研究課題/領域番号 |
22K04201
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分21050:電気電子材料工学関連
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研究機関 | 東北工業大学 |
研究代表者 |
内野 俊 東北工業大学, 工学部, 教授 (40614970)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | 表面増強ラマン散乱(SERS) / バイオケミカルセンサー / 光レクテナ / グラフェン / 表面増強ラマン散乱 / 二次元材料 / 表面増強ラマン散乱(SERS) / 環境発電 |
研究開始時の研究の概要 |
二次元材料は安価で、持続可能なクリーンエネルギーを実現する電子デバイス材料として期待されている。近年、二次元材料で表面増強ラマン散乱(SERS)効果が観測された。しかし、原子1個分の厚さしかない二次元材料の特異なSERS効果はまだ十分な理解が得られていない。そこで、本研究は二次元材料におけるSERS効果のメカニズムを解明し、感染症やガンなどを診断するバイオケミカルセンサーを開発する。次に、その応用として理論的にシリコン太陽電池の2倍以上の変換効率が可能な光レクテナの研究を行う。
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研究実績の概要 |
二次元材料は、持続可能なクリーンエネルギーを実現するために必要な次世代電子デバイス材料として注目されている。特に、グラフェンはシリコンの約100倍の高移動度を示すほか、柔軟性や耐久性に優れていることからグリーンエレクトロニクス材料として期待されている。近年、二次元材料の表面増強ラマン散乱(SERS)が通常のラマン分光法よりも百万倍以上高い感度を示すことが報告された。この特異なSERS効果のメカニズムは、金属表面のプラズモンに由来する電磁場増強や電荷移動共鳴による化学効果に関連していると考えられるが、まだ完全には理解されていない。そこで、二次元材料におけるSERS効果のメカニズムを解明し、感染症やガンなどを診断する超高感度バイオケミカルセンサーを開発することを目的として研究を行った。 今年度は昨年度に開発したSERS基板を用いてバイオケミカルセンサーを作製し、疾患の原因となるサイトカインIL-6を高感度に検出する技術を開発した。従来のSERS基板は表面に金属が露出しているため、化学反応により劣化しやすいという問題があった。そこで、本研究では銀薄膜が大気に暴露されないようにマイカ基板側を表面にして支持基板に固定した。本構造により、化学反応による劣化や抗菌効果を防止することが可能になった。また、レーザー光がマイカを通過して試料に照射した結果、感度が約3倍向上した。そして、親水性を示すマイカ基板上にグラフェンを転写して疎水化した後、グラフェン表面にサンドイッチELISA法を用いてサイトカインIL-6を固定した。この結果、50 pg/mLの低濃度まで検量線を作成することが可能になり、グラフェンSERS基板を用いたバイオケミカルセンサーによりサイトカインをラベルフリーで定量分析できることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、昨年度に引き続き二次元材料のグラフェンのプラズモン増強場形成のメカニズムを解明とSERS基板の高性能化の研究を行った。具体的には、グラフェン表面増強ラマン散乱強度の転写基板依存性、グラフェン構造依存性、アニール効果について調べた。転写基板の影響を調べるために、Si3N4メンブレン上にグラフェンを転写した試料を作製し、そのSERS効果を調べた。その結果、雑音は大きくなるがSiO2/Si 基板上に転写した試料とほぼ同じ増強効果が得られた。この結果から、SiO2/Si支持基板から反射したレーザー光は増強効果にあまり関与しないことがわかった。一方、mica/Ag薄膜を支持基板にした試料は、レイリー散乱が大きくなりSERS信号を観測することができなかった。 次に、単層および多層(2層)グラフェンのSERS効果について調べた。その結果、単層グラフェンは約2倍高い感度を持つことがわかった。そして、高温処理の効果について調べた結果、350℃のアニールを行うと金属を凌駕するSERS効果が得られることがわかった。転写中に発生した残渣がアニールによって除去され、清浄なグラフェン表面が得られた結果、表面が負電荷を帯び、正電荷を持つ分子が吸着しやすくなったためと考えられる。以上から、アニールした単層グラフェンでSERS基板を作製することにより、昨年度より一桁以上高感度の0.1 pg/mL以下の検出感度が得られる見通しがたった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は初年度に明らかになったSERS基板の高性能化やバイオケミカルセンサーの定量化などの課題を解決した。今後は開発したSERS基板を用いて、疾患の発見をリアルタイムで実現する臨床現場即時検査(POCT)デバイスの開発を行う。 次に、シリコン太陽電池の2倍以上の変換効率が期待できる光レクテナをグラフェンで作製する。光レクテナ実現のためには、光応答可能な高周波動作ダイオードとナノアンテナをモノシリック集積化したデバイスの開発が必要になる。予備実験では、横型トンネルダイオード構造と縦型トンネルダイオード構造のグラフェン・光レクテナを作製した。横型素子ではアンテナ領域を電子線描画で作製したため、トンネル長が50 nm以上になり、高性能が得られなかった。一方、縦型素子ではトンネル長が絶縁膜の膜厚分の20 nmになり、光変換効率0.07%を達成することができた。しかし、この変換効率は従来の報告結果とほぼ同等だった。 光レクテナを高性能化するためには、非対称な電流・電圧特性を持つMIMトンネルダイオードの開発が必要不可欠である。そこで、バンドギャップの異なる2種類の絶縁膜を積層化したトンネルダイオードをグラフェンで作製することにより光レクテナの高性能化を図る。他に、二次元材料の自己組織化プロセスを用いた光レクテナの作製を検討する。MoS2は、原材料の比を変化させることにより結晶を三角形や六角形に変えることができる。三角形の結晶を横並びに配置することができれば、自己組織化プロセスでボウタイアンテナを作製することができる。ナノアンテナとトンネルダイオードが統合された光レクテナは、サブミクロン以下で集積化されているので、コプレナー配線により損失を抑えることができ、光変換効率の改善が期待できる。
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