研究課題/領域番号 |
22K04853
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分28010:ナノ構造化学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
八田 英嗣 北海道大学, 情報科学研究院, 助教 (90238022)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 水面上単分子膜 / 等温線 / ブリュースター角顕微鏡 / マイクロドメイン / ナノクラスター / サイズ階層性 / 線張力 / 相転移 / 2相共存領域 / ドメイン / 成長階層性 / 階層性 |
研究開始時の研究の概要 |
水面上単分子膜の1次相転移過程をナノサイズスケールでのクラスター成長過程という観点から理解するために巨視的測定量である表面圧(π)-1分子占有面積(A)曲線データに対する統計力学的デコンヴォリューション法により平均ナノクラスターサイズの表面圧依存性を得る。同時にブリュースター角顕微鏡による単分子膜ドメインの観察を行なうことによりミクロンサイズスケールでのドメイン成長という観点からも評価を行う。以上のように水面上単分子膜の1次相転移過程を異なる空間スケールで同時に評価・検討を行うことにより水面上単分子膜の膜成長過程に対して異なる空間スケール間での階層間成長という新たな視点から知見を得る。
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研究実績の概要 |
令和5年度は令和4年度に行ったミリスチン酸水面上単分子膜における異なる温度での1次相転移過程の表面圧-1分子占有面積曲線、ならびにブリュースター角顕微鏡によるマイクロサイズのドメイン観察という2つの同時測定データについて詳細な解析を行った。その結果、熱力学的クラスター方程式を用いたデータ解析を行うことにより、1次相転移過程で形成されるナノサイズクラスターの表面圧依存曲線の温度依存性を取得することができた。また、ブリュースター角顕微鏡画像と等温曲線との対応関係を詳細に比較検討することにより、低温領域での1次相転移過程ではブジュームと呼ばれる特徴的なトポロジカル欠陥を有する円形ドメインが転移領域の広い範囲で観察されること、また、転移の後半から終段階にかけては、異なるトポロジカル欠陥であるストライプドメインが多数形成された後、均一コントラストを有する液体凝縮相が得られることが見いだされた。一方、高温領域でのドメイン成長は低温領域でのドメイン成長過程と大きく異なる振る舞いを示すことが見いだされた。すなわち、等温曲線から見積もられる1次相転移の進行度がほぼ同じ地点で高温領域でのドメイン形状は低温領域と同様に円形ではあるがドメインサイズは明らかに小さくなり、低温領域で観察されるような特徴的なトポロジカル欠陥は観察されず、多くのドメインは均一なテクスチャーを有し、少数のドメインが単純な直線状、あるいはキンクを有する線欠陥を示すのみであった。以上のドメインサイズ、及び、ドメインテクスチャーの温度依存性は本研究で取得されたナノクラスターサイズを用いて評価されるナノクラスターの異なる温度での2相境界の線張力比を用いてよく理解されることが示された。上記の測定・解析結果をとおしてナノ・マイクロサイズスケールという2つの異なるサイズ階層間での水面上単分子膜の成長相関について非常に重要な知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、ナノ・マイクロという2つの異なるサイズスケールにおいて水面上単分子膜の1次相転移過程の同時評価を行うことにより、水面上単分子膜における1次相転移の振る舞いを異なるサイズ階層間での成長相関という観点から理解する、という水面上単分子膜の成長過程を理解するための新奇なアプローチを確立することを目的としている。これまでの2年間での研究遂行により、等温曲線データとブリュースター角顕微鏡観察像の同時取得が後のデータ解析のために十分な精度で行うことができたと考える。実際、これらのデータを詳細に解析・検討することにより、水面上単分子膜の1次相転移過程についてナノスケールでの情報としてはクラスター方程式を用いることにより、ナノサイズクラスターの表面圧依存性を異なる温度で取得することができた。この結果から単分子膜の温度増加に伴い、転移中間点でのナノクラスターサイズ、ならびに単分子膜の密度揺らぎが大きく増加すること、さらにはこのナノクラスターサイズの温度依存性を用いて温度変化に伴う線張力比を得ることができた。また、この異なる温度間での液体膨張相・液体凝縮相の2相境界線張力比を用いてブリュースター角顕微鏡観察で得られたマイクロメートルスケールでのドメインサイズ、及び、ドメインテクスチャーの温度依存性を理解することが可能であることが示された。以上のプロセスをとおして、水面上単分子膜の1次相転移(結晶成長)過程をナノ・マイクロという2つの異なるサイズスケール間での成長相関をとおして理解するための非常に有効な手法が確立できたものと考えられる。以上の研究成果については、学会で3件(国際学会1件、国内学会2件)、国際ジャーナルに1報、報告を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後、本研究をさらに推進するにあたり、これまでに確立した水面上単分子膜の1次相転移過程をより基本的な観点から理解するためのナノ・マイクロサイズスケール間での階層成長相関アプローチの有効性についてさらに実証を行うことを試みる。このことに関しては、これまでに非常に小さなマイクロサイズドメインの形成しか報告されていない単分子膜物質であるミリスチン酸と同一鎖長の脂質であるDMPC単分子膜に対して、これまでに本研究で確立した手法を用いることにより、この単分子膜の1次相転移過程で形成されるナノクラスター・マイクロサイズドメインについて階層的な成長相関の観点から検討を行う。この過程をとおして、DMPC単分子膜の1次相転移におけるマイクロドメインのサイズ成長が抑制される可能性について検討を行う。またこのことと並行して、これまでのブリュースター角顕微鏡によるマイクロサイズドメイン観察の過程で見いだされている、非常に興味深いドメインテクスチャー転移について、上記と同様の異なるサイズスケール間での階層成長相関的アプローチによる解析を試みる。以上の研究過程をとおして、水面上単分子膜の1次相転移過程、さらには、その過程において形成されるドメインテクスチャー転移に関して、広いサイズ領域にわたる階層的成長相関による解析アプローチの有効性の実証を試みる。
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