研究課題/領域番号 |
22K04517
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分23040:建築史および意匠関連
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
頴原 澄子 千葉大学, 大学院工学研究院, 准教授 (40468814)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2025年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
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キーワード | 大高正人 / 農協 / 全日本海員組合 / 協同組合 / 労働組合 / 大髙正人 / 前川國男 / J. ラスキン |
研究開始時の研究の概要 |
19世紀から20世紀前半にかけて、資本主義・自由主義の伸張とともに労働者の生活環境の悪化、犯罪の増加などの社会問題が深刻化する中、コミュニズム、サンジカリズム、アナキズムなどの社会改革運動が世界各国で行われた。大髙は、学生時代から社会改革に興味を持ち、独立して事務所を構えると、協同組合の建築に重点的に取り組むようになった。本研究は、大髙が協同組合建築の生産過程において各種建材メーカーや、施主である組合メンバーとの協働が行われていたかを、作品および言説分析のほか、打ち合わせ記録等を資料として、大髙の社会改革に向けた「活動」のありようを明らかにすることを試みるものである。
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研究実績の概要 |
本研究は、大髙の協同組合建築を中心に、「作品」および「言説」の分析を起点としつつ、建築を媒体とした大髙の社会改革活動がいかなるものであったかを明らかにするものである。 2022年9月にスペイン・ヴァレンシアで開催された第17回DOCOMOMO International会議にて大髙正人による8つの農協建築を大髙事務所の設計理念PAU(Prefabrication, Art and Architecture, Urbanism)に照らして検証した「Prefabrication, Art & Architecture, and Urbanism in Agricultural Cooperative Buildings by Masato Otaka」を発表した。 また、全日本海員組合本部会館ビルについては、労働史研究者、元大高正人建築設計事務所所員、社会連帯経済研究者への聞き取り調査を行うとともに、2023年1月から改修工事が始まるのに先立ち、見学会を開催した。申請者は同建物の評価を技術性・審美性・社会性・歴史性の面から解説を行った。 2022年度はサバティカルを取得し、イギリスに滞在したため、当初は2年目に予定していたイギリスにおける組合建築に関する調査を前倒しして行った。マンチェスターのCo-operative Archive、ロッチデールのPioneers Museumにて調査および資料収集を行った。また、労働者協同組合の先駆的事例としてPeter Jones 百貨店の経営改革を行ったJohn Spedan LewisについてJohn Lewis and Partners Heritage Centreにて調査および資料収集を行った。これらのイギリスにおける調査研究成果については、Webマガジン「建築討論」にて2月末から隔月で連載をスタートさせた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度はサバティカルを取得し、イギリスに滞在したため、当初計画の2年目に予定していたイギリスにおける組合および組合建築に関する研究を前倒しした。 イギリスに関しては、産業革命を経て経済発展を遂げた18世紀から19世紀のイギリスにおいて、人口増加に伴う生活環境の悪化、貧富の差の拡大などの社会問題に対して取り組んだ各種の組合の起源についての調査および資料収集を行った。その結果、筆者はこれまでジョン・ラスキンやウィリアム・モリスの建築保存理念における社会主義的な側面について考察を行って来たが、彼らの思想の形成の背景には、さまざまな社会改革運動との密接なつながりがあることが判明した。また、イギリスにおける近代建築の導入の過程においても社会主義思想の影響が窺われた点は、大高正人が日本において近代建築の推進を行った問題意識とも通じるところがあったと考えられた。 一方、大高正人の組合建築に関しては、現地調査は行うことができなかったが、法政大学教務助手藤本貴子氏の協力を得て、オンラインにより、労働史研究者、元大高建築設計事務所所員、社会連帯経済研究者への聞き取り調査を実施した。また、全日本海員組合本部会館については12月に改修工事前の見学会を開催した。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は改めて、日本において、大高正人の設計思想PAU(Prefabrication, Art and Architecture, Urbanism)に照らして、農協や全日本海員組合などの組合建築の設計において、いかなる社会を構築しようとしていたかについての研究を進める。その際、大高が会長を務めた、農協建築研究会の活動にも着目し、同研究会のメンバーであった岡田恭一、山田昭らによる農協建築実作品および活動の中心であった山名元の言説についても調査研究を進める。 この分析の際には、協同組合以外の建築や、前川事務所時代に担当した作品、学生時代の指導教官であった池辺陽の活動も適宜参照して行く。なぜなら、大髙事務所のモットーはPAU(Prefabrication, Art and Architecture, Urbanism)であったが、この中のPは、Product(生産)という意味でもあり、前川のテクニカル・アプローチの流れを引くものであったからである。また、池辺陽は建築の工業化・標準化を研究した建築家であるとともに、1947年新日本建築家集団NAUの創立に参加した人物でもあった。同団体ではいくつかの労働組合の建物も手がけており、NAUには1949年農村建築部会、1950年農村建築研究会が設置された。大髙が1964年に設立した農協建築研究会は、池辺の影響を受けていた可能性がある。
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