研究課題/領域番号 |
22K04276
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分22010:土木材料、施工および建設マネジメント関連
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研究機関 | 島根大学 (2023) 一般財団法人日本建築総合試験所(試験研究センター) (2022) |
研究代表者 |
吉田 夏樹 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 特任准教授 (00928046)
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研究分担者 |
中山 健一 一般財団法人日本建築総合試験所(試験研究センター), その他部局等, 主査 (60942711)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 下水管路 / NaCl / 硫酸劣化 / ジオポリマー / セメント / 二水石膏 / EPMA / デジタル画像相関法 / 海水 / 塩酸劣化 / 硫酸 |
研究開始時の研究の概要 |
硫酸による劣化が問題となるコンクリート製下水管路に海水が流入することを想定し、硫酸水溶液とNaCl試薬で濃度を調整した溶液(硫酸と海水の混合溶液を模擬)に、セメント系およびジオポリマー系材料を浸せきさせる。数週間の浸せき実験後に試験体を取り出し、ひび割れおよび劣化深さの評価と、電子線マイクロアナライザによる微小部の元素分析(生成物の面的分布の解析)を行う。以上の実験結果から、セメント系およびジオポリマー系材料の物理的および化学的変化の関係を捉え、硫酸と海水の混合溶液の浸透による劣化メカニズムを解明する。また、下水管路の維持管理に有用な材料設計手法や既設管路の調査・分析手法を提示する。
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研究実績の概要 |
下水管路では、下水から発生する硫化水素を起源として硫酸が発生し、コンクリートの硫酸劣化が生じる。沿岸部地域では下水管路に海水が侵入し、海水成分のうち特にNaClの作用で硫酸劣化が化学的に促進される可能性が懸念された。 NaClを硫酸に混合し、セメントペースト硬化体を浸せきさせると、浸せき溶液中のNaCl濃度が高くなるほどセメント中のCa2+の溶脱が促進され、懸念されたとおりセメントの劣化現象が大きくなることが分かった。これは、溶液中のH+とCl-がセメントペーストに作用し、溶解度の高いCaCl2が生成するためと推察された。また、昨年度(2022年度)中に、化学的に侵食された領域の力学的変化を局所的に捉えることを目的として、圧縮強度試験時のひずみ分布をデジタル画像相関法(DIC法)で測定する手法を試行したが、2023年度には、試験体数を拡大してデータを蓄積した。 なお、硫酸劣化に及ぼすNaClの影響については、日本コンクリート工学会の年次大会(2023年7月)およびドイツで開催された国際会議(2023年9月)で論文を発表した。また、DIC法の検討結果については、韓国で開催された国際会議(2023年8月)と日本材料学会のシンポジウム(2023年10月)で論文を発表した。 これらの検討に加えて、2023年度は、pHがやや高い(pH2~3)硫酸溶液に、セメントおよびジオポリマー硬化体を3か月間浸せきさせる実験を行った。この実験については、2024年度に試験体を詳しく分析する予定であり、下水管路コンクリートの実構造物を想定し、診断技術に役立つ重要な知見をさらに蓄積する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は、研究代表者(吉田)の所属機関が日本建築総合試験所(所在地:大阪府吹田市)から島根大学に変更となったが、共同研究者(中山)が日本建築総合試験所(GBRC)で浸せき実験を継続し、吉田が定期的にGBRCに通って共同実験を行うことで、研究を計画的に進めることができた。 昨年度(2022年度)に研究を始めたDIC法によるひずみ分布の測定方法については、試験体数を増やしてデータを蓄積することができ、研究成果を論文にまとめることができた。化学的に劣化した箇所の力学的特性を把握できる本手法は、実構造物における表層部の強度低下の有無を評価する手法として応用できる。 pH2~3の硫酸溶液にセメントおよびジオポリマーペースト試験体を浸せきさせる実験を開始し、3か月間の浸せき実験を行った。電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)、粉末X線回折(XRD)などによる分析は2023年度内の実施が困難であったため、2024年度に実施する予定である。また、劣化現象を熱力学的相平衡計算によりシミュレーションすることを計画していたが、2023年度内に実施することはできなかった。 セメントおよびジオポリマーペーストを用いた実験はほぼ計画通りに進行しており、研究は進展したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる2024年度は、以下のとおりに研究を進める。 (1) pH2~3の酸性溶液に浸せきさせたセメントおよびジオポリマー試験体の分析を完了させる。 (2) セメントおよびジオポリマー試験体の分析結果を踏まえて、水素イオン、硫酸イオン、塩化物イオンなどの劣化因子の拡散現象を考慮して熱力学的平衡計算を行い、コンクリート表面から深さ方向への相組成の経時変化をシミュレーションする。 (3) コンクリート試験体を作製して硫酸劣化を生じさせ、ペースト試験体で得られた知見をコンクリートに適用させる。 (4) 2022年度からの成果を論文にまとめて投稿する。特に、海外のジャーナルに投稿することを目標とする。 また、科研費とは別の取組みで、大阪市内の沿岸部において下水管路の現地調査を実施する予定である。2023年度中に調査を完了する予定であったが、大阪市との調整がつかず、2024年度に延期された。下水管路の硫酸劣化に及ぼす海水(特にNaCl)の影響に着目し、実コンクリート構造物で劣化現象を検証するとともに、DIC法によりコンクリート表層部の力学的特性を評価する方法を現場に適用し、コンクリート診断に役立つ知見を整理したいと考えている。
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