研究課題/領域番号 |
22K04016
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分20020:ロボティクスおよび知能機械システム関連
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
内木場 文男 日本大学, 理工学部, 教授 (60366557)
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研究分担者 |
中西 一義 日本大学, 医学部, 教授 (60403557)
金子 美泉 日本大学, 理工学部, 助教 (30755418)
粟飯原 萌 日本大学, 理工学部, 助手 (90824011)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | ロボティックス / ニューラルネットワーク / 人工脊髄IC / 筋骨格 / 歩行走行 / ヒューマノイド / 低消費電力 / 人工筋肉 / 2足歩行ロボット / 歩行システム |
研究開始時の研究の概要 |
人間の代わりを果たすオールラウンドロボットでは消費電力と重量がボトルネックとなっている。とくに、マイクロプロセッサとソフトウェアの計算による制御方法は消費電力が大きく、また、サーボモータを用いた駆動機構は消費電力とあわせて重量超過も問題になる。本研究では、ロボットの制御系と駆動機構を人間の脊髄を模倣した人工脊髄ICに、また、筋肉を工学的に模倣した人工筋肉に置き換える。申請者がこれまでに研究開発した人工脊髄ICを2足歩行用途に合わせこみ、また、形状記憶合金とエラストマを組み合わせた人工筋肉を適用する。この方法により人間と同等の消費電力の20Wと下半身重量30kgを実現する独自システムを目指す。
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研究実績の概要 |
従来の2足歩行ロボットにおいては,ソフトウェアプログラムと高性能CPUを組み合わせ数的計算処理によって運動制御を実現している。また,サーボモータを関節に見立てモータ角度を変更することによって運動を達成している。一方で人間は脊髄によって制御信号を発生し,電気的に筋肉を刺激して直線的に収縮し関節を起点に回転をする。この観点では,2足歩行ロボットでは人間とは違う独自の制御方法と運動機構を利用していることになる。人間の消費エネルギーはすべての活動を合計しても100W程度であって,現行の2足歩行システムに比べ著しく低消費電力を実現している。本研究課題では,人間の脊髄と筋肉を工学的に模倣した人工脊髄ICと人工筋肉を作り出し,人間と同等の消費電力と下半身重量の独自の歩行システムの実現を目指す。 歩行に関する信号系を再現するためにCMOSによる電子回路を用いて脊髄を模倣する神経系統を構成した。片足単位での歩行・走行を切替える神経信号系を再現したのちに,対象を下半身に広げ,歩行・走行に加え,またぎ越しの信号を発生する脊髄模倣制御系を開発した。 人工筋肉に関しては,人間の歩行・走行を動力学シミュレータを用い解析をし,歩行・走行のそれぞれについて各タイミングで発生する各筋肉の変位と受ける力を時系列的に求めた。人間の筋骨格構造においては,筋肉は冗長的に作用するので各筋肉が受ける変位と力は特定の筋肉が発生する力の結果として示される。筋肉が発生するのは実際は収縮力なのを根拠として,シミュレータに収縮力を入力し結果として,同等の変位と受ける力が得られるまでパラメータの調整をした。その結果,躯体を一部補助した条件でシミュレーション上で歩行がスムーズに行えるパラメータを取得した。いくつかの筋肉に関してはSMA型アクチュエータと実際の筋肉に近い物性値を持つエラストマーを用いて製作を行い評価をした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
具体的なアプローチとして本研究課題では,CPUとソフトウェアによる計算の代わりとなる低消費電力人工脊髄ICの開発,回転制御サーボモータの代わりになるより人間に近い人工筋肉の開発,これらを組み合わせ人間に近い筋骨格型2足歩行モデルの製作,をそれぞれ実施している。 人工脊髄ICにおいては,細胞レベルに機能を模倣したニューロン回路とシナプス回路を組み合わせ,脊髄の内部にあるとされるCentral Pattern Generator (CPG)の機能を作り出し,これに回路を付加し,パルスパターンと周期を変化する人工脊髄回路を開発した。この回路は人間の左右の脚を含む下半身の筋骨格を対象とし一部ICを作成した。 形状記憶合金とエラストマを組み合わせることによって人工筋肉を形成した。形状記憶合金には螺旋状形状記憶合金を採用し,大変位を得るようにした。また,エラストマと組み合わせることによって実際の筋肉のような立体的な構造とスプリングバック特性を得た。動力学シミュレータを用いることによって,歩行・走行時に各筋肉が示す変位と受ける力を求め,各筋肉のうち収縮力を発生する筋肉を推定し筋肉が発生する変位と力を求めた。発生力と変位を調整し運動を再現したところ,躯体を一部保持することによって歩行が再現できるパラメータを導出することができた。アクチュエータの製作では,代表的な筋肉の作製を行い実際のパラメータに合わせこみを行っている。 2足歩行システムでは人体の2分の1サイズの下半身筋骨格モデルを3Dプリンタで製作した樹脂骨格に人工筋肉を配置して歩行モデルを製作した。人工筋肉への通電は単純なパルス波形ではなく,各筋肉のパラメタに合わせた電流波形が必要になるので,今後,筋肉に与える波形・電流等はアクチュエータの特性と合せこむことになる。 以上により,研究は概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
人工脊髄ICの開発においては下半身を対象として歩行と走行を切り替え,加えてまたぎ越しのためのリズムパターンを生成する人工脊髄回路の開発ができた。また,またぎ越しのような状況に応じた対応も実現できたので,さらに進めて脊髄反射の模倣を検討する。同時にIC製作を進めているので,製作したICの評価を実施するとともに,さらに低消費電力を実現するための改良を行う。ICの試作は外部ファンドリに委託しているが,費用の関係から,一枚のウェハの一部分を使用して製作するいわゆる相乗りを利用する。募集が年に数度だけなので,周到に用意してタイミングよく設計を固めてゆく。 人工筋肉の開発においては,代表的な筋肉の製作を行いアクチュエータとしての特性を評価,また,本研究で必要になる25筋に拡張して検討を進めた。当初,エラストマーの物性が適正ではなく,筋肉の収縮が不十分だったが,物性を見直すことで変位を得ることができた。実際の筋肉に近い3D形状での製作・評価がまだ十分ではないので,医学的な知見と突き合わせつつ開発を継続する。 人間に近い筋骨格型2足歩行モデルでは,これまでに3Dプリンタを用いた骨格モデルと代表的な筋肉を組み合わせて基本的な動きを確認したので,動力学シミュレータを用いて導出した人工筋肉のパラメータと人工脊髄の発生するパルスタイミングを組み合わせる。パルスタイミングに合わせて各筋肉がどのように変位してどのような力がかかるかを調べ,シミュレーションの結果と比較する。人工脊髄は単純に筋肉を動かすタイミングパルスを発生するものなので,人工筋肉を駆動するための実際の波形はさらに調整をする必要がある。各筋肉の特性に合わせた電流をアンプ等を介して供給をして,実際に歩行と走行をトライアンドエラーで実現する。 以上の知見を持って国際学会での発表,論文投稿を行い専門的な評価を仰ぐ。
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