現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ここでの実験では,水素防爆対策に係わる知見を得るため,水素/空気/不活性ガスの予混合気を密閉型容器内で燃焼させ,球状のデフラグレーションを観察した.そして,水素濃度と不活性ガス濃度に依存する燃焼時の挙動を把握した.固有不安定性に起因して火炎面に複数のセルが形成され,それらが発達して複雑な形状になることを確認すると共に,燃焼現象に与える水素濃度(当量比)と不活性ガス(二酸化炭素,窒素及びアルゴン)濃度の影響を精査した. 燃焼実験では,直径300 mmの観察窓を有し, 内容積が73 L(3つの円柱による直交相貫体の形状)の密閉容器を用いた. 火炎伝播の様子は,高速度カメラを用いてシュリーレン法により撮影した. シュリーレン法測定装置は, 燃焼容器の観察窓よりも十分に大きい有効直径の凹面鏡を有しており, 燃焼容器の観察窓全体を観察することができる. また, 高速度カメラの撮影条件としては,撮影速度を10000 fps, シャッター速度を1/50000 sとした. 燃焼容器の内部を真空に引いた後, 水素/空気/不活性ガスの予混合気で容器内を満たし,スパークプラグを用いて容器の中心で火花点火した.水素/空気/不活性ガスの混合比は,分圧により調整した.予混合気の初期圧力を大気圧(101.3 kPa),初期温度を室温(298 K)とし, 当量比を0.5及び1.0として実験を行った. また, 不活性ガスを60%まで添加し,予混合気を希釈した. 各条件で実験を3回行い, 再現性を確認すると共に,各パラメータの平均値とエラーの程度を取得した. また,容器内の圧力変化を測定し,各実験条件下における最大圧力を取得した. 本研究で得られた成果は有用でかつ学術的にも価値があり,その一部を査読付きの英語学術論文で公表している.これらのことから,本研究はおおむね順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験において,水素爆発現象の基本特性に関して,有用な知見を得ている.これらの知見をべースとし,今後は,実験で得られたデータを整理して,火炎伝播速度のモデリングを行い,実用化へ向けて検討する予定である.そして,爆発リスク低減の可能性追究と安全なシステムの妥当性実証を行う予定である. 水素爆発で生じる火炎加速に関して,加速特性に及ぼす不活性ガス添加の影響を精査する予定である.各当量比における標準化した火炎加速係数と不活性ガス濃度の関係を明らかにする.そして,不活性ガス濃度が増加するのに伴い,標準化した火炎加速係数がどの様に変化するのかを定量的に同定し,そのメカニズムを考察する.特に,不活性ガス添加が拡散-熱的不安定性を促進しているのか否かを考究する.また,不活性ガス種類の違いによる火炎加速の定量的な違いを明確にし,そのメカニズムを探求する.これらは,水素安全対策のための基礎的な情報であると共に,燃焼工学分野における学術的な知見にもなっている. 水素に不活性ガス(代表として二酸化炭素)を添加し,水素拡散燃焼の可燃範囲を同定する予定である.不活性ガス添加が水素防爆対策にどの程度有効であるのかを調査し,リスクアセスメントを通して有効性を評価する.さらに,拡散火炎をメッシュで覆うことにより,水素火炎をどの程度抑制できるのかについて調べ,その有効性を評価する.火炎の抑制や消炎限界に及ぼすメッシュの材質(スチールや銅等)並びにメッシュサイズ(線径やメッシュ間隔等)の効果を実験的に明らかにすると共に,それらの基本的な機構を明確にする.さらに,実用化へ向けて,コストの観点からも総合的な評価を行うものである. 得られた研究成果は,学術雑誌等での公表や国内外の学会等での発表のみならず,インターネット上にも掲載し,広く社会に還元する予定である.
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