研究課題/領域番号 |
22K04911
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分29010:応用物性関連
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
岡 徹雄 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 客員研究員 (40432091)
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研究分担者 |
坂井 直道 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (00415936)
横山 和哉 足利大学, 工学部, 教授 (60313558)
仲村 高志 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 特別嘱託技師 (60321791)
高橋 雅人 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 上級研究員 (60392015)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 高温超電導 / バルク磁石 / NMR / 強磁場 / 磁場勾配 / 拡散係数 / 極低温 / バルク / 超伝導 / 単一 / 磁極 |
研究開始時の研究の概要 |
励磁した高温超伝導バルク磁石が発生する強磁場を利用し、単一のバルク磁極表面の開放空間を使った、試料形状や大きさの制限が少ないNMR装置を開発する。バルク磁極にリング状の磁性板を取付けて、磁極表面の面内磁場分布をNMR信号の検出レベルにまで均一化する。さらに磁極からの距離による傾斜磁場を使って、物質の拡散係数を測定してその変質や劣化が評価できることから、単一磁極による拡散NMR装置とよぶ全く新しい超小型NMR分析装置の実現をめざす。
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研究実績の概要 |
高温超電導バルクが発生する強磁場を測定評価し、片側NMR用の磁石として新たな磁場環境の構築を通じてそのNMR信号を評価した。バルクには日本製鉄製のGd123系(φ60 mmxt20)を用い、パルス着磁(Pulsed Field Magnetization:PFM)を行って、強く定常的な磁場を発生させた。網銅線構造を採用した無振動GM磁極を用い、高磁場からの反復減衰着磁法(IMRA法)に従い、昨年度成果の着磁手順に従い、730Vから580Vへの6回の連続着磁を行った。結果として磁極中央部で、1.73T、周辺部の最大値で1.92Tの磁場捕捉に成功した。これは昨年度と同等の磁場性能であり、着磁の再現性を確認できた。令和5年度には2回のPFMを行い、初回には磁場が平坦な磁極上4mmの位置で、磁極中央部に1.41Tが得られた。2度目には磁極上4mmで1.37Tが得られ、十分に再現性のある磁場分布となった。 NMR信号の検出は、バルク磁石の強い磁場勾配を用いた特徴ある方法で評価した。通常のNMRでのパルス法で得られる磁場勾配は30T/m程度であるが、本研究では84.4 T/mに達し、従来の計測法よりも短い分子移動距離での拡散測定が可能となった。この結果、従来法では不可能であった、全固体リチウム電池内部の粒界や、そのセパレータとなる多孔質フィルタ内部の膜厚方向の拡散が測定できるようになった。また、食用油脂であるチーズの脂肪球と水の分布を計測して、その硬さなどの物性を評価した。これは油脂のカゼインネットワークの変質や劣化が評価できることを示し、さらには生体臓器の移植時期の判断手法となる可能性を示した。これらは単極片側NMRによる非破壊非侵襲の評価測定方法として社会実装が期待でき、令和5年11月開催のNMR討論会で発表済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度の磁場発生とNMR信号検出の成果に基づき、発生磁場と装置全体の安定性を含めてこれらの再現性を評価した。NMR信号の検出プローブ、試料についても、LiClのみならず、フルクトースと水分との分離検出や、油脂など多様な物質での信号検出と拡散係数の測定実績を重ねて、拡散NMRとしての機能獲得に成功した。 令和5年度はPFMによる捕捉磁場の再現性を明らかにする一方で、その強度向上の利点とその際の磁場均一性の確保について、次年度の更なる改良とその課題が明確になった。 応用研究に関する出口戦略として、片側NMRのもつ非破壊非侵襲という特性を生かした応用候補の洗い出しを行ない、NMR機器全体におけるバルク磁石による片側NMRの位置付けを分析するなかで、その特質を明確化させた。この結果、肉製品に含まれる脂肪分の分析や、古い美術品の表面の顔料や色素の劣化分析、油井における原油に含まれる油脂成分の分析などに応用候補の可能性があることを明らかにした。これらはNMR討論会等で広く提案してきた。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度に新規に組み立てた無振動型PFM磁極の稼働を開始し、同じ型式の2つのPFM磁極を立ち上げる。従来からの継続となる固体リチウム電池電極でのイオンの移動度の評価に加え、新たに複数の微細相をもつ有機物の各物質の状態や運動性、生体組織の劣化や複合成分の分布状態、揮発油などオイル成分の状態計測などを行って、応用研究の可能性を広げていく。複数の磁極による種々の試料の同時に並行した計測や、温度条件や圧力環境などのオペランド計測の可能性も検証していく。このためには、計測可能となる均一磁場の空間拡大、ならびに磁場強度の向上に向けた検討が必要であり、令和6年度にこれを検討していく。 この進め方で、研究期間終了後の産業実装への応用候補の絞り込みを行ない、化学系、食品系、分析系企業群との連携を進めていく。一方で、NMR関連の研究分野に供給できる種々の磁場環境の多角化を視野に入れ、バルク磁石よりも弱い永久磁石やハルバッハ配置した磁石との比較研究を行って、バルク磁石の強磁場の優位性や適用範囲を明確に性格付けしていく。 本研究のねらいをさらに基礎研究に広げるため、大型放射光施設SPring-8を利用し、上記の材料をはじめ種々の有機物の磁場中での構造解析を行い、強磁場環境の効用を明確にしていく。 これら磁場環境の比較を通じてPFMバルク磁石の特長を明らかにするとともに、応用目的にあった磁場環境を構築して提案する活動を進める。
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