研究課題/領域番号 |
22K04324
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分22040:水工学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
猿渡 亜由未 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (00563876)
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研究分担者 |
渡部 靖憲 北海道大学, 工学研究院, 教授 (20292055)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 爆弾低気圧 / 未発達波浪 / 熱湿度輸送 |
研究開始時の研究の概要 |
爆弾低気圧の下で風速が動的に変化する際,海面には風速に対し平衡状態に達していない未発達な暴波浪場が形成される.そこでは十分発達した波浪場よりも砕波率が高く波飛沫の発生量が多いなど,台風下の波浪場とは異なる海面が形成されている.本研究では,風速に対し十分発達していない暴波浪場の特徴を明らかにすると共に,大量の飛沫が発生する未発達暴波浪上における熱,湿度輸送量をモデル化し,気象計算を行う際の海表面境界条件の高精度化を目指す.
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研究実績の概要 |
冬季において爆弾低気圧の通過頻度の高い紋別市オホーツクタワーにおいて,三次元波面形状画像計測を行うためのセットアップを行った.海上に立つオホーツクタワーの30mテラスに2台の可視カメラを取り付け,2つの視点から海面を映した画像ペア同士の相関座標の位置の変化から,波面の概形を推定することに成功した.2022年12月22日から25日にかけて,日本海と太平洋から強い低気圧が発達しながら北海道に接近し,その後強い冬型の低気圧が維持されたことで,北海道紋別市の全域で大規模停電が発生すると共に,オホーツク沿岸地域で2名の死傷者が出るなど,甚大な人的物的被害がもたらされた.本暴風イベント中,紋別沖では有義波高6mを超える高波と,本研究の観測サイトでは20m/sを超える強風が観測され,新設したカメラにも高白波被覆率の暴風砕波が記録された.我々の研究グループでは本暴風イベントがオホーツク沿岸の物理環境に与えた影響を詳細に調査すべく,風速,風向,気温等の気象データと,新たに取得が可能となった三次元波面形状,白波被覆率等の海面データとの比較や既往モデルの適用可能性について調査を開始し,現在も継続して研究を進めている. 寒冷海域を通過する爆弾低気圧の成長過程に飛沫による熱輸送が与える影響を調査するための数値実験を行うために,気象計算コードの開発にも同時に取り組んでいる.飛沫からの熱フラックス推定法は代表者の既往研究で構築したものをベースとしており,代表者らが別の研究プロジェクトで提案したフェッチ依存白波モデルと共に,メソスケール数値気象モデルであるWeather Research and Forecasting modelに組み込む計画を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画では熱,湿度,物質輸送と三次元波面形状や白波被覆率等の海面ステートとの関係を明らかにすることを目指しており,海面形状の現地観測システムの確率は必要不可欠な要素である.2022年度はオホーツクタワーにおける海面形状観測システムのセットアップを行うと共に,取得した画像群から,オホーツク海観測においては流氷画像を用いて広範囲に渡り画像のキャリブレーション及び実座標変換を行える可能性があることが明らかとなった.現在計算できるのは波面の概形であり,より詳細な形状を観測結果から推定するためには,次年度以降に計算手法の高精度化を進める必要があるものの,現地波面形状のステレオ計測ができる目途を付けることができた.本研究の観測システムにより,2022年12月に襲来した強い低気圧と冬型の気圧配置に伴う暴波浪場における海面画像,気温,水温,SST,風速等の貴重な現地データが取得された.白波被覆率は,大気海洋間の運動量,熱,湿度輸送フラックスの決定要因のひとつとして本研究で着目する飛沫のソース面積を表すものであり,飛沫生成量を決定する重要なパラメータのひとつである.白波被覆率は風速をパラメータとしたバルクモデルが提案されており,外洋の白波砕波や定常な気象条件下の海面においてはある程度の精度での予測精度が期待できる一方,海底勾配の影響を受ける沿岸域や低気圧中心付近の風向が時々刻々と変化することにより風の条件に対して不飽和な海面への適用の為には,予測精度が不十分となることを代表者らの既往研究において確認している.2022年度は,沿岸域の非定常暴波浪場における白波被覆率と海面状態との関係を今後明らかにしていく為の基礎データを取得することができた.これを基に白波被覆率,三次元海面形状と海面大気海洋間の運動量,熱,湿度輸送フラックスとの関係を調査していくと共に,暴風白波データの収集を継続していく.
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今後の研究の推進方策 |
2022年度に海面画像を観測するための基本的なセットアップを完成させた一方,画像解析を更に高精度化するためにはカメラの視野や画像の取得枚数を始めとした撮影条件の更なる改善が必要であることも明らかとなった.本年度は冬季の爆弾低気圧シーズンまでに観測条件の最適化を図ると共に,観測機器の遠隔操作システムの改良を行う.また前年度までは観測サイトから18km離れた沖合のNowphas観測点における観測波浪データを用いて海象と気象との関係を調査してきたが,2023年度は同サイトで観測を行う共同研究者が他の研究計画の中で水圧式波高計を新規に取り付ける予定であり,観測された波浪データは本研究のために共有して頂けることになっている.これにより三次元波面計測を行った地点における時々刻々の波浪条件を取得することができる為,本研究の波浪推定結果との直接比較から三次元波面計測精度のより詳細なバリデーションと画像解析法の高精度化が可能となる予定である.冬季爆弾低気圧通過時の暴波浪場を対象とした観測データの収集も継続的に行う. 波飛沫の潜熱顕熱輸送による熱境界条件の局所変化の影響を数値的に再現するための数値計算法の開発を継続する.2022年度の研究から十分発達した暴波浪場を仮定した場合と,低フェッチ条件の未発達波浪場を仮定した場合とでは飛沫由来の熱輸送速度に最大2オーダーの差が生じうることが試算されると共に,既往のバルクモデルでは暴風下の白波被覆率を過大評価し得ることも明らかとなった.2023年度は計算のセットアップを完成させ,爆弾低気圧下の飛沫による熱輸送速度に関する数値実験を行う予定である.
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