研究課題/領域番号 |
22K04682
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分26020:無機材料および物性関連
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
奥野 剛史 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (70272135)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 蛍光体 / 蓄光 / 希土類イオン / 発光 / 格子欠陥 / 光刺激発光 / 硫化物 / ユーロピウム / 結晶欠陥 |
研究開始時の研究の概要 |
蓄光とは、光をあてるのをやめた後も1時間程度は緑色で光り続ける現象である。しかしその性能は発展途上で、夜中に目覚めた時に電灯のスイッチの位置を教えてくれる蓄光シールが十分な明るさで光り続けていることはない。その理由のひとつは、実用化されているにもかかわらず蓄光現象の物理機構が十分に解明されていないことである。 本研究は、蓄光蛍光体に光をあてた際に、そのエネルギーを蓄えている実体とエネルギーの深さを、さまざまな色の光をあてて、生じる微弱な蓄光の強さを検出することによって明らかにしようとするものである。
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研究実績の概要 |
ユーロピウムを添加した硫化カルシウム蛍光体において、生じる赤色の蓄光現象について詳細に調べた。そして、赤色の光刺激発光が生じることを見い出した。波長940nmの近赤外光をあてることによって、波長650nmの赤色光が生じた。通常は波長の短い光をあてて波長の長い発光を生じさせるが、逆に、あてる光よりも短い波長の光が生じている。エネルギー上方変換に相当し、ふつうはおきない現象である。蓄光蛍光体のトラップ準位にうまく蓄積されたエネルギーを、近赤外光で解放させてユーロピウムまで移送させ、赤色発光を生じさせている。この光刺激発光は、通常は近赤外レーザー光といった強い光をあてて研究されているが、テレビのリモコンに使われている弱い近赤外LEDの光で赤色発光を生じさせることができた。 ジスプロシウムイオンやアルカリ金属イオンなどにより形成されるトラップ準位によって、蓄光や光刺激発光が生じた。ジスプロシウムイオンとアルカリ金属イオンは、独立に異なるエネルギー深さのトラップ準位を形成することがわかった。そして、光刺激発光の増大にもっとも大きく寄与するのは塩素イオンであった。近赤外光を10秒あてて消した後の蓄光減衰曲線は、近赤外光をまったくあてない場合の減衰曲線と同じであった。すなわち、蓄光に寄与するトラップ準位と、光刺激発光に寄与するトラップ準位とは異なることを明瞭に示す結果となった。暗所で60分放置した後に近赤外光をあてて生じた光刺激発光の強さは、すぐに光刺激発光をえた場合の68%の強さであった。暗所での保持によりトラップ準位に蓄積されたエネルギーの散逸はすくないことが確認された。 以上の結果は、LEDという弱い光で光刺激発光が生じることを実証するものである。今後、あてる光の波長を変えることによってトラップ準位のエネルギー深さを調べることが可能であることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高性能のものが実用化されていない赤色蓄光蛍光体について研究をすすめている。CaS:Eu赤色蛍光体において、イオンを極微量追加することによって、蓄光時間が伸長すること、および、光刺激発光(photostimulated luminescence, PSL)がLEDという弱い励起光によって生じることを見い出した。試料位置におけるLEDの強度は10mW cm^(-2)である。Euの濃度は0.1%を用いている。Dyを0.01%というごく微細量を添加することにより蓄光時間は150sから300sに増大した。そこにさらにNaCl8%を加えることにより、1000sまで伸長した。電子線照射局所構造解析での元素分析や電子スピン共鳴の結果から、もともとCaS母体結晶に含まれていたS欠陥が蓄光をもたらすトラップ準位の起源と考えられることを示した。DyやNaなどの原子自体がトラップ準位を形成するのではなくて、それらの添加によってS欠陥が増えるのだと考えられる。とくにDy0.01%というごく微量の添加でも蓄光時間に影響を与える点は重要である。赤色蓄光の起源についての情報をえることができたといえる。 近赤外光励起で生じる赤色PSLは、蓄光をもたらすトラップ準位の深さを調べるための有用な手法であると考えられる。PSLを得る前に暗所に放置する時間を変化させることにより、PSLの保持時間を評価した。NaClを2%添加したCaS:Euにおいて、8400s(140分)というPSL保持時間が得られた。今後励起波長を変化させてトラップ準位のエネルギー深さを評価するための十分に長いPSL保持時間があることを示した。また、PSL現象自体も、蛍光体粒子を特定の細胞に付着させる技術と結びつけて生体イメージング等に用いることが考えられている興味深い現象である。PSLを増強するための情報も得られてきている。
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今後の研究の推進方策 |
強いレーザー光ではなくて、10mW cm^(-2)という弱い強度の近赤外LEDにて光刺激発光(PSL)がえられることがわかった。今後は、キセノンランプを分光した光源を用いて、PSLおよび蓄光が生じる励起波長依存を測定する。キセノンランプは連続波長光源であるので、350nmから1500nmまでの様々な波長を出力することが可能であり、その弱い強度の光においても、PSLおよび蓄光を生じさせることができると考えられる。 (1) PSLや蓄光という微弱光を検出するPSL励起スペクトルおよび蓄光励起スペクトルを測定する。分光器、フィルター、レンズなどの光学系を工夫して、微弱光を検出するための、励起と検出の測定系を構築改良する。また、325nm, 442nm, 980nmや1500nmのレーザー光も励起に用いる。蓄光やPSL強度が弱い試料でも実験結果が得られ、比較した議論が可能になる。(2) 試料として、CaS:Eu、それに適当なトラップ準位を形成する不純物を導入したもの、(CaSr)S混晶でバンドギャップを連続的に変化させたもの、その他の硫化物母体結晶、酸化物母体結晶、などを作製して用いる。(3) 熱蛍光測定、電子スピン共鳴、電子顕微鏡観察、元素分析などによってトラップ準位の種類と濃度について情報をえる。 以上のように、各種作製した試料におけるさまざまな測定結果を統一的に議論する。蓄光の起源となるトラップ準位のエネルギー位置Ec-Et(蛍光体母体結晶の伝導帯下端と、トラップ準位のエネルギー差)の同定を試みる。蓄光に最適なEc-Et、PSLに最適なEc-Etについての情報をえる。そして、そのトラップ準位の濃度を増大させることを試みる。試料作製にフィードバックし、蓄光およびPSL現象の統一的な理解を試みる。
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