研究課題/領域番号 |
22K04221
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分21060:電子デバイスおよび電子機器関連
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研究機関 | 工学院大学 |
研究代表者 |
山崎 貞郎 工学院大学, 工学部, 准教授 (60317344)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2024年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 合焦 / 非点収差補正 / 人間力活用 / 能動型画像処理 / 共分散 / 相関係数 / 走査電子顕微鏡 / 合焦支援システム |
研究開始時の研究の概要 |
最先端の走査電子顕微鏡(SEM)では,理論的な最高到達分解能と装置保証分解能が一致しつつある。しかし,装置の操作パラメータは極端に複雑化している。これを踏まえてSEMの潜在的能力も含めた幅広い活用を考えるとき,非点補正を含む合焦システムの性能向上は不可欠である。これを装置側のみで解決するのではなく,人間の能力に着目し,人間の聴覚・視覚を活用したユニークな合焦支援システムの構築を目指す。 本研究では,これまでに議論されてこなかった「新しいSEM画質評価(合焦評価)指標」,「観察倍率の一意的決定法」,「既存ノイズ抑制技術とディープラーニング手法の適切な組み合わせ」を含めて検討をおこなう。
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研究実績の概要 |
一般的な走査電子顕微鏡(SEM)の分野において,最適な焦点合わせの操作や,完全に近い非点収差補正をおこなう目的で,合焦指標を得るためのSEM像に基づく信号の生成について検討をおこなった。合焦指標となるSEM像に基づく信号の安定性向上を目指し,新たな信号生成手法を提案した。当該信号に関わる重要な基本技術として,SN比を優先したSEM像取得と能動型画像処理に基づく信号補正を最大限に活用した。画像共分散に基づく最適な焦点合わせと非点収差補正において,人間力を活かす支援システムとして,本研究で用いる合焦指標の性能向上を評価した。本手法は実用的な範囲でノイズに対してほぼ影響を受けることはなく,極めてノイズの多いSEM像に対しても焦点合わせや非点収差補正の指標になり得ることを示し,論文誌Scanningに題目"Technology for FundamentalImprovement of an Extremely Low-Quality Video Signal for Use in FineFocusing and Astigmatism Correction in Scanning Electron Microscopy."として掲載された。 画像共分散を活用する手法に関連して,2つのデータ間の類似度合いを表す指標である,相関係数についても着目し,同一視野の2枚のSEM像を2組,計4枚のSEM像から複数の共分散値を計算することにより,特にノイズが著しい条件下においても機能する新たな相関係数の検討を併せておこなった。この新たな相関係数は,低真空環境における連続取得高速走査像に対しも有効であり,SEM像観察時における試料損傷の程度も評価可能であることを明らかにし,日本顕微鏡学会第78回学術講演会にて「試料損傷の程度を調べるためのSEMノイズ成分の影響を受けない相関係数を得る高信頼性手法」と題して,学術講演をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度の研究において,高精度の合焦や高精度の非点収差補正をおこなう上で不可欠な,指標となる信号の品質を向上させるための技術を提案し,当該技術が走査電子顕微鏡(SEM)において有効であることを明らかにした。合焦の指標となる信号の根本的な品質改善により,極めてノイズの多い条件下においてもこの信号が効果的に機能している。また,合焦に必要な信号品質を事前に推定し,SEM像に対する能動型画像処理技術で,合焦指標となる信号品質を確保することが可能となるため,焦点合わせが非常に高い確率で成功することも特筆すべき成果である。本提案手法は,人が合焦操作をおこなう際の,信号取得時間を短縮できる可能性を示している。従来法では,合焦指標となる信号の劣化をもたらさずに使用データ数(高速走査により取得するSEM像の枚数)を減らすことは困難であったため,本提案手法は極めて魅力的な技術である。当該年度の研究で使用したパラメータ(例:倍率30万倍),および,必要な処理の繰り返し回数(例:平均化処理4回)は,汎用のSEM装置を用いて,特定の試料に対する像の取得条件を想定している。SEM装置の性能や必要な動作条件の違いにより,合焦指標の最大値を算出することにより,実験的に適切な上記のパラメータを決定することが可能である。本研究においては,人間力を活用した合焦および非点収差補正の実現を目指しているが,上記の成果を利用して,SEM装置における新たな手法の自動合焦および自動非点収差補正システムを実現できる可能性が示唆された。 上記の手法は画像共分散を使用することから,同一視野の2枚のSEM像を2組,計4枚のSEM像から複数の共分散値を計算することにより,新たな相関係数を得る手法も併せて提案し,低真空モードのSEM装置など,ノイズが顕著な条件下においても有効な指標として当該相関係数が機能することを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度以降は,本研究で提案する合焦指標および非点収差補正指標となる信号について,走査電子顕微鏡(SEM)試料の性質に依る変動抑制の実現を主軸として進める。本提案手法は2枚の同一視野SEM像間の画像共分散値の計測と,画像処理技術から成る。多様な条件下で利用されるSEM装置において,装置の能力を常に最大限に発揮できるようにすることは従来,極めて難しかった。この課題を改善するために,合焦指標となる信号の値が刻々と変動する状況をSEM装置を使用する場で連続的に明示し,操作者が最良の設定を見つけられるようにしてきた。一方,SEM像の品質を決める要素は,装置条件のみならず観察試料の性質が大きく影響する。換言すれば,合焦指標となる信号の品質について,試料の特徴までも含めて詳細に議論する場合には,信号の値が刻々と変動する状況を明示したのみでは,不足する。合焦指標となる信号は,像のコントラストに起因する様々な要素が複雑に入り交じった結果を反映している。一例を挙げれば,電子ビーム径の変化に左右される試料表面における微細構造の他に,相対的に大きな試料表面の凹凸構造,試料の弱い帯電の影響などが,合焦指標となる信号に対して強く影響する。すなわち,導電性のコーティングが施されたシリカ粒子などのSEM装置に対する標準試料においても,粒子の分布の程度のみに依存して,合焦指標となる信号の値が変化する。合焦指標となる信号の値が高くなる視野を試料表面において探索すれば,安定した状態で合焦操作をおこなうことに帰結する。当年度の研究では,合焦指標となる信号の値が不安定となる条件を明らかにして,その対策を検討する。
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