研究課題/領域番号 |
22K04540
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分24010:航空宇宙工学関連
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
土屋 隆生 同志社大学, 理工学部, 教授 (20217334)
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研究分担者 |
金森 正史 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 航空技術部門, 主任研究開発員 (50770872)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2024年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
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キーワード | 超音速旅客機 / ソニックブーム / マッハカットオフ / FDTD法 / 騒音予測 / 大気乱流 / マッハカットオフ騒音 / 騒音 |
研究開始時の研究の概要 |
飛行機が超音速で飛行するとソニックブームと呼ばれる衝撃性の騒音が発生することが知られている。このソニックブームが大気中の温度変化により直進せずに曲がるために生じるマッハカットオフ現象を利用した低騒音な超音速飛行が計画されているが,現実には想定外に大きな騒音の発生が報告されている。このマッハカットオフ騒音は,気象による局所的な大気乱流が原因と予想されるが未だ解明されていない。本研究は,この騒音を数値解析によって解明することを目指す。広大な空間を効率よく解析するためのハイブリッド法を開発し,騒音の全容を解明する。
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研究実績の概要 |
商業運行が期待されている超音速旅客機は,ソニックブームの問題が避けられないが,大気中の温度勾配に起因するマッハカットオフ(MCO)現象を利用した回避法が模索されている。しかしながら,気象に起因した局所的な大気乱流によるMCO騒音の発生が問題となっている。 本研究の目的は,数値的手法によるMCO騒音の全容解明である。本年度は,昨年度開発したブームとMCO騒音の計算を分離したハイブリッド解法を検証した。本手法では,ブーム本体の伝搬計算は高忠実に行えるが,MCO騒音の伝搬計算は時間領域差分(FDTD)法を使用するために,高精度な計算を実施しようとすると計算機資源が膨大に必要となる。そこで,今年度は共同研究者の所属するJAXAが所有するスーパーコンピュータを用いて,数値的な検証を試みた。FDTD法は,グリッド間隔が小さいほど精度が向上するため,グリッド間隔とPL値の関係を調べた。その結果,グリッド間隔が0.1 mあたりからPLの収束傾向が認められた。したがって,ハイブリッド解析で衝撃波面を捉えるためには,グリッド間隔を少なくとも0.1 m以下にする必要があることが示唆された。また,従来の解像度よりも向上させることで,caustic 近傍の擾乱波が他の高度で発生した擾乱波より支配的であることも示唆された。これは,これまでの低解像度解析における結果と異なるが,今回の高解像度解析による結果の方が物理的には妥当であるため,今後は高解像度解析が必要となろう。 一方,実験結果との比較検討については,NASAが2012年に実施したFaINTプロジェクトの実験データを解析した。このプロジェクトは,マッハ1.2以下で35,000 ftを水平飛行した場合のMCOによるエバネッセント波を対象として,様々な高度の音圧波形を取得している。解析の結果,MCO状態のフライトが数回観測されていることが判明したが,これと同じ条件の計算は行えなかった。これは,最終年度の課題とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は,A)ハイブリッド解法の開発とB)大気乱流モデルの検証を実施した。まず,A)の進捗状況については,ハイブリッド解析のプログラムを数値的に検証できた。この手法は,ブーム本体を非線形音響手法で解析することで,非線形効果を考慮し,かつ観測結果に忠実なブーム計算を行うものである。ただし,MCO騒音の伝搬計算は時間領域差分(FDTD)法を使用するために,高精度な計算を実施しようとすると計算機資源が膨大に必要となる。そこで,JAXAが所有するスーパーコンピュータを用いて数値的な検証を試みた結果,グリッド間隔を狭くすることで精度向上が可能であることが示された。これは,本課題にとって大きな成果であるが,スーパーコンピュータが必須となることで,ジョブスケジューリングにより大きなジョブほど待機時間が長くなることが課題であった。また,従来の解像度よりも向上させることで,caustic 近傍の擾乱波が他の高度で発生した擾乱波より支配的であることも示唆された。本結果は,これまでの結果とは異なるが,物理的にはより妥当性があり,今後caustic 近傍のみを解析対象にするなどの道が開けたと考える。 一方,B)については,A)の解析にスーパーコンピュータを用いたことから,ジョブ待機に時間を要してしまい,NASAのFaINTプロジェクトの実験データとの比較検証まで至らなかった。ただし,MCO状態のフライト条件を解析できたことから,次年度は計算を実施できると考えている。そのため,この区分とした。
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今後の研究の推進方策 |
まず,NASAから入手したMCO騒音データとハイブリッド法による計算結果を比較検討することで,本手法を評価する。ただし,計算に使用する気象条件等のデータが一部不足しているため,実験場近隣の観測データから補間するなどの方策が必要となる。また,MCO騒音の伝搬計算はFDTD法を用いているため,十分な精度を確保するために引き続きJAXAのスーパーコンピュータを使用する。ただし,スーパーコンピュータによる高解像度化だけでなく,音線法によるMCO騒音評価手法の可能性も併せて検討する。この手法は,これまでにMCO騒音の発生地点の検討で用いたランキン渦モデルの拡張版で,比較的小さな領域に対し計算できるため,現有のGPUクラスタシステムで開発・計算する。 ハイブリッド法の検証とともに,数値実験によるMCO騒音の解明についても検討を行う。MCO騒音は,乱流の高度・スケール・分布や,機体形状に基づいたブーム波形などで大きく変化することが予想されるので,現実にとり得る条件がMCO 騒音へどのような影響を与えるのかを数値実験し,MCO 騒音の全容を数値的に解明する。
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