研究課題/領域番号 |
22K04692
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分26020:無機材料および物性関連
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
楠 正暢 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (20282238)
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研究分担者 |
杉本 俊之 山形大学, 大学院理工学研究科, 准教授 (10282237)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | エレクトレット / ハイドロキシアパタイト / 一軸配向 / 配向制御 |
研究開始時の研究の概要 |
ハイドロキシアパタイト(HAp)はエレクトレット材料として機能することが報告されている。ここでは多結晶HApが結晶粒界や結晶欠陥をパスとして高温でのみイオン伝導する性質をもつため、その状態で電界を加え、分極した後に冷却して電荷固定をすることにより実現したものであると説明されている。これに対し本研究では、c軸方向に一軸配向させたHAp結晶膜を用い、それが有する結晶学的な異方性を原理として分極を生じさせ、従来の多結晶HApよりも電荷保持力の高いHApエレクトレットを開発し、バッテリーフリーデバイスを実現するための超小型発電用素子の候補となり得るかを検討する。
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研究実績の概要 |
本研究は、秩序化された一軸配向ハイドロキシアパタイト(HAp)の結晶格子を利用してエレクトレットを形成できるか、従来法を超える性能を実現できるかを実験的に明らかにすることを目的としている。その背景には、高性能エレクトレットが実現されれば、超小型発電デバイスの基本素子として使用できるため、それを用いてIoT社会における様々なデバイスをバッテリーフリー化したいという構想がある。従来より、HApすなわちCa10(PO4)6(OH)2がエレクトレットとして機能することが報告されているが、それらは多結晶状態のものであり、結晶粒界に生じるイオン伝導で形成された電荷の局在状態により得られるものであった。これに対して、我々が開発した一軸配向の高結晶性HApを用いれば、イオン伝導とは異なる原理で、より強い分極が得られる可能性がある。これを確かめるため、本年はまず、試料に分極処理を施す装置の作製を行った。結晶方位の揃った配向制御HAp膜に対し、熱エネルギーを加えることで結晶中の原子を動きやすくし、それと同時に強電界を加えることにより分極を行い、その状態で室温まで冷却し分極状態を固定することができる構造とした。具体的には、10^(-5)Paの桁まで排気できる真空チャンバ内に、室温から900℃まで昇温可能なヒータと、最大100MV/mの強電界を印加できる電源と試料ホルダを作製した。これに対し、基本的な動作試験を行い、問題なく機能することを確認した状況である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では上記の高温・高電界分極処理装置の作製と同時に、固定化された電荷の測定を行うための表面電位測定装置の改良を行うことを記した。これについては山形大学(分担)で実施され、試料がその表面に垂直方向へ放つ電界を空間的な電位として非接触電位計で読み取り、固定された電荷を計算により求められることが確認されている。以上のように、計画通りに進捗しているが、これと並行して、分極前の一軸配向HApの誘電率、ヤング率、電気絶縁性などの基礎物性の評価も行った。誘電率の測定についてはHAp結晶膜の両面に電極を設け、LCRメータで静電容量を測定し、電極面積と電極間距離から計算により求めた。ヤング率の測定はナノインデンテーション法を活用し、圧子の押し込み荷重と変位から求めた。いずれの値も、文献で報告されている従来の多結晶HApとは異なる値を示しており、一軸配向した結晶体の特徴を反映しているものと考えられる。電気絶縁性については、まず一般的なマルチメータによる抵抗測定を行い、その測定限界である最大抵抗の100MΩを超えていることを確認した。次に、前述の表面電位測定法を適用することで、その動作確認も兼ねて実施した。コロナ放電により試料の上面に電子を与え、電子の供給停止後に帯電した電荷量の時間変化を非接触の表面電位計で計測した。その結果、HAp膜内に連続的な電流が流れるパスは存在しないものの、非線形抵抗を示し、不純物や欠陥等を介してホッピング伝導していることを示唆する結果が得られた。これはエレクトレットの性能を低下させる原因となりうるため、結晶成長プロセスにおいても改善が必要であるという指針が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
初年度は上記のように、当初計画に沿って遅延なく実施することができた。2年目となる本年度は、昨年作製した分極装置を用いて一軸配向HAp結晶膜に電荷を固定する実験を行う。過去に例がない実験となるため、参考にすべき印加電界と処理温度の組み合わせがなく、実験の条件が極めて多くなることが予想される。試料内に固定された電荷密度の評価は山形大学で行うため、その連携を一層深めて効率的なデータ収集を行うことが求められる。また、昨年の分極前のHAp結晶に対する基礎物性評価で明らかとなった、ホッピング伝導による電気絶縁性の低下も将来的に改善しなければならない。したがって、上記の電荷固定の実験と並行して、スパッタリングによる結晶成長法についても、結晶内の欠陥を減らすための検討を行う必要があると考えている。
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