研究課題/領域番号 |
22K04733
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分26040:構造材料および機能材料関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
鈴木 茂 東北大学, マイクロシステム融合研究開発センター, 教授 (40143028)
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研究分担者 |
熊谷 正芳 東京都市大学, 理工学部, 教授 (20582498)
佐藤 成男 茨城大学, 理工学研究科(工学野), 教授 (40509056)
谷本 久典 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (70222122)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 振動解析 / 磁歪材料 / 磁区構造 / エネルギーハーベスティング / 電磁誘導 / 磁気弾性効果 / 振動 / 弾性異方性 / 鉄合金 |
研究開始時の研究の概要 |
機能性の強磁性鉄合金は、特異な磁気弾性等の異方性のために外的振動に対して複雑な応答性を示す。これらの合金はアクチュエーターやセンサーの動的デバイスへの応用が期待されているが、その応答性については不明な点が多い。例えば、動的デバイスの応答性等に関する研究では鉄合金の振動発電は逆磁歪効果によるとされていたが、実際には多重的な強制振動や減衰振動が起こり鉄合金の異方性も考慮する必要がある。本研究では強磁性鉄合金における複雑な応答性の解明に向け、外場印加による動的緩和解析、格子ひずみ評価、有限要素解析等を駆使した多面的解析により応答性に優れるデバイス構造体について検討する。
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研究実績の概要 |
大きな磁歪を示す鉄-ガリウム合金単結晶などを用いた振動エネルギーハーベスティングの発電機構を理解するために、機械的に振動する一定形状のデバイスの異なる位置に設置した結晶における動的ひずみを、数値シミュレーションなどを用いて検討した。シミュレーションにおいては、運動方程式に基づいて合理的な条件下での数値を見積もった。それらの結果を、実際の振動実験によって得られた結果と比較することにより、時間とともに変化するひずみの振幅や位相が位置に依存し、合金単結晶の方位にも依存することを示した。これにより、幾つかのパラメータが起電力に発生に影響することなどを示した。また、磁気光学的なカー顕微鏡法を用いて、磁場印加に伴う鉄-ガリウム合金単結晶表面での磁区構造の変化を観察した。それらの結果は、印加磁場の大きさによって明暗のコントラストが変化し、特徴的なブロッホ磁壁で囲まれた磁区構造を取ることを示していた。印加磁場が小さい場合には縞状の磁区が支配的であるのに対し、飽和磁化に近づくと磁場方向に配向したランセット磁区が観察され単一磁区へと変化することを示した。また、一方向の磁場における磁区パターンは、その反対方向の磁場で観察される磁区パターンと必ずしも同じではないことが示した。これらのことは、磁区構造の変化に伴う不均一な弾性ひずみが、単結晶中において不均一に進展することを示唆していた。さらに、振動に伴う磁石による磁場界変化の過程を有限要素法により見積もり、変動磁場よる電磁誘導が重要な役割を演じていることを解明した。これらは振動エネルギーハーベスティングに関する基本的知見であり、鉄-ガリウム合金単結晶だけでなく一般的な軟磁性材料や磁歪材料にも適用することができる。特に、変動磁場に応答する磁区構造や磁壁移動などがエネルギーハーベスティングの重要な因子であることなどを提示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画通りに、磁歪式の振動エネルギーハーベスティングの発現機構の解明に向けて、基本的な課題に取り組むことができた。特に、鉄-ガリウム合金単結晶を用いた基本的な研究から、比較的単純な磁化過程や磁歪特性を明らかにすることができた。それらの合金単結晶を用いた研究では、外部磁場による磁区構造の変化(ブロッホ磁壁の移動など)、振動エネルギーハーべスティングにおける発電機構等に関係した重要な知見を得ることができた。今年度は、軟磁性材料や磁性材料を用いた振動エネルギーハーベスティング分野における幾つかの要素課題の解決に向け、多面的な解析を行ってきた。これらの解析においては、機械的振動の解析、特徴的な磁区構造観察、有限要素法による三次元的な磁束密度変化の解析、磁気ひずみ(磁歪)に関係する残留応力の評価などを行ってきた。その結果、この分野で残されていた複雑で複合的な課題をかなりのレベルまで解決することができた。最近では、環境発電(振動エネルギーハーベスティングもその一つ)の分野ではこれらの合金等での逆磁歪効果が過度に強調される傾向があったが、逆磁歪効果は本来外部磁場がない状態で外力により起電力や磁束の発生が起こる現象であり、その考え方だけでは十分でないことを指摘してきた。本研究では、特定の結晶方位をもつ鉄-ガリウム合金単結晶では、磁場がない状態でもある程度の起電力を発生し、外部磁場によりさらに起電力が増加することを明らかにしてきた。これらの一連の研究結果をもとに、実験的にも理論的にも磁場変動による電磁誘導が、エネルギーハーベスティングにおいて大きく作用していることを解明することができ、当初の計画以上に研究が進展したといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、軟磁性材料や磁歪材料を用いた振動によるエネルギーハーベスティングの分野での一連の研究を行い、磁歪式振動発電(エネルギーハーベスティング)における外部磁場の変動による電磁誘導が大きな役割を演じていることを明らかにしてきた。個別の研究においては、それぞれの分担研究者と上手く連携しながら、各研究者が専門とする分野を展開させることができた。例えば、強制振動や減衰振動の下における合金単結晶の磁気的な方位依存性を考慮した振動解析、振動する磁場による三次元的磁束密度変化の有限要素法による解析、弾性率の結晶方位依存性の効果の評価等、振動発電に関わる基本的な知見や手法を構築してきた。今後の研究としては、単結晶の異なる方位をもつ試料を装着したデバイスでの振動特性、異なる磁歪特性を示す材料での磁気特性、それに関係した磁区構造、磁歪と対応する残留応力等について課題が残されている。さらに、特定形状の振動デバイスやフレームの材質等は全体的な振動に影響を及ぼすため、全体的エネルギ-変換向上のためにそれらも考慮する必要がある。これらの課題に対する取り組みにおいても、多面的な視点が必要である。各研究で得られた結果を包括的に検討することにより、演繹的な結論を導き出すことができるので、それらの知見などを振動発電デバイスの設計や制御に活用する計画である。
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