研究課題/領域番号 |
22K04591
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分25010:社会システム工学関連
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研究機関 | 長岡大学 |
研究代表者 |
高島 幸成 長岡大学, 経済経営学部, 講師 (70743904)
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研究分担者 |
八木 勲 工学院大学, 情報学部(情報工学部), 教授 (10457145)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | Agent Based Modeling / 人工経済 / ベーシックインカム / 労働意欲 / エージェントベースモデリング / 社会モデル / 経済シミュレーション |
研究開始時の研究の概要 |
近年、ベーシックインカム(BI)についての議論が活発化しており、実証実験の実施例も諸外国で見られるようになってきている。しかしながら、BIについては財政上の困難性や労働意欲の減少などの理論上の実現可能性に対する疑問が呈されているとともに、対象範囲や対象期間の制限などから実証実験の有効性に対する問題点が指摘されている。 本研究はAgent-Based Modelingに基づくマクロ人工経済モデルを用いることによって、BIがマクロ経済と個々人の心理に基づく行動の相互作用から生じる創発現象を分析し、個人が持つ特性を実験条件としてBIに適した集団の特性を明らかにする。
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研究実績の概要 |
本研究はベーシックインカム(BI)が経済全体に及ぼす創発影響に焦点を当てて、BIによって生じる現象、及びBIに適合する社会構成を明らかにすることを目的としている。 本年度は、BIの影響を考慮することが可能なAgent-Based Moelingによる人工経済モデルを構築し、BIが経済に及ぼす初歩的なシミュレーション分析を実施することが可能となった。本モデルはシステム内のエージェントが内生的に製品の生産量や価格を調整し、企業と家計と政府で完全に資金が循環するモデルであり、労働意欲を考慮したBIの影響について経済全体の生産量や価格、設備投資への影響までを分析することが可能である。 基礎モデルのシミュレーションにより、BIの実施がGDPを増加させる一方で、設備投資や製品生産などの企業の生産活動が鈍化する傾向にあることが分かった。GDP増加はBIによる所得の再分配効果の影響が大きく表れた結果である。また、投資の不活性化は、BIによる所得の均一化伴って労働者の労働意欲が減少し、競争優位の企業が突出した地位を得られず、市場での設備投資競争をけん引する企業がいなくなることが原因であることが分かった。 この結果について、家計の幸福状況を図る指標として家計が消費できた製品の数に着目すると、システム内の中流家計の層が厚くなることからシステム全体の幸福度は向上しているといえる。また、この時、BIとして支出する金額について、市場平均所得の40%の金額を支給するよりも20%の金額を支給する方がGDPが高く、市場も活性化する傾向が得られた。 以上のことは、BIの実施に対しては社会的幸福と経済活動を両立可能な最適点がある可能性を示唆するとともに、設備投資や生産量のフィードバックを内包するシステムを用いた検討が重要であることを示しており、これらの結果をまとめた論文を現在投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度、進捗状況においては①基盤となる人工経済のベースモデル構築の遅れ、②BI検証可能な経済モデルの拡張、③BIの創発影響分析の検討の3点の事項を交えて説明する。 まず①として、本研究の基盤である人工経済のベースモデルについては、当初予定よりもやや遅れが生じた。そのため、②についての着手が遅れた。しかし、ベースモデルは拡張性を十分に考慮したモデル構造であるため、当初想定していた必要時間で概ね拡張を終えることができた。 結果的に③の着手は当初計画より遅れを伴っているものの、現在までのところシミュレーション実験は順調に進んでおり、初期の実験成果のまとめは当初予定していたより短い期間で実施できており、BIによる初歩的な創発影響を分析した結果を論文にまとめることができている。 以上の結果から、現在までの本研究の進捗状況として、やや遅れを伴う事象が生じ、その結果として予定が後ろ倒しになっているものの、生じた遅れは縮小傾向にあるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
3月末の段階でBI、及び労働意欲の変化を伴う人工経済モデルの実験結果をまとめた論文を投稿可能な状況であり、4月末までにApplied Sciences誌に成果の投稿を行う。また、この結果をベースに労働意欲の変化に関する複数の説に基づいた労働意欲関数とBIの関係の分析を行ったシミュレーション実験を実施予定であり、本年度7月末に投稿予定である。 上記の結果から、BIと労働意欲が経済に及ぼす基本的な影響の分析が終了する。次にシステムを構成する労働者の性向によるBIの適合実験に移行する。これは、モデル内のエージェント毎の労働意欲関数のパラメータを勤勉、怠惰等の複数種類に分け、その割合に応じて仮想的な国民性向を作り出し、BIに最も適合する国民性向を明らかにする実験である。 本年度の中盤以降の主たる研究活動は上記の性向分析にあてる予定である。また、並行して後半から来年度に実施予定の現実の各国民性向と、仮想性向の比較検討を行う。
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