成果である.一方,ミクロ評価として検討を進めていた分子動力学法によるシミュレーションにおいては,2022年度に構築した基礎的なモデルよりも実現象に近いモデルが構築できたものの,実切削による実験結果との比較検証に用いられるほどの再現性には至っていない.これらの状況を鑑みて,「おおむね順調に進展している」と判断した.
|
今後の研究の推進方策 |
2024年度については,前項に示した通り,当初の研究計画よりも先行して進展させることができているドリル工具の切れ刃形状の最適化に関する取り組みに重点をおいて,本研究課題の最終的な目的を早期かつ着実に達成することを目指す.既に2023年度までの取り組みにおいて,切削工具メーカーの協力により,良好な加工穴品質が得られる切れ刃形状として,外周輪郭部に凸型切れ刃を有する切れ刃形状が優位であることの目途が立てられた.この成果に基づき,2024年度は以下の取り組みを進めることで本研究課題を着実に推進させる. ①ドリル切れ刃外周部に凸型の切れ刃を有することが,高品位な穴加工の実現に有効であることの目途を立てることができたが,凸型切れ刃の鋭利性と切れ刃強度はトレードオフの関係となり,加工穴数の進行とともにチッピング等の耐久性で懸念される傾向も併せて認められた.そこで,ドリル加工中の加工現象(切削抵抗,切削温度)より,凸型切れ刃にチッピングが生じる要因を紐解くとともに,チッピングが抑制可能な凸型切れ刃形状を提案する. ②検討中のドリルは,主切れ刃とは独立して凸型切れ刃を有しているが,その切削性能は両者が相互に影響を有しながら決定されていることを2023年度において明らかにできている.そのため,主切れ刃の先端角や刃先角といった形状が,本ドリル形状の性能に及ぼす影響を,材料除去機構に基づき明らかにする. ③上記した①と②の取り組みにより得られた知見に基づき,高い耐久性のもとで良好な穴品質が得られる熱可塑性炭素繊維強化樹脂を対象としたドリル切れ刃形状の普遍的な指針を確立することで,本研究課題の最終目的を達成する.
|