研究課題/領域番号 |
22K04402
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分23010:建築構造および材料関連
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
塚越 雅幸 福岡大学, 工学部, 准教授 (50579711)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | 鉄筋腐食 / 含水率 / 仕上材料 / 室内外 / 含浸材 / 撥水性 / 接触角 / 屋外暴露試験 / 促進暴露試験 / 防水材 / 表面保護材 |
研究開始時の研究の概要 |
躯体と内外装材料はそれぞれ個別最適化の考えで設計・管理され、使用部材としての全体最適化に基づいた材料設計・管理とはなっていない。そのため、保護仕上を施工したが逆に躯体の劣化が促進したり、保護仕上の早期劣化など思いがけない不具合が発生している。 本申請研究では部材レベルでの材料の性能と耐久性評価試験法を提案し、従来の材料単体での試験法での結果の有効範囲と限界について明らかにする。これにより材料単体では見つけることが出来ない不具合や劣化の生じる条件を明らかとし、部材構成と使用環境を考慮した新しい材料の性能の基準や耐久性評価システムを構築、使用状態に応じた躯体の高性能保護仕上材料の開発を行う。
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研究実績の概要 |
実験は大きく以下の2シリーズ行った。 (1)降雨の影響をうけるコンクリート壁面中の鉄筋腐食に及ぼす室内仕上の影響として,外壁の室内側の仕上材料の透湿性が,屋外側の降雨等による水分供給を受けた際の内部の含水状態および鉄筋の腐食環境に及ぼす影響について検討を行った。実験では厚さ100 mmのモルタルの室内外を想定したかぶり15 mm・72 mm位置に鉄筋を配した供試体に対し,降雨を想定し屋外側面を吸水・乾燥環境に暴露した。屋外側では,室内の仕上材料の有無によらず,吸水・乾燥環境に対応するように含水率と鉄筋の分極抵抗が変化した。室内側では,仕上なしの供試体では,屋外側の吸水・乾燥に関係なく,乾燥状態となり分極抵抗は上昇,透湿性の低い仕上材料が施工された供試体では,湿潤状態となり分極抵抗は低下した。これは,改修工事等で室内側面に仕上材料が施工された場合,コンクリートの劣化状況によっては耐久性を低下させる恐れがあることがあり,仕上材料の施工に際しては十分に躯体の状況を判断する必要があることを示唆している。 (2)無機系含浸型撥水剤の劣化試験方法の検討として,有機・無機系撥水剤の耐久性について,劣化因子として水・熱・酸を対象に,下地モルタルへの水分の浸透量,表面の撥水性と色差,電気化学的特性を評価項目として検討を行った。熱・水分および酸劣化環境下では,有機・無機系撥水剤ともに表面の撥水性が徐々に低下し,特に有機系撥水剤では49日後から大きく撥水性が低下した。また酸劣化環境では,特に有機系撥水剤で酸の浸食によるセメントの剥落が生じた。しかし,本試験条件の範囲では,表層部のみの劣化に留まっており,含浸したモルタル内部の撥水性に大きな劣化はなかった。有機系撥水剤は無機系に比べ水分遮断性能は非常に高い結果となったが,躯体保護効果については長期的な性能の持続性について検討する必要があると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)部材として実際の建築壁面での使用しを想定した際に生じる不具合の発生原因や条件と影響度を明らかとすることを目的に,室内外での使用環境を模擬した2面暴露試験として,特に屋外環境からの降雨の影響に着目した検討を行った。 この結果,一般に保護材料として使用される仕上材料の室内側壁面への使用が,部材の劣化状況と曝される環境によっては不利に働くことがあるケースを実験的に示した。例えば,室内側に何も仕上材料が施工されていない場合,屋外側からの水分の供給の影響は非常に小さく,常に乾燥状態にあったが,仕上材料が室内側面に施工された場合,屋外側から供給される水分が室内側の鉄筋付近に留まり,鉄筋腐食が進行する恐れがあった。そのため,屋外側が雨掛かりする部位で,経年により室内側の中性化が鉄筋まで進行した時に,改修工事等で室内側面に透湿性の低い仕上材料が施工された場合,躯体の耐久性を低下させる恐れがあることまでを明らかにした。 (2)仕上材料のうち,コンクリート材料の質感をそのまま残しつつ,防水性を付与できる含侵系の撥水剤は,これまで主成分が有機系材料であり,水分・熱・酸性雨・紫外線などの影響により,数年で劣化し,表面部での撥水性を失う事が報告されている。そこで,無機系の含浸型撥水剤の開発が進んでおり,その撥水性能については検討されてきているが,無機系材料の耐久性についての検討が不十分である。また,無機材料の評価方法自体が既存の建築・土木系の仕上材料に関するJISやJASSなどで明確に規定されていない。そこで,一般的な表面仕上材料に要求される酸性雨や熱の劣化を考慮した促進劣化試験を行う事で,まず,無機系材料と有機系材料の劣化性状の違いについて明らかにし,無機系撥水剤の耐久性評価方法についての検討を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
(1)建築物の外壁面室への室内外からの環境因子の同時作用の影響について,鉄筋コンクリート部材を対象とした実験を行ってきた。しかし,実際のコンクリート構造物には様々な理由でクラックが発生するが、これを完全に防ぐことは難しいとされている。躯体保護の観点から、仕上材料を使用する場合、このような弱点となるクラック部分での保護効果を有して新の意味で保護効果があると言える。そこで,本年度はクラックを有する躯体コンクリート部材への,室内外からの環境因子の同時作用の影響について検討を行う。また同時に,躯体の状況が各種仕上材料の付着性状に及ぼす影響や,非破壊での塗膜系材料の性能評価手法についても検討を行う。さらに,躯体として木材・CLTを対象とした実験も追加で行う予定である。これは,CLTの接着層の影響について特に水分移動に着目し,これが耐久性や,金属系接合部材等との取り合い部分の関係性に及ぼす影響について検討を行う。 (2)含侵系材料の躯体保護性能については,先の暴露試験の条件では,モルタルのかぶり15 mm以内での比較的表面に近い位置へ水分や,劣化因子の侵入が生じていたものと思われる。そこで,これら撥水剤の水分浸透抑制性能が,躯体のより深部にある鉄筋の保護性能,たとえば室内側への影響や,その持続性について,追加で検討する予定である。さらに,実構造物を想定したコンクリートの打ち込み高さの影響(コンクリート表面),また壁面での降雨強度の影響(劣化因子の作用割合)など面方向でも非定常状態にある状況を再現し,より実使用に近い環境を想定した実験を行うことで,含侵系材料の有効な性能を発揮するための条件について検討を行う。
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