研究課題/領域番号 |
22K04560
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分24020:船舶海洋工学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所 |
研究代表者 |
山口 良隆 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所, その他部局等, 研究員 (20344236)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 排ガス洗浄スクラバー / 多環芳香族炭化水素 / 光触媒 / その場処理 / 有害化学物質削減 / 湿式排ガス浄化システム / 排出削減 |
研究開始時の研究の概要 |
舶用排ガス中に存在する硫黄酸化物(SOx)の大気中への放出を防止するために、船内に設置された水スクラバーで、排ガス洗浄が行われている。そのスクラバーの排水中に、有害化学物質である複数種の多環芳香族炭化水素が含まれている。さらに、この排水を海洋環境中へ放出することがある。そこで、排出される多環芳香族炭化水素を削減するために、船舶内部における化学物質の処理方法が必要である。本研究では、排水中で光触媒を用いた多環芳香族炭化水素分解システムを作製するために、有効な触媒の選択や科学的なデータを取得する。
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研究実績の概要 |
グローバルな舶用燃料の硫黄(Sulfur, S)分規制が実施され、排ガス中のS分除去のために海水等で排ガスを洗浄する湿式排ガス浄化システム(Exhaust Gas Cleaning System, EGCS)を使用する船舶が急増した。排ガスを洗浄したEGCS排水中には、発がん性物質を含む多種の多環芳香族炭化水素(Polycyclic Aromatic Hydrocarbons, PAHs)が含まれている。船外排水後にPAHsが海洋中のマイクロプラスチックと結びつき、魚類等の海洋生物の生体内に取り込まれて濃縮され、食物連鎖により、最終的に人間の健康リスクにつながることが懸念される。本研究はPAHsの海洋中への排出削減のため、光触媒によるPAHs分解に着目し、海水や強酸性での最適な触媒の種類や分解条件を明らかにし、EGCS排水中のPAHs処理を目標とする。 本年度は、PAHs対象物質にフェナントレンを使用し、光触媒にTiO2を用いて、海水中に光照射を行い、PAHsの光触媒分解試験を行った。さらにフェナントレンの分解状態の評価を蛍光分析で行うために、触媒と実験溶液の分離を行う前処理方法の検討を実施した。その結果、非水系のメンブレンフィルターで、フェナントレンについて良い回収率が得られた。次に、フェナントレンを溶解させた海水にTiO2光触媒を入れて光照射を行い、フェナントレン由来の蛍光ピークが、照射時間とともに減少することが確認できた。 TiO2光触媒の海水中における有機物分解の高活性化を行うために、300℃から700℃の間で系統的に触媒焼成を行った。さらに、焼成後触媒のキャラクタリゼーションとして、比表面積の計測を行った。触媒焼成により、未焼成のものより有機物分解の活性が向上したものが確認された。比表面計測では、焼成温度が高くなるほど比表面積が減少する傾向であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
EGCS排水中には、排ガス成分から移行した有害化学物質のPAHsが存在する。そのため、船舶内でPAHsのその場分解処理を行い、海洋環境中へ排出削減を目指す。そこで、排水中のPAHs分解処理のために、光触媒に着目した。海水中で有機物の分解活性の高いTiO2種で、PAHsの分解について検討した。さらに、光触媒の有機物分解の高活性化を目指して、TiO2光触媒焼成し、メチレンブルー(MB)を分解インジケーターに用いて、触媒性能試験を実施した。 人工海水にPAHsのフェナントレンを溶解させて、試験溶液を調整した。海水中のフェナントレンは、蛍光分光装置で計測を行った。人工海水中のフェナントレンの特徴的な蛍光スペクトルを計測し、その変化で対象物質の分解評価を行った。 蛍光計測の前処理として、光触媒と溶液を分離が必要である。そこでメンブランフィルター(MF)を用いたろ過について検証を行った。水系のMFで、試験溶液をろ過した場合に、ろ過溶液中にフェナントレンが検出されなかった、または大幅に減少した。一方、非水系のMFを使用した場合に、最大8割程度の回収ができ、フェナントレンの蛍光計測のための前処理法として本手法を採用した。 次にフェナントレンを溶解させた海水溶液にTiO2光触媒を入れて、分解試験を行った。光照射時間が増加すると、溶液中のフェナントレン由来の蛍光ピークの減少が確認できた。 次に、触媒を焼成することにより、未焼成の触媒よりもMB分解の反応速度が向上したものがあり、今後、PAHsについて利用可能か検討する。また比表面積計測の結果、加熱を行うとTiO2光触媒の表面積は減少する方向であった。 このように海水中においてTiO2光触媒でPAHsの分解が確認できたので、本年度の進行状態は、おおむね順調と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
TiO2光触媒反応において、対象PAHsのひとつであるフェナントレンの分解が、海水中で可能であることがわかったので、多種のPAHsについて海水中における分解の評価を行う。現在、使用している蛍光分析だと各PAHの種類別の判別が難しい場合があるため、クロマトグラフ法で各PAH種を分離して分析をする必要がある。また、クロマトグラフ法で分析をするためには、海水中から各PAH成分を分離・濃縮する必要がある。この前処理については、固相抽出法を予定している。海水からの最適なPAHs回収条件として、適切な固相の選択、回収時の溶液等の条件について検討を行う。次にクロマトグラフ法における分析条件について検討を行う。そして、固相抽出によるPAHsの分離・濃縮法や分析条件が完成後に、多種混合のPAHs海水溶液での光触媒を用いたPAHs分解試験を実施する。
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