研究課題/領域番号 |
22K04903
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分28050:ナノマイクロシステム関連
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
堺 立也 川崎医科大学, 医学部, 講師 (00309543)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | ウイルス / インフルエンザ / 行動解析 / 運動 / 感染行動 |
研究開始時の研究の概要 |
これまで我々は,インフルエンザウイルスが独自の運動機構を持つこと,さらにウイルスが自らの位置情報を記録および検出する能力(情報処理能力)を持つことを明らかにした.ウイルスは,これらの運動・情報処理能力を駆使し標的となる細胞に到達すると考えられるが,運動・情報処理の分子メカニズムはわかっていない. 本研究では,ウイルスの運動・情報処理能およびそれを産み出すウイルスタンパク質の機能の比較解析をおこない,運動・情報処理の分子メカニズムを明らかにする.さらに人為的にウイルス運動・情報処理能を制御し,自律的に標的細胞を探査し感染する標的探査型ウイルスナノマシンの開発を目指す.
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研究実績の概要 |
インフルエンザウイルスの感染行動の解析とリバースジェネティクス法によるウイルス作製をおこない次の1,2の成果を得た. 1. 人工細胞表面におけるウイルス行動の解析と分類.インフルエンザウイルスの受容体であるα2,6型あるいはα2,3型シアロ糖鎖をガラス表面に固定することで細胞表面を模した人工表面を作製した.この人工表面でのヒトあるいはミズドリを宿主とするインフルエンザウイルスの感染行動(運動)の解析をおこなった.その結果,ヒトウイルスはα2,3型シアロ糖鎖固定表面でよく運動し,α2,6型シアロ糖鎖固定表面では動かなかった.一方,トリウイルスの運動パターンはウイルス株により様々であり,ヒトウイルスに近い運動パターンの株も存在した.ヒトウイルスに近い運動パターンのトリウイルスの存在は,自然界のミズドリ内にすでにヒトへの感染の可能性を持つウイルスが存在することを意味し,新型インフルエンザウイルスの出現メカニズムを理解する上で重要である.さらにヒトウイルスに近い運動をおこなうトリウイルスの中には,方向性を持った運動をおこなうウイルス株が存在した.ヒトウイルスの運動はランダムであり,これらのトリウイルスはより高次の運動制御メカニズムを持つと考えられる. 2. リバースジェネティクス法によるウイルス作製.方向性を持った運動をおこなうトリウイルスのヘマグルチニンとノイラミニダーゼ遺伝子をもつインフルエンザウイルスをリバースジェネティクス法により作製した.作製したウイルスは,元のトリウイルスより運動性は劣るものの方向性を持った運動をおこなうことが確認できた.これによりヘマグルチニンやノイラミニダーゼに変異を導入することで人為的に運動を操作することが可能になり,標的の細胞に遺伝子や薬剤を運ぶ探査型のウイルスナノマシンの作製への応用が期待できる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究の計画からみて,若干の遅れはあるもののおおむね順調に研究目的は遂行されていると考えている. ①ウイルス行動の解析と分類については,インフルエンザウイルス受容体であるα2,6型あるいはα2,3型シアロ糖鎖をガラス表面に結合させることで細胞表面を模した人工表面を作製した.この人工表面を使いヒトおよびミズドリを宿主とするインフルエンザウイルスの感染行動(運動)の解析をおこなった.その結果,トリウイルスの中に運動性だけでなく運動の方向性を持つウイルスが存在することが明らかになった.一方,ヒトウイルスの運動はランダムであった.トリウイルスの中により高度な運動制御機構をもつウイルスが存在することが明らかになった. ②運動制御機構を持つウイルスの作製については,①で見つけた高度な運動制御機構を持つトリウイルスのヘマグルチニンとノイラミニダーゼを持つウイルスをリバースジェネティクス法により作製した.これによりウイルス運動の人為操作が可能になった. ①②は,今後の運動様式を変更・調整したウイルスナノマシンの作製にとって基盤となる知見・技術であり,現時点での研究の成果としては十分であると考える. 一方,ヘマグルチニンとノイラミニダーゼの機能解析については,ヘマグルチニンとシアロ糖鎖の結合解析に若干の遅れが生じた.これは,コロナ禍の影響で一部の消耗品の納入の遅れや研究協力者からの技術的なサポートが受けられなかったことが原因である.ただこの点に関しては,今後の挽回が十分可能であると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
リバースジェネティクス法で作製した方向性を持った運動をおこなうウイルスをフレームワークにして,ヘマグルチニンとノイラミニダーゼの活性部位に変異を導入することで運動を人為的に操作した変異ウイルスを作製する.作製した変異ウイルスの行動パターンを人工細胞表面を用いて測定する.また現在,若干の遅れが出ているウイルスヘマグルチニンとノイラミニダーゼの構造・機能解析を同時におこない,ウイルス行動パターンとヘマグルチニンとノイラミニダーゼの構造・機能情報の統合をおこなう.この工程を繰り返し,変異ウイルスの実際の行動パターンと予想した行動パターンとの差異を検討することで,ウイルス行動パターンの人為操作の精度を上げることを目指す.
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